第30話  失禁とまさかの展開

 ダリルが不適な笑みを浮かべながら大輔に短く言葉を掛ける


「簡単に死ぬなよ。でもさようなら」


 大輔は恐怖で頭を抱えつい踞った。すると先程まで頭があった所を剣が空を切る。


 髪の毛が数本、宙を舞う。

 しれっと剣を振り抜いたのだ。


「ちっ偶然とは言え躱わしやがったな。あーあ初撃を躱わしたから賭けに負けた奴が沢山出たぞ。ほら観客を見てみろ。わめいている奴がそうだ。武器を拾って掛かってこい。」


 余裕からか大輔が武器を拾うのを待っていた。大輔が武器を拾う時にダイスが落ちた。91だ。

「ラッキー度マイナス1アンラッキー。インターバルまで1分」

とアナウンスのような謎のメッセージが出た、と言うか聞こえた。


 大輔は剣を拾うと一気に距離を詰め、駄目元で剣を袈裟掛けに振るう。


「ほう。意外と瞬発力だけは有るじゃないか。だがまるで素人だな?そんなの当たるかよ!」


 空を切った剣に引きずられてバランスを崩す。


 しかし、ダリルの頬に一筋の血が滲む。偶然かすったのだ。


 ダリルの顔が怒りに歪む


「てめえやってくれたな。少しは見所が有りそうだから殺さないでやろうと思ったが、予定変更だ!てめえは赦さねえ!ぶち殺す」


 怒りに任せ剣を振ってきたが何とか受け流したのは良いが、蹴りを喰らい吹き飛ばされる。手をついて立ち上がると手には何故かまたダイスが有った。


 ダリルが剣を振ってきて、思わずレイピアで受け止めてしまった。


 負荷に耐えられずパキーンとレイピアが半分位で折れた。折れた剣先は地面に落ち、砂に覆われる。


 大輔は逃げ出した。奴の形相と殺気に恐怖したのだ。


 ダイスを落とすと95が出た。不幸度5中です。インターバルまで1分と


 必死に闘技場を駆ける。大輔は足が早いし、軽装だった。しかし、ダリルは苛立ちながらもゆっくり大輔を追う。


 大輔はまたダイスを拾う。拾った直ぐに落としてしまうと今度は25だ。どうやら1~90と100がラッキーで、91~99が不幸らしい。ラッキー度中と聞こえたのだ。


 大輔が逃げるので更に距離が開く。観客からはブーイングの嵐だ。大輔はそうやって息を整える時間を稼いでいた。大輔は恥も何もない。既に恐怖で失禁していて生き延びるのに必死だった。地面に何かあった。足で踏んだ時に違和感があり、地面を手で掻き分けると小振りな短剣と言うかナイフが出てきた。そっと懐にしまう。今のラッキーはこれだったようだ。


 不意にダリルが立ち止まり右手をあげると入り口から兵士達がぞろぞろと入ってきて集まり出した。そして大輔を囲むように円陣を組み出し、その中にダリルも入ってきた。段々径が小さくなる。これで逃げられない。直径10m位になったのだ。まさに肉の壁だ。


 恐怖でダイスを落とす。100が出た。


 「ラッキー度マックス。一度大不幸を引いているので今回から100は大ラッキーになります。インターバルまで1分です」

と聞こえてきた。


 ダリルが大輔の手を叩き剣を弾く。剣は宙を舞い、地面に空いた穴に柄から刺さる。そして剣でなぶり出した。あちこちを切られ、左手は掌を貫通する。幸い骨と骨の間だった。


 剣は簡単には引き抜けなくなってしまった。残るは短剣、ナイフと盾だ。なんとか致命傷を躱し、盾で受け流しながら時計回りに後ずさるが


「てめえ、ちょこまかと逃げやがって目障りだ。また逃げられても面倒だから一気にけりを付けてやる。死ね」


 一気に駆け出すが、急に滑って後ろに倒れる。先程折れてに砂に埋まった剣先を踏んで滑ったようだ。



「ぐは」


 背中から地面に叩きつけられたが、腹から血が吹き出していた。腹からは折れた剣先が見える。


 どうやら先程吹き飛ばされた剣に背中からダイブしたようで、見事に刺さった。


 大輔はダリルが落とした剣を拾い、剣を突き刺しにかかる。しかし、咄嗟に腕でガードし、かすり傷を負わすに止まる。


 会場は騒然としていた。


 ダリルが瀕死だからだ。

 ダリルは口から血を吐きだしながら


「降参だ。頼む助けてくれ!俺の敗けだ」


 大輔は赦した訳ではないが、殺せなかった。殺す度胸が無かったのだ。


「分かった。降参を受け入れる。この剣は貰っていっても良いよね」


 軽い良い剣と分かる。


 ダリルは必死に頷いた。

 司会兼審判の大輔の勝利宣言がまだないからだ。


 包囲していた兵が道を空けた。入り口に向かえると判断し、大輔はブーイングの嵐の中出入り口に向かい出したら司会が


「まさかのダリル敗退!勝者ダイスううう!大番狂わせだぁぁ!」


 勝利宣言だ。漸く終わったと安堵し大輔は歩いてた。


 そしてまた何かを踏んだ。それを拾おうとかがんだ時に、観客から怒声と悲鳴が聞こえた。踏んだのはまたダイスだ。すると背中に衝撃が走り、目の前に血まみれのダリルが吹き飛んで行った。そして頭から地面にダイブしていた。恐る恐る見ると首があらぬ方向に曲がっていたのだ。そしてその瞬間、小さな雷が大輔に落ち、大輔は一瞬トリップした。


「 スキルを咀嚼し再構築します。完了まで24時間」


 と聞こえた。司会が


「おっとダリルさん自爆だー!これは頂けない。相手の勝利宣言後の攻撃は大罪ですぞーってダリルさん?おいおい、動かないぞ!どうした!」


 大輔は恐る恐る近づき仰向けにする。首が折れていて目が見開いたままだ。そう、ダリルは首の骨を折り即死だった。


 大輔は念の為首の脈を確かめて首を振り、手をクロスさせた。


 兵も駆けつけやはり同じように腕をクロスさせた。


「なんとダリルが、血塗られ王子が死んだと!しかも相手を不法に襲って自爆死だ!情けないぞ!規定によりダリルの財産はなんと大輔に渡されるぞー。彼は奴隷だから半分は奴隷主だが、解放時半分貰えるラッキーピエロだ!」


 大輔はぼーっと聞いていたが、同じ剣闘士の一座のメンバーが駆け付け、肩を貸して貰いながら闘技場を後にした。間もなく大輔は安堵と失血と痛みから意識をなくすのであった。

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