第250話 馬鹿は死にかけても治らない

「ニャー」

「オピオタウロス。レベル30000。喰えない事はないが非常に不味い。但し栄養価は高い」


 身体の前半分が牛、後ろは蛇という奇妙なモンスターを見て、クレアが【食材鑑定】の結果を伝え、カズキがそれを翻訳すると、フローネとアルフレッドの目が輝く。ここにきて初めて食用になるモンスターが出た事で、この先に希望が見えてきた為だ。


「おうカズキ。ちょっくら一匹捕まえてくれや」


 その要請に応じて、カズキがオピオタウロスを一匹とっ捕まえ、【アイギス】の中へと転移させる。が、余りにも酷い悪臭にアルフレッドの許可を得る事無く、即座に【ラグナロク】で消滅させた。


「【ピュリフィケーション】! 【コンプリート・キュア】!」


 それと同時にエルザも動いた。一瞬で広がった悪臭を浄化し、更には悪臭による体調不良が起こる前に、全員の体の不調を癒してみせたのだ。


「スマン。俺が料理したいと思ったばっかりに」


 エルザのお陰で事なきを得たとはいえ、一瞬だけでも強烈な臭いを【アイギス】の中に撒き散らしてしまった原因を作ったアルフレッドが、皆に頭を下げる。だが、普段からアルフレッドの料理のお世話になっている面々に、彼を責める気は更々なかった。これがクリスならば、ボロクソに言われていただろうが。


「いえ、アルさんの所為ではないでしょう。クレアの【鑑定】に引っ掛からなった事を考えれば、これも罠の一つだと思います」

「そうね。全員で【アイギス】の中に閉じこもったから気付かなかったけれど。本来ならあの臭いで行動不能になっている間に、オピオタウロスに襲わせるんでしょうしね」

「そう言って貰えると助かる」


 カズキとエルザに諭されたアルフレッドは、もう一度みんなに謝ってから、【次元ハウス+ニャン】の中へと姿を消した。埋め合わせに、豪華な料理を拵えるとの言葉を残して。




「今度は川か」


 異臭騒ぎを乗り越えた? カズキ達は、当てもなく彷徨っているうちに、向こう岸が見えない程の大きさの川へと辿り着いていた。


「汚いな。それに流れも物凄く速い」

「なんか臭いそうよね。他を当たりましょ」


 カズキとエルザがそんな話をしていると、同じように川を見ていたラクトがポツリと呟く。


「まさか、この川の中に次の階層への階段があるとか言わないよね?」


 その言葉に踵を返した二人の脚が止まった。ここまで質の悪い罠を仕掛けてくる相手ならば、その可能性もあるのではないかと思えてしまったからだ。

 勿論、調べた結果何もなく、徒労に終わったという結果を突きつけようとしている可能性がある事もわかっているのだが。


「・・・・・・可能性としては薄いと思うが、他に手掛かりも無い事だし、一応調べてみるか」


 そんなカズキの言葉で、一行は川の上流を目指す。途中から始めるよりも、上流から始めた方が見落としが少なそうだというのが理由だ。


「流石ダンジョン。何でもありだな」


 暫くして辿り着いたのは、川の始まりとなる場所。だがそこでは不思議な事に、虚空から水が噴き出していた。


「新しいモンスターがいるな」


 水の中に入ると、早速とばかりにモンスターが【アイギス】にぶつかってくる。それは上半身が牛で、下半身が魚の姿を取っていた。


「ミャー」

「ポタモイ。レベル40000。喰える。但し味は微妙」

「「おおっ!」」


 クレアの鑑定結果に、アルフレッドとフローネが声を上げる。新しいモンスターが出るたび【食材鑑定】の結果が良くなっているからだろう。

 

「入ったはいいが、汚くて何も見えないな」


 360度、全く視界が利かない事で真面な探索を諦めたカズキが、ナンシーが張る【アイギス】を引き継いで、船のような形に変形させる。その上で周囲の水を【ピュリフィケーション】(神聖魔法と同名の古代魔法。効果も同じ)で綺麗にすることで、漸く視界が通る様になった。

 それから下流へと進む事1時間。まだ【ピュリフィケーション】の効果が及んでいないにも関わらず、眩い光を放つ場所を発見した。水深10メートルの場所に横穴があり、そこから光が漏れ出ていたのである。


「あからさまに怪しいが、他に手掛かりもないしな」


 カズがはそう言って横穴へと船? を進める。そうして辿り着いた先には、一抱えはありそうな宝箱とその周囲に散らばる金銀財宝。そしてそれらを侵入者から守るかのように、身長5メートルはあろうかという、牛頭人身の怪物が立ちはだかっていた。


「ミャー」

「ミノタウロスロード。レベル50000。喰えない。宝物の守護者」

「なんだって!」


 クレアの【鑑定】結果を聞いて、クリスが雄叫びを上げる。そして止める間もなく【アイギス】に穴を開け、そこから外へ飛び出した。

 他のメンバーはそんなクリスを白い目で見ているのだが、当の本人は気付いていない。いや、より正確に言うならば、そんな余裕がなかったのだ。何しろ出た先は川の底。当然、空気なんて無かったのである。


「っ! っ!」


 それでも財宝への執着が勝ったのか、軽く溺れかけながらもミノタウロスを一蹴したクリスは、息が続くうちにと一心不乱に財宝を目指して泳ぎ切り、遂に中心にある宝箱へと辿り着く。そして罠も確認せずに宝箱を開けた直後――


「っ!?」


 本日二回目となる、噴き出した溶岩に呑み込まれたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る