見ている分には羨ましいだろうけど、ハーレムって結構大変。――8

「「「「「乾杯!」」」」」


 夕方。


 予選を勝ち抜いた俺とエリーゼ先輩は、レイシー、ケイト、アクトと一緒に、セントリアのレストランで祝杯をあげていた。


 ちなみに、俺とエリーゼ先輩のほかに本戦に進んだのは、四天王の第1位と、第2位だ。


「ふたりとも危なげなく突破したねー」

「うん。順当だ」

「ロッドくんとエリーゼ先輩ですからね!」


 ケイト、アクト、レイシーの賛辞さんじに、俺とエリーゼ先輩は「「ありがとう」」と応じる。


「特にエリーゼ先輩は圧巻あっかんだったよね! 2体しか従魔がいないのに、全試合3タテを食らわせちゃったんだから!」

「ロッドくんのおかげだよ」


 フンス、フンス、と鼻息を荒くするケイトに、エリーゼ先輩は苦笑した。


「わたしはゲオルギウスをひたすら鍛えていたから、戦術の幅が狭かった。ゲオルギウス1体で挑んでいたら、対策を講じられて苦戦していたかもしれない」


 エリーゼ先輩の言うことは正しい。


 いくら強力な従魔を持っていようと、それ1体だけで戦っていては、やがて攻略法が編みだされてしまう。


 一応、スキル構成を組み替えることで対処できるが、やはり限界があるものだ。


 しかし、複数体の従魔を持っていれば、警戒対象が増えることで、相手もやりづらくなる。


 加えて、最初にどの従魔が出てくるか、相手に悩ませることができる。


 それぞれの従魔に対策を施しておいても、出てきた従魔が予想と異なれば、必然的に作戦変更を余儀なくされるからだ。


 つまり、複数体の従魔を扱うことは、駆け引きの面においても有利なんだ。


「たしかに俺の協力もありましたけど、結局はエリーゼ先輩の腕前っすよ。ファブニル単体の強さに満足していたら、3タテ食らわせるなんて、とてもじゃないけどできない」


 グラスに注がれたジュースを口にしてから、俺は指摘した。


「エリーゼ先輩、ファブニルの力を引きだすために、ちゃんと工夫していたじゃないっすか」


「工夫?」と、レイシーが疑問する。


 レイシーに頷きを返し、俺はエリーゼ先輩に確認した。


「ファブニルに『大地だいち腕輪うでわ』を装備させてますよね? エリーゼ先輩」

「きみには敵わないな」


 エリーゼ先輩が、お手上げだとばかりに肩をすくめた。


「『大地の腕輪』ってどんな効果なの?」

「『物理攻撃スキルを土属性にする』だ」

「変わった装備品ですね。ですが、それがどのような工夫に繋がるのでしょう?」


 ケイトとレイシーが、揃って小首を傾げる。漫画やアニメなら、頭の上に『?』が浮かぶようなリアクションだ。


「『大地の腕輪』単体は、それほど優れた装備品じゃないけどな? ファブニルの固有アビリティと合わさると、強力な相乗効果シナジーを生み出すんだ」


 人差し指を立てて、俺は説明する。


「アースドラゴンの固有アビリティは『大地だいちちから』。『土属性の攻撃スキルの威力が、30%上昇する』ものだ」

「優秀な固有アビリティだね。実質、『INTが30%上昇する』のと変わりない」

「その通りだがな、アクト。アースドラゴンの強みはSTRなんだよ」


 基本的に、物理スキルに属性はない。属性を持つスキルは、主に魔法スキルになる。


 そのため、『大地の力』を上手く活かすには、スキル構成を魔法まほう寄りにする必要がある。


 しかし、アースドラゴンのINTは、STRほど高くはないし、『大地の力』の効果が加わっても、STRには届かない。


「つまり、『大地の力』は、アースドラゴンにあまり恩恵をもたらさないんだ」

「こう言ってはなんですが、宝の持ち腐れですね」

「残念なことにな。しかし、レイシー? エリーゼ先輩は、ファブニルになにを装備させた?」

「『大地の腕輪』ですよね? それが――」


「どうしたのですか?」と言いかけて、レイシーがハッとした。


「物理攻撃スキルを土属性にする『大地の腕輪』があれば、『大地の力』の効果が物理スキルにも適応されます!」

「そうだ。物理スキルに属性がないのなら、付加してやればいい。エリーゼ先輩はそう考えたんだろう」

「そっか! 物理攻撃スキルを土属性にすれば、『大地の力』は『STRを30%上昇させる』のと同じ効果になるから、アースドラゴンの強みであるSTRを活かせるんだ!」


 感心したように、ケイトが、ポン! と手を打つ。


「そこまで見抜くとは……流石さすがに悔しいな」


 エリーゼ先輩が「むぅ」とうなり、溜息をついた。


「まだまだ遠いなあ、ロッドくんは」

「そんなに落胆しなくてもいいじゃないすか。充分スゴいっすよ」


 俺が励ますも、エリーゼ先輩は「いや」と首を振る。


「きみと出会ってから、自分の未熟さを思い知ったんだ。どうやらわたしは、知らず知らず、四天王の座に胡座あぐらいていたらしい」


 だが、


「きみのおかげで目が覚めた。いまのわたしの目標は、きみに追いつくことなんだよ、ロッドくん。だから、満足なんてできない」


 エリーゼ先輩の目には闘志がともっていた。


 俺が大好きな眼差しだ。


「なら俺も、うかうかしていられないっすね。エリーゼ先輩を失望させるわけにはいかないっすから」

「ああ。そうでないと困るよ」


 俺とエリーゼ先輩は、ニヤッと口端を上げた。


 カチン、とグラスを鳴らし、それぞれあおる。

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