ダンジョン攻略は、予備知識で決まる。――3

『モ……!』


 エイシュゴーストが体を縮め、力を蓄える。『自身のVIT・MNDを30%上昇させる』物理スキル、ソリッドフォームの構えだ。


「ケロちゃん、タウント! ガーちゃんはイヴェンジェル!」

『ゲロォッ!』

『クワァッ!』


 ケロが大声で鳴いてヘイト値を稼ぎ、エイシュゴーストの狙いを自分に固定。


 ガーガーはまぶたを閉じて、自己強化の準備に入る。


 盾役タンク火力アタッカーの基本戦術だ。


 ケイトに続き、レイシーも指示を送る。


「エナジーアップです、リーリー!」

『リィ!』


 リーリーが両腕を広げ、まぶたを閉じる。『自身のSTR・INTを30%上昇させる』魔法スキル。特殊支援役バッファーモンスター、フェアリーアーチン特有の初手。


「ピートはバーストチャージです!」

『ワウッ!』


 ピートはいきなりの大技。最大HPの1/4を消費する代わりに大ダメージを与える、直接先制物理攻撃バーストチャージだ。


 赤熱せきねつしたピートが、大気を焦がすほどの速度でエイシュゴーストに突進する。


『モ!?』


 エイシュゴーストがビックリしたように瞠目どうもくした。


『ワウ……ッ!』


 反動でピートがよろけ、HPが3/4になる。


 自傷を恐れぬ特攻。


 しかし、


「あまり効いてないようですね……」


 レイシーが眉をひそめた。


 レイシーの言うとおり、バーストチャージで削れたHPは1/8。ピートが反動で受けたダメージのほうが大きかったんだから、当然だろう。


「大丈夫! あたしも加勢するよ!」


 レイシーを元気づけるように、ケイトが声を張る。


「ケロちゃん、ウォータジェット!」

『ゲロッ!』


 ケロが、ブクゥッ、と頬を膨らませた。


 チャージタイム5秒の水属性魔法攻撃スキル『ウォータジェット』だ。


 レイシーも気を取り直し、ピートに呼びかける。


「シャープファングです!」

『ワウッ!』


 ピートが体を沈め、『ウゥゥ……!』と唸りだした。直接物理攻撃シャープファングの準備だ。


『モ!』


 エイシュゴーストも最初のスキルを発動させる。


 ソリッドフォームによってエイシュゴーストの体がキラリと光り、VITとMNDが上昇した。


『モ……!』


 さらに次のスキルの準備。エイシュゴーストが再び力を溜めはじめる。


 スキル構成から推測するに、相手を『目眩めまい』状態にする、クロの十八番おはこ、ヴァーティゴだろう。


『リィ!』

『クワァッ!』


 リーリーとガーガーのスキルも発動する。


 エナジーアップによりリーリーのSTRとINTが、イヴェンジェルによりガーガーのINTとMNDが、それぞれ30%上昇した。


「次はソリッドフォームです!」

『リィ!』


 流れるようにレイシーが指示を出し、リーリーが防御性能を上げにかかる。レイシーの、フェアリーアーチンの扱い方は、熟練の域と言っていい。


『ガウッ!』

『モ!?』


 あるじのやる気に呼応するように、ピートがシャープファングを発動させ、エイシュゴーストに噛みつく。


「続いてフレイムキャノン!」

『ワウッ!』


 勢いそのままに、レイシーはピートに火属性魔法攻撃の指示を出した。


 ピートの口腔こうくうから、紅蓮の燐光りんこうがちらつく。

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