第245話 ベヒモス発見?
世界中に瘴気が蔓延し始め、それに伴って全ての境界が消滅してから1ヵ月。
カズキ、エルザ、そしてクリスの活躍により、ミスリルランク以上のダンジョンは一部(ドラゴン養殖ダンジョン)を除いて消滅した。
必然的にダンジョンから現れるモンスターも弱くなり、今では人里にモンスターが近づいてくることも少なくなりつつある。
これは、ダンジョンから出た事で生物としての特性を獲得したモンスターたちが、『人里にはヤバい人間もいる。だから無闇に近づく事はよそう』という事を学習したのではないかと思われた。
「困りましたね。瘴気も全体的に薄くなりつつあるから、この世界的には万々歳なのでしょうけど・・・・・・」
各地の拠点に常駐する必要がなくなった事で、晴れてお役御免となったカズキ達は、久しぶりの休暇を満喫しようと『真・アーネスト号EX』の甲板に集まり、BBQを楽しんでいた。
そんな中、分厚いドラゴン肉を見た事で目的を思い出したのか、フローネがそんな事を口にする。
世界が平和に向かっているのにもかかわらず、フローネがそんな事を言い出したのには訳があった。
以前、冒険者ギルドのグランドマスター、ガストンに見せられた絵に、終末に現れるという獣の内の一体、ベヒモスが描かれていたのだが、それが実に美味しそうに描かれていて、その場にいたカズキやセバスチャンまでもがその絵に見惚れる程。それ以来、絶対にベヒモスを捕獲しようと、ギルドの力を借りてまでベヒモスの発見を目指したのだが、未だに発見の報告は入っていないので、このまま見つからないのではないかと不安になったのである。
「ああ、それなら大丈夫だ。この世界の果て。人では辿り着けないような場所に、今までにない程の大量の瘴気が集まる場所を発見したから。恐らくはそこに、ベヒモスが出現するんだと思う」
「そう言えば【レーダー】で見た時に、瘴気が物凄い勢いで北に移動していたな。あれがそうか」
派手なショッキングピンクの色をした魚の丸焼きを拵えているアーネストが、豪快に塩コショウをぶちまけながら、カズキの言葉を肯定する。『真・アーネスト号EX』と同調している彼は、大まかにだが、世界中の出来事を知る事が出来るのだ。
「瘴気が少なくなっていたのには、そんな理由があったんですね」
「ああ。ダンジョンの増殖が止まったのもそのせいだろう」
実はベヒモスの出現を早めるべく、その場所を発見して以来、カズキはそちらへ瘴気を送り込む手伝いをしているのもダンジョンの増殖が止まった理由なのだが、カズキはその事は言わなかった。正確には、手助けしなくてもどうせベヒモスは出現するので、言う必要もないと思っているのだが。
「それで? ベヒモスはいつ頃出現しそうなんだ?」
フローネと同様に不安に思っていたアルフレッドが、誰もが一番気にしている事を口にする。彼は勿論、ベヒモスとの戦いに付いていく気満々だった。
「今の感じだと一週間て所ですかね?」
「一週間後・・・・・・。流石に私達は戻らないと駄目よね?」
カズキの返答を聞いたソフィアが、がっくりと肩を落とす。
「残念ながら。既に一ヵ月以上もこちらに掛かりきりになっていますからね。流石にこれ以上我々が不在なのはまずいでしょう」
ソフィアに答えたジュリアンも悔しそうな表情だった。この世界を守るために尽力したのに、最後の戦いの場に立ち会えないのが残念でならないのだろう。
「「ミャー?」」
そんな二人を、エリーとクレアがつぶらな瞳で見つめる。主人が帰るなら、自分達も帰らないといけないと思ったのだろう。
「気を使わせてしまったわね。大丈夫よ、エリー、ミリア。貴方たちは自分のしたいようにしていいの」
「そうだぞ、二人共。私達に合わせる必要はないんだ」
「「ミャッ!」」
主従が互いに気遣いを見せているのを、周囲の人間と猫たちは温かい目で見つめる。その雰囲気に、セバスチャンは世界に残る事を諦めた。いざとなれば土下座してでも残るつもりだったが、ここでそんな事を言い出せば、寄ってたかって袋叩きに合うのは明白だったからだ。
「ここにベヒモスがいるんですよね?」
BBQも終わり、ジュリアン達がランスリードへと帰還してから一週間後。瘴気の移動が止まった。これはベヒモスが出現する為に必要な瘴気の量が充分に集まった事を意味している。だから後はベヒモスがダンジョンから出てくるのを待つのみだったのだが、不思議な事に二日経ってもベヒモスが現れない。その原因を探るべく、瘴気の集結地点にやってきてみれば、そこにあったのは境界が崩壊していないダンジョンだった。
「ああ。その筈だ」
カズキはフローネに答えて、一人ダンジョンへと足を踏み入れる。そこで魔法を使ってベヒモスの姿を探そうとしたが、意外な事に見通す事は出来なかった。
「探査系の魔法が阻害されてるのか?」
ならば直接階層をぶち抜こうと、離れた場所の床に向かって【レーヴァテイン】を放つが、魔法が直撃した部分は若干煤けているだけで、下の階層への道も出来ていない。
「今までのダンジョンとは違うという事か・・・・・・」
そう呟きながら、カズキは一度ダンジョンを出る。久しぶりに自分の思い通りにならない状況に、知らず知らずのうちに笑みを浮かべながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます