勝負で肝心なのは、やっぱり勝つこと。――10

 ミスティ先輩を下した俺は、準決勝の相手にも難なく勝利した。


 しかし、すべてが順調とはいかなかった。


 ジェイクも、準決勝まで勝ち進んでいたからだ。


「参ったな」


 準決勝を終え、ステージから控え室に戻ってきた俺は、頭をく。


 ジェイクを決勝まで進めてしまっては、レドリア王に危険が生じる。


 決勝に進んでいるから、ジェイクが『死大神の宝珠』を使うのを、俺が阻止する手もあるが、それは最終手段にしておいたほうがいいだろう。


 やはり最善は、ジェイクを決勝に進ませないことだ。


「となると、エリーゼ先輩に頼るしかないか」


 エリーゼ先輩もまた、準決勝まで勝ち進んでいる。ジェイクと対戦するのはエリーゼ先輩だ。


 エリーゼ先輩を巻き込むのは本意ほんいではないが、ほかに手がない以上、仕方ない。


 それに、レドリア王の殺害を目的とするジェイクは、なにがなんでも決勝に進もうとするだろう。


 劣勢に立たされれば、形振なりふり構わず勝とうとするかもしれない。そうなると、エリーゼ先輩が危険だ。


 俺が事情を伝えれば、エリーゼ先輩に警戒をうながせる。ひいては、エリーゼ先輩の身を守ることにも繋がるんだ。


 思考をめぐらせて、俺は決めた。


「エリーゼ先輩」

「ロッドくん! 決勝進出おめでとう、流石だ!」


 声をかけると、エリーゼ先輩は満面の笑顔とともに、俺の勝利を祝ってくれた。


「ありがとうございます」と返事をし、俺はエリーゼ先輩の耳元に顔を近づける。


「ふゅっ!? な、なんだ、ロッドくん!?」


 なぜか顔を赤くして狼狽うろたえるエリーゼ先輩に、俺は声をひそめて頼んだ。


「先輩に、お願いしたいことがあるんです」





「ジェイク・サイケロアは、従魔にひとを襲わせるだって?」

「ええ。かなり信憑性しんぴょうせいの高いうわさです」


 顔をしかめるエリーゼ先輩に、俺は真剣な顔で首肯しゅこうする。


 俺は、ジェイクの危険性をエリーゼ先輩に伝えた。


 無論むろん、ぼかしてだ。流石に、ジェイクがスペルタンの一員であることは明かせない。


『なぜ、きみがそんなことを知っているんだ?』といぶかしまれたら困るからな。


「レドリア学生選手権の決勝は、レドリア王の前で行われますよね?」

「なるほど。サイケロアくんを決勝に進ませるのは危険だ」


 俺の言わんとするところを察したエリーゼ先輩が、「ふむ」と顎に指を当てる。


「だから、ジェイクが決勝に進まないよう、エリーゼ先輩に倒してほしいんす」


 もう一度、「なるほど」とうなずいてから、エリーゼ先輩が胸を叩いた。


「任せてくれ、ロッドくん。サイケロアくんの企みは、わたしが阻止してみせよう」

「巻き込んでしまってすいません」


 俺が眉尻を下げると、エリーゼ先輩がカラッと笑う。


「気にむことはない。あらかじめ、サイケロアくんが危険人物だとわかっていれば、わたしは注意を払える」


「それに」と続けるエリーゼ先輩の瞳には、火がともっていた。


はなから、わたしは決勝以外、見ていない。わたしの目標は、きみに追いつくことなんだからね」


 エリーゼ先輩が、俺に拳を向ける。


「必ず勝つ。決勝で会おう」


 イケメンな先輩だ。頼もしい限りだぜ。


 俺はエリーゼ先輩に笑みを返し、同じく拳を向けた。


「ええ。待ってます」


 俺とエリーゼ先輩は、コツン、と拳をぶつけ合った。

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