第249話 やっぱり生きてた

「みっちりとアリシュタが詰まってるな」


 自分を狙って襲い掛かってきたアリシュタを、宣言通り【アイギス】の中から全滅させたカズキは、中々戻ってこないクリスを回収しようと、地面が崩落した場所へ仲間たちと向かった。

 そこで見たのは、崩落した個所を埋めるかのようにみっちりと詰まったアリシュタたち。だが彼ら? は不思議な事に、カズキの姿を見ても襲い掛かってくることはなかった。


「カズキを見ても襲ってこないという事は、コイツらの役割はクリスの足止めよね。水攻めでもするのかしら?」

「「「「ミャー」」」」


 エルザの問いに答えるように、猫たちが異口同音に鳴く。その声が微妙に切羽詰まっているように聞こえたエルザは、猫の言葉がわかるカズキに視線を向けた。


「・・・・・・俺達にはわからないけど、この穴の下から温泉のような臭いがするって言ってるな」

「温泉の臭い・・・・・・。それって」

「多分だけど溶岩。まあワンチャンただの温泉の可能性もあるけど、ここまでする相手が手を抜く筈もないよね」

「それもそうね」


 そう言って頷きあう二人。クリスの心配は欠片もしていない。そしてそれは、他のメンバーも同様だった。


「溶岩!? だだだだだだ大丈夫だべか!?」


 ただ、クリスとの接点が少ないタゴサクだけはパニクッていた。彼は昔、海底火山の噴火に巻き込まれて全身を火傷し、その状態で三日三晩苦しんだ末に死んだ事がある。その時の体験がトラウマになっているのだ。


「は、早くクリスさんを助けねえと!」


 そんな思いから、必死になってクリス救出を訴えるタゴサク。そんな彼の勢いに押されるようにという訳でもないが、カズキは落とし穴を塞いでいるアリシュタを倒す事にした。だがその時――


「クソォオオオオオオ!」


 という何処かで聞いたような声が聞こえ、次いで


「ギュモオオオオオオオ!」


 という断末魔の悲鳴と共に、溶岩が噴きあがったのだ。


「気のせいかな? クリスさんの声が聞こえた気がしたんだけど・・・・・・」

「ラクトもか? 私にも聞こえた気がするんだが・・・・・・」


 ラクトとコエンはそう言ったきり、噴きあがる溶岩を呆然と見つめる。その近くではマイネとエストがナニカを探すようにキョロキョロと忙しなく視線を動かし、タゴサクはトラウマが蘇ったのか、ガタガタと震えていた。


「下手打ったな、クリスの奴」


 やがて噴火が収まると、落とし穴だった場所を覗き込んだカズキがそんな事を言う。


「全くね。どうせ落とし穴に嵌まったのが恥ずかしくて、この下に次の階層への階段がないか探してたんでしょうけど」


 エルザも同じように覗き込み、まるでに聞かせるかのような大きさの声でカズキに同調する。


「「「「まさか・・・・・・!」」」」


 そんな二人のやり取りに何かを感じ取ったのか、ラクトとコエン、そしてマイネとエストが――タゴサクはガタガタ継続中――駆け出してカズキ達が覗き込んでいる場所を見ると、そこには己の力だけでロッククライミングをしている金髪の姿があった。

 



 生還したクリスが落とし穴を上り切った直後に気絶した為、一旦外に出て仕切り直そうと考えたカズキ達は、いつの間にか入り口が無くなっている事を確認した後、落とし穴から少し離れた場所でBBQを始めた。


「お腹が空きました!」

「ニャー!」


 丁度お昼時になり、クレアとフローネが腹減ったと騒ぎ始めた為だ。

 メニューは魔力切れ寸前のクリスを慮って、食べれば魔力が回復する、ファイアドラゴン肉がメインである。


「それで? 何だってそんなボロボロになってたんだ?」


 一部の未だに食べている二人(正確には一人と一匹)。そんな二人の為にせっせと肉を焼いているカズキとエルザを除いたメンバーは、ファイアドラゴン肉のお陰で体力と魔力が回復し、その後『次元倉庫』でシャワーを浴びてサッパリしたクリスを取り囲んでいた。


 因みにだが、質問しているのはアルフレッド。今回ばかりは調理よりも、クリスがボロボロになった理由の方が気になったようである。


「・・・・・・落とし穴に落ちた後――」


 問われたクリスは渋々語りだした。本当は言いたくないのだが、心配と迷惑を掛けた手前、口を噤んでいるのも悪いと思ったようだ。まあ、話す内容には随分と脚色がされていたが。


「そして俺が底に辿り着こうかという時、突然溶岩が噴き出してきてな。慌てて戻ろうとしたら、周囲の壁が動き出して、狭くなったところを無理矢理通り抜けたんだ」

「成程。それで服がボロボロになったんですね?」

「ああ。それでもどうにか通り抜けて、何とか剣を振れる場所に出たんだ。だがそこに牛――アリシュタが降ってきてな。コイツの処理に手間取っている内に溶岩が追い付いてきたから、奥の手、カズキの使う【ラグナロク】のような、『対象を消滅させる剣』を使って身を守ったんだ」


 クリスはそう言って話を終える。だが話を聞いていた者達は、クリスが言及しなかった部分を鋭く突いてきた。

 

「では、『クソォオオオオオオ!』と叫んだのは何故ですか? それを使えば切り抜ける事ができるのは、わかっていたんですよね?」

「き、聞いていたのか・・・・・・」


 聞かれたくない、一番恥ずかしい部分を指摘されたクリスは、冷や汗を垂らして無視を決め込もうとした。だがその視線の先に、ノートとペンを持ったフローネの姿を確認した事で、逃れる術はないと悟る事になる。

 このままダンマリを決め込んだら、彼女の執筆する小説に、有る事無い事を書かれるのは明白だからだ。そう、例えばクリスの魂の叫びを聞いたカズキが、間一髪でクリスを救い出したという風に。

 だからクリスは可能な限り、間抜けな事実を隠して格好いいストーリーを作り出そうと頭を働かせ始めたが――


「それは単にプライドの問題だ。罠に嵌まって奥義とでも言うべき技を使わされたのが悔しかったんだろう。それも自業自得で、自ら更に致命的な罠に嵌まりに行ったんだから尚更な」

「・・・・・・」


 横から口を出したカズキによって今までの話が脚色に満ちたものだと明らかにされ、無言で頭を抱える事になった。

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