相手の手を読み切った者が、勝負を制する。――7

「硬すぎる……本当、イヤになるね」


 わたしもカーマー先輩と同じ気分だ。状況は、弱音を吐きたくなるほど苦しいのだから。


 3体いたアームストロング先輩の従魔が2体、2体いたカーマー先輩の従魔が1体、クレイド先輩のティアが、すでに倒されている。


 イービルヴァルキリーのHPバーは3本削れたが、それから先が果てしなく遠い。


 こちらにヒーリングフィールが展開され、味方モンスターを強化する『願いの雨』が振っているにも関わらず。


 その原因は、イービルヴァルキリーの固有アビリティにあった。


「恐ろしいものだな、相手モンスターを倒すたびに強化されるなど」


 アームストロング先輩が顔をしかめる。


 そう。イービルヴァルキリーの固有アビリティ『魂狩たましいがり』は、『相手モンスターを倒すたび、全ステータスが20%上昇し、HPバーの半分相当、HPが回復する』という、強力極まりないものだった。


 わたしたちの従魔を4体倒しているイービルヴァルキリーは、全ステータス約2倍というバケモノ状態になっている。


『WRRYYYY……!』


 わたしが現状を確認していると、イービルヴァルキリーがロングソードを天に向けた。


 その剣先を、電流が駆けめぐる。


「『ライトニングパニッシュメント』が来ますよ!」

「頼むぞ、エリーゼ!」

「はい!」


 クレイド先輩とアームストロング先輩に応じ、わたしは頭のなかでカウントダウンをはじめた。


 ライトニングパニッシュメントは、雷属性で範囲攻撃の魔法スキル。チャージタイムは10秒だ。


 ライトニングパニッシュメントをまともに受けるわけにはいかない。


 その理由のひとつは、『100%の確率で相手を「麻痺まひ」状態にする』追加効果があるから。


 ただでさえ劣勢の状況下、わたしたちの従魔全員が『麻痺』になると、総崩そうくずれしてしまう恐れがある。


 もうひとつの理由は、効果範囲の広さだ。


 わたしたちは、戦場からやや離れた位置で指示を送っているが、ライトニングパニッシュメントはここまで届く。


 つまり、わたしたちが巻き込まれてしまうのだ。


 しかし、これ以上離れたら、従魔たちに指示を送れなくなってしまう。


 ふたつの問題の解決法は、味方への攻撃を肩代わりする、ゲオルギウスのガーディアンシップしかない。


 逆に言えば、ゲオルギウスが倒れた時点で、わたしたちの敗北が決まる。そのため、先ほどファルコは、ゲオルギウスを庇ったのだ。


『WRRYYYY……!』


 チャージタイムも8秒を超えた。


 イービルヴァルキリーのロングソードからは、まばゆいばかりの雷光がほとばしっている。


 発動まで、あと1秒。


「ガーディアンシップ!」


 タイミングを見極め、わたしはゲオルギウスに指示を出す。


 ゲオルギウスが大剣を掲げ、従魔たちが白銀はくぎんのヴェールに包まれる。


『WRRRRYYYYYYYY!!』


 直後、いかづちが解放された。


 ライトニングパニッシュメントによる雷光と轟音ごうおんが、わたしたちの視界を白く染め上げ、鼓膜こまくを殴りつける。


 わたしたちはたまらずまぶたを閉じ、両手で耳を塞ぐ。


 やがて、暴れ狂ういかづちが治まったことを確認し、わたしたちは目を開いた。


 わたしは直ぐさまメニュー画面を確認する。


 ゲオルギウスのHPは、1/10まで削れていた。


 カーマー先輩の従魔の強化スキルを重ね掛けし、VITとMNDを約4倍まで上げているにも関わらず。


 わたしの背筋を冷たいものが走る。


 たしかに5体分の攻撃を肩代わりしているし、属性に鋼を含むゲオルギウスにとって、雷属性は弱点だ。


 それでもここまで削れるなんて、ゾッとしてしまうな。


 しかも、ライトニングパニッシュメントの追加効果により、ゲオルギウスは『麻痺』状態に陥っている。


『麻痺』状態ではスキルが使えないため、一時的に、わたしたちの戦力はダウンしたことになる。

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