結局のところ、やる気があるやつは応援したくなるのが人情。――10

 クールタイムを終え、メタルゴーレムが再びロケットパンチRの発射態勢となった。


「軌道をよく見ろよ」

「はい!」


 レイシーが瞬きひとつせず、メタルゴーレムを注視する。


 メタルゴーレムの右拳が放たれた。


 高速で飛ぶリーリーが回避行動をとるが、メタルゴーレムの右拳は追尾するように、グインと軌道を曲げた。


 これは当たる!


「リーリー、クロさんの後ろへ!」

『リィ!』


 俺が危惧きぐしたのと同じタイミングで、レイシーが叫んだ。


 その素早い判断に、俺は感心せずにいられない。自然と唇がつり上がる。


 レイシーの指示に反応し、リーリーがクロの後ろに避難した。


 俺もまた、阿吽あうんの呼吸でレイシーに合わせる。


「テンポラリーバリア!」

『ピッ!』


 仄暗い膜をまとったクロが、ロケットパンチRからリーリーを庇う。


 ヘイト値はダメージを受けると減るが、クロにダメージは入らないから、リーリーのほうが高いままだ。


「シャドーヴェール!」

「アクセル!」


 さらに俺たちは手を打つ。


 クロのシャドーヴェールがメタルゴーレムのDEXを下げ、リーリーのアクセルが自身のAGIを上げる。


 これで、メタルゴーレムのDEXはほぼ半減。


 一方、4回の『加速』+2回のアクセルにより、リーリーのAGIは約2.5倍だ。


 ここまでくれば、問題ないだろう。


 思う俺の前で、4発目のロケットパンチRが放たれた。今度はロケットパンチLも含めた二連続バージョンだ。


 迫るふたつの拳を、リーリーはヒラリ、ヒラリと回避した。


 俺はグッと拳を握る。


「ロッドくん!」

「ああ。分水嶺ぶんすいれいは超えたな」


 明るい顔をするレイシーに、俺はニッと笑い返した。


 今回の作戦は、全モンスターちゅう最高の、リーリーのAGIを活用したものだ。


 シャドーヴェールの連発でメタルゴーレムのDEXを下げ、アクセルと『加速』で、リーリーのAGIを徹底的に上げる。


 そしてリーリーにヘイトを稼がせることで、タンク役(相手のターゲットとなり、味方への攻撃を阻止するポジション)を務めてもらったんだ。


 命中率を0にすることはできないが、小数点以下に減らすことならできる。


 いざとなったら、クロや分身がテンポラリーバリアを用いて、リーリーを庇う。


 あとはいつも通り、


『ピィッ!』


『分裂』で出現する分身とともに、


「アブソーブウィスプ!」


 HP吸収でじわじわと削るだけだ。


「最初に聞いたときは耳を疑いました。まさか、攻撃性能も耐久性も脆弱ぜいじゃくなリーリーを、タンクにするなんて」

「まあ、本来はあり得ない起用だな。クロが相方あいかたじゃないと成立しない戦法だ」


 苦笑するレイシーに、俺も苦笑を返す。


「スリップダメージはヘイトを稼がないで済む。だから、リーリーがわずかでもヘイトを稼いでくれれば、メタルゴーレムを引きつけておける」


 しかも、


「リーリーにはAGIを上げる『加速』とアクセルがあるし、クロには相手のDEXを下げるシャドーヴェールがある。攻撃に耐えられなくても、回避を続ければ、タンク役は務まるからな」


 俺が解説すると、レイシーは感心したように溜め息をついた。


「ロッドくん、軍師の才能あるんじゃないですか? 普通、こんな戦法、思いつきませんよ」

「経験ってやつかな。昔から好きだったんだよ、戦法とか考えるの」


 通信対戦で相手を出しぬくためにな。


 心のなかで付け加えていると、レイシーが笑った。


「ロッドくんの側にいると、新鮮なことばかりで楽しいです」


 レイシーの笑顔はどこまでも可憐かれんで、見とれずにはいられなかった。

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