見ている分には羨ましいだろうけど、ハーレムって結構大変。――7

 俺の予想どおり、試合は一方的な展開になった。


「サンダーボルトよ、リック!」

『グルルル……』


 エリーゼ先輩の相手が操るのはサンダービースト。この世界でSランクに認定されているモンスターだ。


 レベルも88で、充分に育成されていると言えるだろう。


 しかし、エリーゼ先輩の従魔には遠く及ばない。


『ガウッ!』


 サンダービーストのリックが、サンダーボルトを発動させる。


 稲光いなびかりが槍となり、エリーゼ先輩の従魔を襲う。


『GOOOOHH!』


 雷槍をまともに食らったが、エリーゼ先輩の従魔はまったく応えていない。


 それもそうだろう。『あいつ』のレベルは120あり、リックとは比べものにならないし、そもそもにおいて、土属性の『あいつ』は、雷属性に強いのだから。


「行け、ファブニル!」

『GOOOOOOOOHHHH!』


 エリーゼ先輩の従魔、ファブニルが反撃に出た。


 3メートルもある巨体が突進を放つ。


 物理攻撃スキル『バレットタックル』。茶色い巨躯きょくが高速で飛び出すさまは、さながら岩石の砲弾だ。


『ギャウッ!!』


 ファブニルのバレットタックルが、リックを吹き飛ばした。


 リックのHPが削り取られ、魔石となる。


「そ、そんな……たった1体の従魔に敗れるなんて……」


 エリーゼ先輩の対戦相手が項垂れる。


 ショックを受けるのも仕方ないだろう。エリーゼ先輩は、ファブニル1体で、相手の従魔を全滅させたんだから。


「よくやったな、ファブニル」

『GOOOOHH♪』


 エリーゼ先輩に撫でられて、ファブニルは嬉しそうに体を揺らす。エリーゼ先輩と敵対していたとは思えない、友好的な態度だ。


 エリーゼ先輩の対戦相手が、ハァ、と嘆息する。


「あなた、よく『アースドラゴン』なんて使役できたわね」


 エリーゼ先輩の対戦相手の眼差しには、感嘆かんたん羨望せんぼうが混ざっていた。


 そう。ファブニルは、『クリム高原こうげん』でエリーゼ先輩を襲ったドラゴン系モンスター、アースドラゴンなんだ。


 エリーゼ先輩が苦笑する。


「わたしひとりの力じゃない。この子を従えられたのは、恩人のおかげさ」


 エリーゼ先輩の答えに、対戦相手の女子生徒は首をかしげた。





「エリーゼ先輩が健闘していなかったら、ユーのバーサクリバストでも倒せなかったけどな」


 観戦していた俺も、エリーゼ先輩と同じように苦笑する。


 あの日、アースドラゴンを倒したあと、


「こいつ、エリーゼ先輩の従魔にしたらどうですか?」


 と俺は提案した。


「トドメを刺したのはマサラニアくんだ。きみが従えるべきだよ」


 エリーゼ先輩は遠慮したが、


「明らかに優秀なモンスターは面白くない。不遇モンスターを輝かせて、みんなの度肝どぎもを抜きたいんすよ、俺は」


 そう言いながら魔石を差し出すと、


「きみらしい理由だな」


エリーゼ先輩はおかしそうに笑って、受けとってくれたんだ。


「流石は四天王。従えているモンスターもひと味違うね」


 アクトが感心するように溜息をついた。


「たしかにその通りだが、強力な従魔がいるだけじゃ四天王は名乗れねぇよ」

「エリーゼ先輩の強みは、ほかにもあるってことかい?」


 アクトの問いに、俺はうなずく。


「やっぱり四天王は別格だ」


 俺はファブニルの装備品に注目していた。右前足につけられた、茶色い腕輪に。


「アースドラゴンを譲ったのは正解だったな」


 呟く俺は、自然と好戦的な笑みを浮かべていた。

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