弱小モンスターが大器晩成型なのは、育成ゲームではよくある話。――5

「となると、『特訓』もスゲぇ効果なんじゃないか?」


 期待を膨らませながら、俺は『特訓』の項目をタップする。




 特訓:従魔に特殊な訓練を施すことで、その従魔がレベルアップで修得するスキルを身につけさせる

  対象従魔:クロ




「なん……だと?」


 俺は唖然あぜんとしてしまった。


 ファイモンでは、従魔1体につき、あらかじめ4つのスキルを選択しておき、それらを用いて戦闘を行う。


 この4つのスキルを選択する作業、および、選択された4つのスキルを、『スキル構成』と呼ぶ。


 ファイモンにおける戦闘では、スキル構成が非常に重要となる。


 ただ強力なスキルを選択すればいいのではなく、想定される相手に効果的なスキルや、ほかのスキル・味方の従魔と相乗効果を生み出すスキルなどを踏まえ、戦術的に組み立てないといけない。


 従魔をレベルアップさせるのは、ステータスアップはもちろんだが、スキル選択の幅を広げるためにも必要だからだ。


 しかし、その従魔にとって必須ひっすとなるスキルが、ある程度レベルアップしないと修得できないのはお約束。


 実際、ブラックスライムの必須スキルは、90レベルと101レベルにならないと修得できない(モンスターの最高レベルは300)。


 だからこそ、特訓の効果はすさまじいんだ。


 なにしろ、たとえレベルが低くても、理想的なスキル構成を実現できるのだから。


「く、訓練の内容は?」


 ひとつだけ不安なのは、施す訓練の難易度だ。


 もしかしたら、普通にレベルアップするほうが楽だと思えるような、どギツい内容かもしれない。


 俺は震える指で、対象従魔の下にある『クロ』の項目をタップした。




 訓練内容

  アンガーブリング:変顔を20個みだす

  シャドーヴェール:かくれんぼ30分

  ヴァーティゴ:従魔士を中心とした半径50センチの円周上を、100周ランニング

  …………

  ……




 思わずズッコケそうになった。


「特訓っていうか、子どもの遊びじゃねぇか!」


 一通ひととおり眺めてみたけれど、高レベル帯のスキルを修得するための特訓も、簡単なものばかりだった。あれだけ緊張していたのに拍子ひょうし抜けだ。


 けど、こいつは嬉しい誤算だぞ。クロの真価を見せつけられるのは当分とうぶん先だと思っていたが、特訓があれば数日で可能だ。


 おまけに、育成の達人があるから、あっという間にセントリア従魔士学校の頂点に立てる。


 いや、それどころか、世界一の従魔士になるのも夢じゃないぞ!


『ピッ、ピッ』


 ひとりニヤけていると、俺の足もとに寄りついたクロが、ミヨンミヨンと伸び縮みした。


 おそらく、「早く経験値を稼ぎに行こうよ!」と訴えているのだろう。


「クロ、経験値稼ぎはやめだ」

『ピィ?』


 クロがコテン、と体を傾ける。


 俺はニヤリと笑い、特訓メニューのひとつを選択した。




  シャドースティッチ:影踏み鬼30分




「鬼ごっこしようぜ!」

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