女性に優しくする理由は、男にはいらない。――3

「ユーは『ベンジャーレイス』! クロは『アブソーブウィスプ』! マルはしばらく待機!」

『ムゥ!』

『ピィッ!』

『キュウ!』


 この戦闘の目的は、4人にファイアードラゴンの手の内を見せること。短期戦で一気に終わらせては意味がない。


 そのため、ユーのスキル構成は、速攻必殺の『バーサクリバスト型』ではなく、専守防衛・報復攻撃の『ジャーレス型』だ。


『疾風の腕輪』の『先制効果』により、すぐさまベンジャーレイスが発動する。


『ムゥッ!』


 ユーがロングソードを掲げ、ユーと瓜二うりふたつな姿をした、無数の小さな幽霊が周りに現れ、現れたそばから姿を消した。


『報復攻撃』の準備は完了だ。


『ピィ……ッ!』


 続いて、クロが体をたわめて力を溜める。


 HP吸収効果のあるスリップダメージ。クロの戦法の根底をなすアブソーブウィスプの、準備モーション。


『キュウ……』


 ただ一匹、マルが所在しょざいなさげに肩をすぼめていた。


 スマン、マル。レベルやステータスを考慮こうりょすると、お前が『アーマータックル』をぶち込んだら、ファイアードラゴンは一撃で倒れちまうんだ。


 あとで、お前の『ガーディアンフォース』に頼る機会もあるだろうから、それまで待っててくれ。


『GYYYY……!』


 ファイアードラゴンも動いた。鋭い牙が並んだ口を開け、大きく息を吸い込む。


『20%の確率で、相手のSTR、INTを20%減少させる』追加効果を持った物理攻撃スキル、『ブレイクロアー』の準備。チャージタイムは5秒だ。


『ピィッ!』


 ブレイクロアーのチャージタイム中に、クロのアブソーブウィスプが発動した。


 クロの体から浮かび上がった、紫色の火の玉が、ファイアードラゴンにまとわりつく。


『GYYYY……!』


 ファイアードラゴンの双眸がクロに向けられた。ヘイトを稼いだことで、ファイアードラゴンのターゲットがクロに定められたんだ。


 このままではクロが攻撃されることになり、ユーのベンジャーレイスが無意味になってしまう。


 だから、俺は対処した。


「クロ、ユーの後ろに移動!」

『ピィッ!』


 クロがぴょんこぴょんこと飛び跳ねて、ユーの背後へ移動する。


 これで、並びが『ファイアードラゴン → ユー → クロ』となり、ファイアードラゴンの攻撃がユーに当たるようになった。ユーをクロの盾にするポジショニングだ。


『GYYYAAAAAAAAHH!!』


 チャージタイムが終了し、ファイアードラゴンが雄叫びをとどろかせた。


 ブレイクロアーの発動。雄叫びが衝撃波となり、ユーに襲いかかる。


「『エクスディフェンス』!」

『ムゥ!』


 即座に俺は指示を出し、ユーがロングソードを盾のように構える。


『30秒間、どんな攻撃を受けてもHPが減らない「防御態勢」となる』スキル、エクスディフェンス。


 これで、ブレイクロアーがユーにダメージを与えることはない。


 衝撃波がユーを襲う。


『ムゥ!』


 ユーは無傷で衝撃波を耐え――先ほど姿を消した小さな幽霊たちが、ファイアードラゴンの周りに現れた。


『『『『『『ムゥ――――ッ!』』』』』』

『GYYYAAAAAAAAHH!!』


 幽霊たちに滅多斬めったぎりにされ、ファイアードラゴンが苦悶くもんの叫びを上げる。


 ベンジャーレイスによる『報復攻撃』。ファイアードラゴンのHPが5/6になった。


『GYYY……!』


 負けじと、ファイアードラゴンが姿勢を低くして、頭をユーに向ける。


 高威力の直接物理攻撃スキル『バレットタックル』の構え。チャージタイムは4秒。


 なんの問題もない。


『防御態勢』のユーにはどんな攻撃も通じないし、たとえ『防御態勢』が解除されても、マルがフォローに回れる。


 あとは、ユーの『報復攻撃』と、クロのアブソーブウィスプでジワジワと削れば、俺たちの勝ちだ。


 俺はチラリと背後をうかがった。


 レイシーたちが、真剣な眼差しで俺の戦闘を眺めている。


 俺の口端くちはしが上がった。


 それでいい。しっかり観察して、自分たちの戦いに備えてくれ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る