勝負で肝心なのは、やっぱり勝つこと。――6

「想像以上です、マサラニアさん」


 ミスティ先輩が、魔石を構えながら話しかけてきた。


「認めるしかないでしょう。わたくしよりも、あなたのほうが格上です」


 ですが、


「わたくしは、勝ちます!」


 言い放ち、ミスティ先輩が魔石をほうる。


「おいでください、ティターン!」


 放られた魔石が輝き、膨れ上がっていった。


 拳サイズから、バスケットボールサイズ、バランスボールサイズ、大玉おおだま転がしの玉サイズ、と、どんどん体積を増していく。


 巨大化した球体の両側から、電車の車両に匹敵する太さの、巨腕が生えた。


 さらに、球体の上部から、ポコン、と頭部が飛び出す。


 ズシン、と地響きを立てて現れたのは、4メートルはあろうかという雪だるまだった。


 そいつは、おそらくセントリアで――いや、レドリアでもっとも強力な従魔だ。




 スノータイタン:124レベル




『OOOOOOOOOHHHH!!』


 スノータイタン――ティターンの咆哮ほうこうが、大気をビリビリと震わせる。


 一部の観客が、飛ばされそうになる帽子ぼうしを慌てて押さえていた。


 全モンスター中、トップクラスのステータスを誇る、氷属性のモンスター『スノータイタン』。


 DEX、AGI、HPこそなみだが、STR、INT、VIT、MNDは、いずれもトップ10に入っている。


 チートとしか言えないステータスだが、それにはわけがある。


 スノータイタンの固有アビリティは、デメリット系なんだ。


 固有アビリティ『メルティボディー』。その効果は、『HPが1/8減少するたび、全ステータスが10%減少し、1/8増えるたび、10%増加する』。


 要するに、スノータイタンが最大限に力を発揮できるのは、HPが87・6%以上のときまで。そこを切った時点から、スノータイタンは弱体化していくんだ。


 ただし、ミスティ先輩は、スノータイタンの欠点を補っている。


 チェシャが展開したヒーリングフィールドによって。


 ヒーリングフィールドは、味方モンスターを自動的に癒やしてくれるため、ティターンがダメージを負っても、時間の経過とともに回復する。


 最大値の10%減少が90%であるのに対し、90%からの10%増加が99%であるため、ティターンのステータスが最大値に戻ることはないけれど、それでも充分なサポートだ。


『STR、INTが10%上昇する』効果を持つ『霊銀れいぎん腕輪うでわ』も装備しているため、無傷状態のティターンは、タイラントドラゴンに迫る攻撃性能を誇るだろう。


 対し、俺が繰り出すのは、


「初舞台だ! 行ってこい、マル!」

『キュウ!』


 隠し球としてとっておいたマルだ。


 観客席からどよめきが上がる。


 レドリア最強の従魔に対し、Eランクとされているスパークアルマジロで挑もうとしているのだから、当然だろう。


 しかし、ミスティ先輩にあなどりはなかった。


「マサラニアさんのことです。きっと、わたくしには想像も及ばない手を打ってくるのでしょう」


 ミスティ先輩が、真剣な眼差しを俺に向ける。


「残念ながら、その子マルさんのデータはこちらにはありません」


「ですから」と、ミスティ先輩がマルを指差した。


「先手必勝です!」


 ミスティ先輩が指示を出す。


「『ジェットパンチ』!」

『OOOOOOOOOOHHHH!』


 ティターンが、巨大すぎる右腕を引き絞った。


『エイシス遺跡』のロードモンスター『メタルゴーレム』が用いていたスキル。先制効果を持つ物理攻撃スキル『ジェットパンチ』の構えだ。


 マルを戦闘に出すのははじめてなので、俺がどのような戦術を用いるか、ミスティ先輩に知るすべはない。


 ならば、手を打たれる前に潰す。


 荒っぽいが合理的な対抗手段だ。


 ティターンが、引き絞っていた右拳を放った。


 大気が爆ぜる音がする。


 ティターンの拳は、その質量を無視するかのごとく豪速で迫り、


 ドゴォオオオオオオオオッ!!


 爆弾が炸裂したような衝撃波とともに、マルに叩き込まれた。

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