第246話 ラスダン? 突入
「カズキの探査魔法でも見通せない上に、【レーヴァティン】でも傷付かない床、か。中々楽しそうなダンジョンじゃねえか」
ダンジョンを出たカズキが内部の様子を皆に説明すると、クリスがそう言って口笛を吹く。どうやらクリスも、カズキと同じ印象をこのダンジョンに抱いたようだった。
「つまり、このダンジョンが何階層から出来ているかもわからないし、ベヒモスがいるかどうかも不確定だという事?」
「まあそうかな」
対照的に嫌そうな顔をしているのはエルザである。彼女は必要に迫られて強くなった(それにしては強すぎるが)のであって、クリスのように戦いを楽しむという事は無い。だから本当なら行きたくはないというのが本音だった、が。
「はぁ。面倒だけど仕方ないわね」
それでもエルザは一緒に行くことを選んだ。
万が一、いや、無量大数が一の事を考えた場合、自分の治癒魔法が必要になるかもしれない。そう思ったからである。カズキの魔法が通用しなかったというのは、それだけでエルザが警戒するに足る出来事なのだ。
「そうなると、私達はお留守番になるのでしょうか?」
エルザの懸念が伝わったのか、フローネが物凄く残念そうな表情で言う。実はカズキがダンジョンを偵察している間、外でも色々試していたのだ。
その結果わかったのは、オリハルコンランクのアーネストやアルフレッドですら入れない、言わばゴッドランクダンジョンだという事。
勿論それで諦める程、アルフレッドやフローネの食に対する欲求は小さくないので、カズキに頼んでどうにかして貰おうという話になっていたのだが、エルザがそこまで警戒しているとなると話は変わってくる。
「残念だがそうなるだろうな。思いがけない強敵が現れた場合、俺達の保護に費やしているリソースのせいで、ギリギリ負けるなんて事になったら目も当てられねえ」
フローネの言葉にアルフレッドも同意する。やはりその声色には、フローネ同様残念そうな響きがあった。
「「「「ニャー?」」」」
そんな二人の会話を、猫達が不思議そうな顔で聞いていた。まるで、『何故そんな事を悩んでいるのだろう?』とでも言いたげな表情? である。
「あ、そっか。そういう事か」
戻るなりアレンのマッサージを始めてしまったカズキが通訳しないので、猫達が何を言おうとしているのか皆が考え込んでいる中、カリムがハッとした表情でナンシーを見つめる。
「何か分かったんですか? ・・・・・・あっ」
そんなカリムにつられてナンシーに視線を向けたマイネ。程なくして彼女も何かに気付いたように声を上げると、皆の視線がナンシーに集まった。
「ミャー」
そのタイミングを待っていたのか、ナンシーは一声鳴くと
「ああ! カズキ限定のステータス共有!」
それを見て漸く思い出したのか、ラクトが叫んだ。ナンシーがヒヒイロカネを手に入れた事も、その能力の事も聞いていたが、今までナンシーが魔法を使っている所を見た事がなかったので、今の今まで忘れていたのである。
「確かにこれなら付いていくのも問題はねえな。何しろカズキが二人に増えたようなもんだからよ」
アルフレッドがそう言って、一番の障害であろうエルザを見る。
「そうですね! それにカズキさんの魔力が心許なくなっても、ナンシーが『カズピュ~レ・ファイアドラゴン味』を食べれば、カズキさんの魔力も回復しますし!」
それに追随して、フローネもそう言ってエルザを見る。そんな二人の視線を受けて、エルザは肩を竦め、言った。
「ナンシーが協力してくれのなら問題ないわ。というか、どうせ猫たちを連れて行くってカズキは言うだろうから、私もナンシーに頼むつもりだったし」
アルフレッドとフローネは、そこで初めて自分達が勘違いしていた事に気付いたのだった。
「じゃあ、私達がいない間の事は頼むわね」
「おう! 任せとけ!」
成り行きでここまで付いてきていたアーネストにモンスターの監視を任せて、カズキ達はいよいよダンジョンに突入する事になった。
先頭は、斥候役も兼ねたクリス。それから10メートル程離れてエルザ。直後に魔法で保護されているメンバーと、カズキとナンシーという隊列である。
「おー、これは凄えな! カズキの言う通りだ!」
クリスに続いてダンジョンへと入ったエルザの耳に、クリスのはしゃいだ声が聞こえてくる。見ればクリスは律儀に入り口から10メートル離れた場所にいて、手当たり次第に地面を斬りつけては弾かれるといった事を繰り返していた。魔法が駄目なら剣でと考えたのだろう。
エルザはそんな
「一面の草原って感じね。今の所モンスターの気配はないけど、本当にいないのか、それとも気付けてないだけなのか。どっちなのかしらね?」
そう言った瞬間、答えは出た。
「ギャアアアアアア!」
クリスが移動しながら振り回していた剣に、頭が牛で胴体が蜘蛛の、全長三メートルはあるモンスターがヒットしたのだ。
「今、狙って斬った訳じゃないわよね?」
「・・・・・・ああ」
流石におふざけを止めたクリスが、一転して真剣な顔になる。
大した強さではなかったが、気配を読むことに自信があったクリスの間近まで接近してきたモンスターの存在に、改めてこのダンジョンの特異性を感じたからだった。
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