ダンジョン攻略は、予備知識で決まる。――10

「あっ! あったあった!」


 1階層へ戻る道すがら、石碑を見つけたケイトが声を上げる。


 俺たちの身長の倍はある、巨大な石碑だ。


 ケイトがその石碑に触れると、ポゥ、と明かりがともった。


「これでいいのかな?」

「ああ。次の石碑に向かおうか」


 エリーゼ先輩が歩き出したとき、レイシーがなにかに気づいたように、「あれ?」と石碑を指さす。


「石碑に古代文字が綴られていますよ?」


 お、そこに気づいたか。いい観察力だ、レイシー。


 心のなかで賞賛しつつ、俺はレイシーにうながした。


「その古代文字、メモしておいたらどうだ? もしかしたら、なにかのヒントなのかもしれない」

「そうですね。もしかしたら、あとあと必要になるかもしれません」


 素直に返事をしたレイシーが、石碑に綴られた古代文字をメモした。





 1階層に戻り探索すると、それまでなかったエリアが出現していた。


 そのエリアを進んでいくと、上層階へ続く階段があった。


「上ってみましょう!」


 レイシーが階段を上りだし、俺、ケイト、エリーゼ先輩、ミスティ先輩も続く。


 階段の先は、2階層の小部屋だった。


 小部屋には、さらに上層階へと続く階段がある。


 4人が顔を見合わせた。


「マサラニアさんの仰る通りでしたね!」

「驚きを通り越して、またやられた! って気分だよ!」


 4人が拍手を送ってくる。


 まあ、あらかじめ知っていたからな。とは言えず、俺は視線をらして曖昧あいまいな笑顔を見せた。




     ⦿  ⦿  ⦿




「3階層の広間も、2階層と同じで違った感じだね」


 マッピングとアイテム採取を終え、俺たちが広間にたどり着くと、ケイトが口を開いた。


「そうですね。この4つの扉はなんでしょうか?」


 レイシーがコテンと首を傾げる。


 3階層の広間には、階段へと続く扉のほかに、4つの扉があった。扉は、広間の左右に2つずつある。


「3階層の暗号は、『なんじが選びし順に門番を倒せ』か」

「おそらく、この4つの扉の先に、門番となるモンスターがいるのでしょう。そのモンスターを正しい順番で倒せば、4階層へ進めるという意味だと思います」


 エリーゼ先輩が石版に綴られた暗号を読み上げ、ミスティ先輩が真剣な顔で要約ようやくした。


「問題は、『汝が選びし順』がなんの順番かだね」

「ウェルト空間で、わたしたちが選んだなにかの順番なのだろうが……」


「「ふーむ……」」と、ケイトとエリーゼ先輩が唸るなか、ミスティ先輩が扉のひとつを指さす。


「みなさん、扉のうえにプレートがありますよ」


 ミスティ先輩に知らされて、3人が扉を見やった。


「ホントだ! それに、プレートに綴られているのって古代文字だよね?」

「それぞれのプレートに綴られている古代文字は違う。おそらく、暗号解読の手がかりだろうね」


 ケイトが目を丸くして、エリーゼ先輩が「ふむ」と腕組みする。


「古代文字……!」


 そんななか、レイシーが『不思議なバッグ』からメモを取り出した。


 俺はひそかに笑みを浮かべる。


 3階層の暗号は、俺なしでも解けそうだな。


 メモとプレートに視線を往復させて、レイシーがハッとする。


「見てください! プレートに綴られた古代文字と、2階層の石碑に綴られていた古代文字が一緒です!」

「なるほど! 『汝が選びし順』とは、『2階層で石碑に触れた順』か!」

「たしかに! 2階層の石碑も4つだったし!」

「お手柄ですね、レイシーさん!」


 3人が賞賛するなか、レイシーはニコッと俺に笑いかけた。


「ロッドくんのアドバイスのおかげですね。石碑に触れた際、メモしておくようロッドくんが仰らなかったら、手詰まりになっているとこでした」

「レイシーも、わずかなヒントで答えを導き出したな」

「えへへへへ……褒められちゃいました」


 俺が頭を撫でると、レイシーが「ふにゅー」と嬉しそうに目を細める。


「「むむむ……」」


 エリーゼ先輩とミスティ先輩が、なぜか頬を膨らませた。


「じゃあ、門番を倒そうぜ」


 最初に選んだ石碑に綴られた古代文字と、同じ古代文字――『Wind』がプレートに綴られた扉に、俺は触れる。


 重たい音とともに扉が開いた。


 扉の先は、50メートル四方ほどの四角い部屋になっており、その中央にモンスターがいる。


 胴長短足で両腕が長い、3メートルほどの背丈せたけをした緑色のゴーレムだ。




 グリーンゴーレム:55レベル




 グリーンゴーレムは、HP、STR、VITが高く、DEX、AGIが低い重戦車系モンスター。固有アビリティは、『物理攻撃の威力が10%上昇する』効果を持つ『アイアンボディ』。属性は、古代文字が示すように風だ。


 ちなみに残りの門番は、レッドゴーレム、ブルーゴーレム、イエローゴーレム。レッドゴーレムが火属性、ブルーゴーレムが水属性、イエローゴーレムが土属性となっている。


 スキル構成がほぼほぼ一緒で、姿形も色以外同じなので、攻略Wikiではひとまとめにして『エレメントゴーレム』としょうされていた。


「ここから4連戦です。準備はいいっすか?」

「問題ないよ、ロッドくん」

「55レベルでしたら、恐るるにりませんね」

「わたしたちも精一杯せいいっぱい頑張ります!」

「ま、ロッドや先輩たちには助けなんていらないだろうけどね」


 俺たちはそれぞれの従魔を呼び出し、グリーンゴーレムの部屋に踏み込んだ。

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