第54話  逃走

 念のためケイトに短剣、そしてクレールには元々クレールが持っていた剣を渡す。


「何か様子がおかしいな。ちょっと見てこようか」


 3人で部屋を出て外に出ると外の建物の一部が燃えていた。今いる建物はまだ燃えていないが時間の問題であった。


 慌てて部屋に戻り二人にチェーンメールを装着させてもらう。残念ながらケイトとクレールが今着れる鎧がない。サイズが合わないが無理やりクレールに大輔の胸当てをつけさせた。そして部屋の物を一切合切アイテムボックスに入れ、出発の準備をする。ケイトには厚めの革の服があるのでそれを着せ、頭には大輔がつけていたバンダナのような額当てをつけさせる。


 大輔は簡易的なヘルムがあるのでそれを頭に。大輔だけは重武装になる


 大輔はケイトの事が不安で仕方なかった。ケイトがどういう能力を持っているか知らないからである。

 ケイトは奴隷の首輪が外れる事はないと思っており、大輔に封印されている能力が何があるのかを話していない。また、クレールに大輔が一言伝える


「すまないが、君が死んだ時に君の能力を一部を俺が吸収している可能性がある。それを踏まえてここを脱出するんだ。それと俺に対して思う事があるとは思うが、今はそれを脇に置いて3人で脱出する事を考えて欲しい。まず馬を確保しよう。いいね?」


 二人共頷いていた。


 よくは分からなかったが、大輔の直感がこの街に居てはいけない。逃げなければと告げていて、逃げる事しか思いつかなかった。外の状態があまりに良くなかったからだ。


 そしてクレールは


「ああ、今や貴様に恨みは無いぞ。言っておくが私よりも強い男にしか靡くつもりは無いぞ。貴様はまだ私に偶然勝ったっただけだ!あの剣が私の首に当たらなければ私が勝っていた筈なのだ!実力では自分の方が上だと思っている。だがここで意地を張ってはいられないというのは分かるからここは貴様に従って脱出するのに依存はない。あと、私に有った我が一族家に伝わると言われている能力が感じられない。恐らくそれが貴様に移ったので有ろう。戦闘力はその分弱くなるが、闘技場で見せた力位は十分だけは出せる筈だ。一応言っておくが、命を助けてくれた礼とその、なんだ、胸を綺麗にしてくれた礼はちゃんとするつもりだ。礼としてか、体を求めるなら、し、従おう。ただしだ、心までくれてやる気はない。実力で私より強いと私が認めれば心身共貴様の女になってやる」


 大輔は二人の頭をポンポンと叩き行動開始となった。クレールは混乱から立ち直ると饒舌になったが、舐められまいと気を張っているだけの様に感じで苦笑いをしていた。クレールへは大輔とケイトのどちらかが危機に陥った場合は、基本的には大輔を助けるようにと。ケイトとクレールが同時に死なない限り大輔の力で生き返らせてあげる事ができるから蘇生能力を持っている大輔の命を最優先するように伝えてある。


 クレールも大輔が自分が生き残りたいが為に他者を犠牲にするのではなく、蘇生の力があるから優先して欲しいと言っているというのが十分理解できた。


 装備が整い建物を出ると矢が飛び交っていて、大輔の近くにも矢が飛んできた。大輔は剣で振り払いケイトを守るようにして馬房を目指す。闘技場の周りでは多くの者が戦っており、異国の兵と思われる者達が攻め入っているように思えた。クレールが顔を青ざめ、隣の国グランザ国の兵だと言う。


 大輔は当然の如く地理や社会情勢に疎いので、近隣の国の状況等分かる筈もないが、今の状況が戦争に巻き込まれているのだとなんとなく判断していた。


 詳しく質問している暇もないので、とにかく脱出する為に馬房を目指していたが、どこからともなく大型の馬が2頭現れた。1頭は大輔の馬で、もう1頭はクレールの馬だった。今は大輔達の所に来て、各々の主の顔を舐めまくっていた。


 大輔はクレールにケイトを託した。


 そして地理が分からないのでクレールに先頭を任せ、後ろを大輔が守る形で出発していく。大輔の馬にはランスがくくりつけられており、大輔はランスを手に取り進んでいく。クレールが思うように進めないのが分かり、前と後ろを入れ替わり、大輔が先頭で血路を開く事になった。


 大輔は必死に、それこそ修羅の如く攻撃している。ただ大輔は非常に戦いにくかった。理由は簡単で、相手を殺すとその能力が大輔の所に一部もしくは全てが移って来るが、その時に大輔は雷に打たれ一時的な時間停止に陥り、思考だけが動く。そういう状況になるからだ。ちゃんとどんな能力かは分かっていない。何人位倒しただろうか。ふとランスを途中で止めた。ガラグがいて当たる直前だったからである。近くにはギランやトーマスがいてやはり彼らも武器を調達しており必死に町を出る為に血路を開こうとしていた。大輔はガラグに声をかける。周りには座の者が数名いた。


「ガラグさんこっちだ。一緒にここを突破しよう!」


「おお!坊主生きていたか。よし坊主達と共に行こう。見慣れぬ女を連れているな。皆生きてれば良いが、今ここで生き残っている者でここを突破しよう」


 そうして街の門の所まで来たが既に敵兵が待ち構えている。街の外に誰も出さないようなそういう人数である。大輔はふと思い出した。そういえば炎系統の魔法を持っていると。そう第3戦目のダグラス戦の時に奪った能力である。そこで頭上にファイヤーボールをイメージし、魔力を込めると直径1.5メートルほどになり、異様な熱を放っていて周りの者が息を飲んでいた。どうやってか分からないが出し方がわかるのである。大輔はこれを正門の方に飛ばす。するとそこにいた筈の数十人の敵兵がいなくなり、大輔は暫く硬直する。と言っても時間が止まっているので周りも全て止まっているのだが。


 ふと周りを見るとクレールの馬の上に乗っているケイトが大輔に近づく者に対してアイスアローを仕掛けていた。そう、ケイトは水系の魔法が使えるようであった。そうして一時的に無防備になった門を通って大輔達は街の外に脱出するのであった。

 

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