第29話  初戦闘

 二時間はあっという間だった。最後の一時間は休憩と戦闘衣装への着替えの時間であった。大輔は真っ白な戦闘服を着させられた。理由は血が目立つからだった。


 実剣を選ぶがブロードソードでも重くきつかった。なので、細剣であるレイピアを選んだ。剣を受け止めると折れるぞと言われ、受け流す様にアドバイスを貰う。回りには屈強な奴らが稽古をしたり、武器や装備の手入れをしていた。


 心の準備が出来ていないが、奴隷の首輪がある以上従うしかないと理解はしていた。


 大輔は納得がいかない。日本にいてたのに突然転げて気絶し、気がついたら剣闘士にさせられているのだ。しかも奴隷になっている。名前は何故かダイスと呼ばれた。どうやら負け決定で強者にいたぶられての殺され役になるらしく、死にたくないとオロオロしていた。


「なあ、何で俺をダイスって呼ぶんだ?」


「ああ?お前が握っているダイスだが、後生大事に気絶していても離さなかったからだよ」


「ああ、確かにこれはダイスだ!成る程。じゃあ、俺はダイスだと名乗れば良いんだな!」


「生意気だが物分かりが良いじゃないか。俺の指導が無駄にならんよう頑張れ。戦いの行方を占うのに折角のダイスを振らんのか?」


 大輔は云われるがままにダイスを転がす。言われたのもあるが、何故かダイスを振らないといといけないと思ったのだ。ダイスを転がすと出た数字は5である。


 頭の中にアナウンスが響き、「ラッキー度5、プチラッキーを引きました。次にダイスを回すまでの時間は1分です」


となぜか頭に響き渡った。


 今は闘技場の中に入ろうとしていた。大輔達がいた小汚い部屋とは通路を隔てて入ることになるが、闘技場の全貌が分かるような位置関係にいない為に、どれぐらいの大きさなのかは見当がつかなかった。そうして中に入ろうとしていると何かが上から落ちてきた。拾った所


「ラッキーだな。それは心臓を守る防具だな。しかもかなり高いやつだぜ。ちょっと待ってろ。今着けてやる」


 そうやってガラグは服の下に着けてくれた。皮鎧も俺は禁止らしく、許可されるのは精々落ちてきたような胸当て位だが、普通初戦の奴は持っていない。武器だけは貸し出される。1勝したら鎧は許可されるらしい。


 今は控室?にいる。

 大輔は妙に落ち着いていたが、ドアが開き兵士のような者が現れ


 「小僧出番だついてこい」


 死刑執行人が宣告に来たとしか大輔には思えなかった。

 多分今いるのは異世界だろうと感じていた。それは猫耳?いや犬顔の者がいるが、本当に犬の顔をしていて、作り物や仮面というものではなく、本物と分かる者達がいるのだ。地球にはそういう者はいない。なので大輔はなぜそうなったかはともかく、日本から遥かに離れた所にいるというのは目を覚ましたとたんに理解はしていた。


 どうして自分がこういう事になっているのか?その謎について考える余裕はなかった。


 ただひとつ言えるのは自分が奴隷にされ、命令に従わないと死ぬほど辛い思いをし、最悪の場合息ができなくなり死んでしまうという事である。


 正直闘技場なんかで戦いたくはない。しかし戦えと命令をされている以上、逆らえば死が待っている。戦って死ぬか戦わずして悶え苦しむか。どうせなら自分の手で運命を切り開きたい。そう思って闘技場に挑んで行く。


 案内役の者が言う。


「 ここで扉が開くのを待つんだ。扉が開いたら中央に行きそこで相対する者と向き合え。そして司会の者が始め!といったら戦闘の始まりだ。一応降伏は認められるが、 対戦相手が拒否した場合は戦闘の続行で、どちらかが戦闘不能になるまで続けられる。しかも戦闘不能にならなかった方に生奪与奪権があるから、気絶してしまった後に司会が相手に勝利宣言し命を助けられるか、情けを掛けてくれて勝利宣言をするか、首を切り落とされるかは対戦相手次第だ。以上で説明は終わりだ」


 と言うと無情にも扉が開き闘技場の中が見える。大輔が中々中に入ろうとしないので 案内人が大輔の背中を押して来た。


 大輔は押し出されれ闘技場の中に踏み込まされた。中央には既に対戦相手と思われる派手な服を着たイケメンな奴がいた。そして司会が 宣言を始める。


 大輔は感じる。ここは映画などで見る コロシアムというやつだと。内部の大きさは400mトラックと遜色のない広さだ。丸型ではなく楕円形の闘技場で、観客はおそらく1万人位になるであろうと思う。そしてメインスタジアムような場所に、おそらく貴族や王族などの金持ちなどの為の VIP席があると思われる。


 一瞥しそう感じたのだが司会が


「 レディースアンドジェントルマン。さあ待ちに待った本日のセミファイナルです 。主役は破竹の勢いのイケメン王子こと血まみれのダリルだ。そして今日の相手は 無名の新人ダイス君だ。さあ皆さんもう既に掛けたかな?なんとこの不幸なダイス君が勝ち残り、ダリルが倒れるオッズは100倍だ!そしてダリルが死ぬのは1万倍だ!掛ける奴はいないか?いないか?いるわけないようだな。ダリルの負けに掛けるのはダイスの座長以外はいないようだな。 両者見合って。それでは」


 そういったところで 先のイケメン王子と言われたダリルという者が両手を掲げ観客を煽っていた。司会は無視をし、始めと声をかける。そう、始めと。


 しかし 大輔は一歩を踏み出せずにいる。左手に盾、右手にレイピアという出で立ちだ。


 対するダリルというのはどうやら鎖帷子を着ているようだ。それも派手派手しい布を上からかけている。


 剣の方も装飾のされたブロードソードを装着していた。そして大輔に背を向け、観客の方に向けて相変わらず手を上げて叫けんでいた。


「やあ俺の恋人達! 今日も俺の華麗な闘いを見て、俺の事を褒め称えるんだ!さあこいつが何撃耐えられるかな?おいおい坊主ちびるなよ!俺にてめえの汚ねえションベンかけるんじゃねーぞ。 かけたら楽に死ねると思うなよ」


 ダリルは 余裕ぶって剣を鞘に収めたまま大輔に近づき挑発している。大輔は今踏み込めば確実に死ぬと認識し、踏み込めずにに震えていた。先程までは運があればなんとかなると高を括っていたが、相手の立ち居振る舞いや余裕からくる雰囲気、強さに飲まれて完全に蛇に睨まれた蛙状態であった。そして戦いは無情にも始まるのであった。

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