能力判明


「でも、この姿で戻れるったって魔王を倒さねぇといけないわけなんだろ?」

「僕にはとてもじゃないけどできませんよ…。そりゃあこの容姿は喉から手が出るほど欲しいけど」


忍と龍来のやる気はさほど高くなく、やはり死が付きものであることがよぎってしまう。ドラソネスは目を開きわからないのか?とでも言いたげな顔をした。


「既にあなた達は自分で気づいていないだけで、とてつもない力と知識を持っている。シュネとシャラから貰っているはずだ」

「さっきも言ってましたけど…、全然力というか、そんな能力あるような…、こう何か使えそうな感じはないですけど」


そんなはずは…とドラソネスは宮廷魔術師の双子を見る。


「うん?。お前達には確かに力を授けたぞ」

「こっちの世界より自分達の世界の能力の方が馴染みがいいと思って、お前達に合いそうな能力を当てがった」


?僕たちの世界の能力とは…?

要は何故召喚される世界に合わせてくれないのか疑問だったが、こちらの世界に合わすとなると。やはり剣道とか、柔道…、空手などから選ばれるのだろうか。どれもやった事などない。


「どれ、2人とも。わかっていないようだから説明してやりなさい」

「「はい王様」」


ドラソネス王には忠実なのか。シュネとシャラは返事をすると3人に向き直り、ビシっと指を刺した。


「じゃあどんな能力を与えたかだけど」

シュネがシャラの顔を見て頷き言った。そしてシャラも頷き3人へ向き言い放った。


「まず!忍。お前は……料理人!!!」


「はああ!?」


「次に龍来!………お針子!!!」


「おはっ?はりこ???」


「そして要、お前は………」


ゴクリ。要の喉が鳴る。この調子でいくとロクな能力にならない。不安しかない。


「タップダンサー!!!」


「んんんんん!?」


全く意味がわからない!タップダンサーにお針子に料理人?どんなパーティだ。というかタップダンスでどう敵を倒せというのだ。


「あ、すみません無理です」


龍来は手を上げ即拒否を示す。はい。はい。と他の2人もそれに続き拒否をした。


「な、何を言う。わたし達が直接選んだ能力に文句を垂れようっていうの?」

「許せない。どんだけ考えたと。よく考えて。自分達の知識はどう?」


考えたのか。ならもっとあるだろうがよ。でも、そう言われてみたら…。要はタップダンスの踊り方やフリもわかるし、龍来は編み物の知識がある。忍に至っては様々なレシピが頭の中をよぎり出す。


「うそ…。こんな知識…僕ダンスなんて未だかつてやった事ないのに…」


3人には既に自分の能力の高位な知識が備えられていた。なんとなく、タップダンスでなら敵に対しての対処の仕方もわかる。何故こんな知識が。実際に実戦してみないとできるかはわからないが。


「どういう事…?足から火を出そうと思えば出せそうな気がする。自分でも言ってる意味がわからないけど」

「僕もです。縫い物なんてやったことがないのに…。なんとなくわかる。針の使い方とか縫い方まで」

「俺も…。料理の知識がすげぇたくさん…」

「わたしとシャラの力である程度の力は既にお前達に備えている」

「はじめっから弱弱(ヨワヨワ)なままだと使いもんにならないし」


ありえない。何がって。僕が読んできたラノベは最強設定だったりとチートキャラはいたけど、みんな剣とか、、剣とか…剣とか!使ってたよ。なのに僕は…タップダンス!?めちゃくちゃ嫌だよ。せっかく異世界に来たのによりにもよってタップダンス???敵の目の前で足をタンタンッてしろと?どんなマヌケな勇者だ??


「ぃやだーー!!!!」


要は頭に手を当て絶叫した。ダンスしながら敵を倒す?ふざけてるのバカなの??そんな恥ずかしい事できない。ならせめてお針子がよかった。僕が1番恥ずかしい能力じゃないか。


「要様…。タップダンスが何かは私たちは存じ上げない…。ですが絶対に素晴らしい能力なのでしょう。この2人は信頼に足る魔術師なのです。2人を信じどうか…」


ルシ王子が宥めてくるが僕たちには全く無意味なセリフだ。じゃあお前僕と交換してくれよ。その腰にある剣をおくれよ。元からイケメンのお前に何がわかるんだ。僕ら隠キャは、イケメンになるには魔王をタップダンスや、料理…。編み物で倒せ?頭イっちゃってるのか??

そこまでしないとイケメンになれないというのか。ああ、やっぱり僕はダメだ。出来るわけがない。こんな羞恥、耐えられるわけがない。こんなかっこいい見た目なのに…。能力はあまりにカッコつかないじゃないか。

要が膝からくず折れ、床に手をついた時、入り口からパタパタと走りながら人影が出てくる。


「まあ!こちらの方々が異世界から来てくださった勇者様達ですか?お父様!」


エッッッッッッッ…!

3人の目は釘付けになった。

立っていたのは薄ピンクの髪を持った優しい面持ちの少女だ。髪は緩く編んである。可愛い…。


「おお、ララ。勇者様、娘のララだ」


ドラソネス王は娘としてララを紹介する。ララは3人に駆け寄り、握手を求めてきた


「初めまして。勇者様たち。私はララ・ソワレ。ルシお兄様の妹です。貴方達を心待ちにしておりました。ようやく…お会いできました…!共に、魔王を倒しましょう…!」


ララは先ほどの下りを聞いていなく、元より勇者は力を貸してくれると信じているのか。まさか3人が全くもって世界を救おうとは考えていない事をわかっていないようである。

3人はララと握手した。3人とも言葉も出ずにララにつられてしまう。


「「「やります」」」


3人は立ち上がりドラソネス王に向かって言った。顔はララに向いているが。


「魔王、人を食うという…。なんて酷い(むごい)。」

「捨て置けない。そのために召喚されたんだから」

「おう、やってやる…!俺たちが必ず魔王を倒す!」


3人の華麗な掌返しに王も苦笑していたが、ホッとしたのか顔の強張りがいくらか落ち着いていた。


「ルストの復活は1年後に迫っている…。あと1年はとにかく更にレベルアップし技に磨きをかけてほしい。外は魔物が人を襲う事件が頻発している。国からも兵を派遣しているが間に合っていなくてな…」


復活を止める方法はわからないのだという。ともかく、1年後に迫る魔王復活の日までに要達は更に研鑽を積み、その時に挑まなければならない。残りの1年の間にどれほどの力を得られるか。様々な経験をしなければ。王国外にある村や町を襲う魔物を倒しながら経験値を上げていくようドラソネスに言われる。それが結果人間を救うと。


「さぁ。ようやく国に光が刺した!勇者様…。どうかお力をお貸しください」


ああ、本当に夢ではないのか。要達は思う。

できるんだろうか。自分たちに。魔王なんて…ラノベの世界でだってすごく強かった。本当に…、自分たちで、このパーティーで。勢いでやると言ったものの不安は不安だ。


「まずは装備を整えて、明日から旅立ってもらう。善は急げ」

「金はこちらで出すから買いに行くぞ。ついでにこの王国を案内してやる」

「自信を持て。お前たちは強いんだぞ」


シュネとシャラについてくるよう言われ、3人は城を出た。

そこには、クリーム色や赤茶色の建物がぎっしりと立ち並び、先の先まで広大に続いていた。噴水や、街には教会らしい建物。バザールや運河も流れている。活気のある街だった


「うわぁ…!!すごい」

「本当に。王都っていうのか?」


忍と龍来も驚きながら周りを見渡す。華やかな街だ。


「さ。いくぞ」


2人の魔術師はスタスタと先へ歩いて行ってしまう。街並みの感動に浸り終わらない3人は、慌ててついていくのだった。

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