satori
モモん
サトリーヌ
「サトリであるお客様にとって、これほどピッタリのお仕事はございませんよ」
あんな口車にのった私が悪かったんです。
私の名前はサトリーヌ・ド・ヌードル。25才、独身です・・・って、結婚なんてできる訳ないでしょ。
サトリというのは精神感応の一種で、相手の考えていることが分かってしまいます。
意識していなくても、流れ込んでくるんです。もう地獄ですよ。
例えば、通りを歩いていると「あの姉ちゃん、おっぱいでけえな」とか「いいケツしてんじゃねえか」って聞こえてくるんです。
少し盛りました、胸もお尻も普通です。
なので、この若さで郊外に住んで自給自足しています。
お金が無くなった時と、月1回の買い出しは仕方なく街に出ます。
複数の調査会社や探偵事務所と契約をしており、依頼はメールで受け取り済みですから、直接相手と接触します。
浮気調査とか、芸能人の交際相手調査とかがメインです。
なにしろ尾行とか必要がなく、直接当人に接触してカマをかければいいので優秀なんですよ。
企業の機密情報なんかだと、お手当も高額になります。
そんな私に接触してきたのがトコウニって胡散臭いおにいさんで、心をシールドしているとかで読めない人でした。
異世界コーディネート株式会社って名刺に書いてありますけど、どこの会社なんでしょう。
業務は仕事の斡旋というか、人材派遣業にあたるようです。
今回の仕事というのは、この世界ではないところで、大国の保安維持局というところの尋問に立ち会うだけという簡単なお仕事で、一回だけで100万円という破格のお手当です。
ちょうどお金が尽きていた私は、甘言に乗ってしまいました。
「君が持ち出したデータには我が国のトップシークレットが含まれている。
データの内容と、渡した相手を言いなさい」
「何度も言いましたが、間違えてメモリーチップを持ち出してしまったのは私の過失です。
しかも、それを落とすなんてどう償えばいいのかわかりません」
ミラーの裏側の部屋に待機し、男に意識を集中します。
「どうだ」
「データはミサイル防衛システムの計画書、設計書など計画に関するものすべてですね。
それを、接触してきたエージェントの指示通りホテルのごみ箱に入れてチェックアウトしています。
それがどうなったか彼は知りません。
報酬は500万円で彼だけが知る隠し口座に入金させています。
通帳はカバンの隠しポケットの中です」
「どこの国のエージェントなのか分からいのか」
「彼自身も知りません・・・あっ、嫌、やめて・・・」
「どうした?」
「イヤらしい妄想だらけの思念が割り込んできました。
一緒にいる秘書と不倫していて、変態プレイを妄想して勃起しています。
ちょっと強力すぎて集中できません・・・」
「秘書?おい誰か近くに来ているのか!」
「プレジデントが視察中です」
「追い出せ、重要な場面なんだ」
これがいけませんでした。
事もあろうに、秘書との不倫がばれていると大統領に進言した卑怯者がいたんです。
大統領選が終わるまでの二か月間、何としてでも拘束しておけと指示が出されました。
「すまん」
課長さんは心から申し訳なく思っているのが分かります。
「いいですよ。
会社には延長だと申し入れてくださいね。
ただ、大統領にチクった彼は許せません」
当人を指さして言う。
「浮気は?・・・そう、学生時代のガールフレンドでソフィアさん。
あら、経費でホテルに・・・8月3日と8月15日ね。
大きいお尻が好きなんですね。
私のお尻じゃ満足できない。ああ、そうですか。
ふーん、今回のデータ流出は彼女に電話していて警報を見落としていたの。
大変ですね」
顔面蒼白で立ち尽くす男は、両腕を掴まれて連行されていきました。
「それから、人のいるところでは眠ることもできないんです。
仕事するにも集中できませんので、30m以内に誰もいない環境を作ってくださいませんか。
ミラーとか要りませんので、防音された部屋と、尋問官とやりとりするヘッドセットがあれば大丈夫です。
遊んでいるつもりはありませんので、仕事はどんどん入れていただいて結構ですよ。
彼の担当している麻薬組織の調査とか面白そうですね。
少しでも情報を知ってそうなのがいたら、どんどん連れてきてください。
組織の全容からお金の流れ、関係者や警察の協力者まで、全部引っ張り出してあげますよ」
私の居場所は核シェルターの最深部になりました。
「ここは、静かでいいわ。気に入りましたよ」
私のことを正確に知っているのは、局長と保全課長及び課員8名ほどで、
他部門を受けても構いませんけど、同席はさせないで知りたいことだけをメモ書きにしてもらいます。
ただし、万一私のことが漏洩した場合は、保全課側の契約不履行で中断させてもらうと書面で約束していただきました。
その日から、日に2回から5回の尋問が始まりました。
尋問は麻薬関係や政府関係者の不正容疑、犯罪組織の解明や銃の密売など多岐にわたりますが、私は情報をひきだすだけの簡単なお仕事です。
「下着とか着替えとか買いに出たいんですけど・・・」
「サイズだけ教えてください。女性スタッフに買いに行かせますから」
「でも・・・」
「万一、あなたのことが漏れた場合、とんでもない数の遠隔攻撃が懸念されます。
どうかご辛抱ください」
「疲れた時に甘いものが欲しいんですけど」
「有名店のスイーツをご用意しますから」
「欲求不満なんですけど」
「仕事が終わったら、芸能人でも、モデルでも取り寄せますから」
「すげえよな。とにかく引っ張ってくれば白黒ハッキリする。
あとは芋づる式だもんな」
「ああ、証拠は確実に抑えられるし100%有罪だもんな」
「押収した不正資産が国家予算並みらしいぞ」
だが不測の事態は起こる。
三週間後、課員の一人が殺されたのだ。
「殺された彼がどこまでじゃべってしまったか分からない。
セキュリティーは強化するが、全員気を引き締めてくれ」
私は関知エリアを広げることにします。
普段は半径30m程度ですけど、エリアを広げていきます。
100mでは引っかからない。200m・・・300m・・・500m・・・1km・・・5km
「あっ、ダメ。詰んでるじゃない」
殺された人は、洗いざらいの情報を喋っていました。
襲撃の準備が整うまで・・・1時間ってところね。
「はぁ、仕方ない・・・あんまりやりたくないけど『リミッター解除!』」
自己暗示の一種で、自分の能力に制約をかけているんです。
その制約を解いた今、能力をフルに発揮できます。
『認識阻害!』
これで半径5kmにいる人は私を認識できなくなりました。
でも、機械はごまかせません。
職員のIDカードを譲ってもらい・・・貸してくださいと暗示をかけただけです・・・シェルターから脱出、外から課長さんに電話します。
「シェルター襲撃の計画を感知しましたので、私は脱出しました。
殺された方は、すべて喋ってしまいましたので、契約はおしまいですね。
あと1時間以内に大規模な襲撃がありますから、軍を呼ぶとか対応してください」
私は借用した職員の名とクレジットカードでホテルにチェックインし、下着から靴まで服装を変えます。
もちろん、衣装類はカード決済ですよ。
何かしらマーキングされている可能性があるんですもの。
そのまま近くの犯罪組織のアジトに潜り込みます。襲撃を企てていた組織の一つです。
『マインドハーネス!』
マインドハーネスは精神支配。私の中で最強のスキルです。
一旦波長を合わせてしまえばこちらから解除しない限り効果が続きます。
このマインドハーネスで組織員全員を配下にします。
シェルターからでも可能だったのですが、もし対抗手段を持たれていた場合シェルターでグズグズしていると致命的な状況に陥ってしまいます。
そのため、十分な安全を確保したうえで対抗手段を実施した次第です。
組織のトップみたいな人は自我が強く、マインドハーネスが効きづらいことが度々あります。
そういう時には、強い恐怖感を与えて心を折ってやると素直になってくれるんですよ。
私はボスの部屋で一人になり、完全リラックスの状態を作り出します。
私に対して攻撃的な意思を持つ人間をサーチして、精神をゆさぶります。
簡単なことです。耐えきれない恐怖を繰り返し与えてあげればいいんです。
一番効果的なのは、愛する家族がいたぶられて、殺されていくことです。
目玉を抉り出し、爪をはいで、指を一本ずつ切っていくシーンを見せてあげるんです。脳というのは不思議なもので、思い込むと実際に見えてしまうんです。
それから、シェルター襲撃の意思を持った人間のターゲットを軍事基地に変更してさしあげます。数百人の記憶を改ざんするなんて、テレビのリモコンを操作するようなものです。最近のテレビは機能が多くて、むつかしいんですけど。
これに対応できないような基地なら、ない方がいいですよね。
次に、これらの組織を回って資産を回収させます。もちろん私が行くんじゃなくて配下にいかせます。
そして手に入れたお金を、すべて貴金属に変えさせます。
なんでって・・・私の世界に持ち帰って使うからですよ。
現金だと通貨が違いますからね。
これで当分は贅沢な暮らしができます。
おっと、忘れるところでした。プレジデントが選挙演説中なんです。
TVで選挙演説を中継しているんですよ。ですから、ちょっと悪戯しちゃいます。暗示をかけて、秘書が視界に入ったら襲い掛かるように仕向けます。
襲うという暗示だけですから、実際にどう行動するかは本人次第です。
実は私、こう見えてもいくつかの国を壊滅させたことがありまして、影の女帝とか呼ばれたこともあるんですよ。この程度は造作もないし、殺人とかに忌避感など持っていません。
普段から人間の本性に接しているんですから、仕方のないことだと思いません?
「まったく、うちの調査部は何やってんですかね」
「はぁ」
トコウニさんです。私には世界を移動する能力はありませんから。
「あなたの事ですよ。種族・サトリ、特殊技能・人の思考を読む事ができる。
クラスBですよ。あり得ないでしょ!」
「うふっ。それだけ私の
私、考えていますのよ。あなたの記憶消しちゃおうかしらって」
「も、もしかしてブロックが効いていないとか・・・」
「リミッターを有効にしているときはムリですけど、今は全開ですから」
「とっ、ともかく、国と戦争可能なレベルのSSクラスに変更させていただきますから・・・」
「あら、SSクラスって、他にはどんな方がおられるのかしら?」
「20km程度を一撃で破壊するレールガンのM様と、ベクトルの変換を得意とされるAさん、あらゆる魔法を無効化されるKさんとかですね」
「Mさんは射程外からコントロールできそうですね。Kさんは武装化集団を差し向ければいいわよね。Aさんって、ロリコン疑惑の方ですよね」
「あの、敵対しませんからね。させませんから」
satori モモん @momongakorokoro3
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