第243話 『朱き光』のドラゴン退治
「皆、準備はいいか?」
迫りくる50メートル程の大きさのドラゴンを見据えながら、ポーションを使ってHP、MPを回復したカトリが、同様の事をしていたパーティメンバーに確認の為に声を掛け、一人一人の顔を見た。全員が同じ事をしていたのに態々声を掛けたのは、心の準備が整っているか確認する為の物。
何しろ今回の相手は、これまで『朱き光』が戦ってきたどんな敵よりも強い。だから一人でも不安な表情を見せる者がいれば、戦い自体を止めるつもりだったのだ。
「「「はい!」」」
そんなカトリの気遣いに対し、心配する事など何もないと言わんばかりに、三人は気合の入った返事で応える。
短いとはいえカズキ達と行動を共にした経験から、50メートル級のドラゴン程度では動じない心の強さを彼らは手に入れているのだ。
「良し! 相手は強大だが、私達も強くなっている! ここであのドラゴンを倒し、我々は次のステージへと進むのだ! 往くぞ!」
「「「応っ!」」」
カトリの号令を合図に『朱き光』のメンバー全員がヒヒイロカネに魔力を通すと、四人の持つヒヒイロカネの武具から朱い光が放たれる。
元々はカトリの好きな色が朱だった事から付けたパーティ名だったが、ヒヒイロカネを手に入れた時、パーティ全員の武具が朱く光った事で彼らの認知度が一気に上がった。と言うのも、ヒヒイロカネがパーティ全員に共通したナニカの反応を示した時、そのパーティ全体の戦力が底上げされると知られているからだ。
『朱き光』の場合は、【限界突破】の持続時間と強化率にそれが現れた。具体的に言うと、本来の持続時間が10秒から1分に延長され、強化率がアビリティレベル×2倍のところ、倍の4倍になったのだから、注目されたのも当然である。
「すげえ・・・・・・」
そんな事は知らないタゴサクは、【限界突破】を使った事で更に激しく光った四人の姿をキラキラとした眼差しで見つめる。何故か魔力による身体能力強化が使えなかった――カズキが『魔力とMPは厳密には違う物だから』とか言っていたが、彼には良くわからなかった――タゴサクにとって、彼女たちの戦いぶりは格好の教材だったからだ。
「回数制限のあるアビリティも積極的に使っていけ! エリクサーを使えば全てが回復するんだからな! 温存なんて考えるなよ!? コイツを倒してレベルが上がれば、幾らでも手に入るんだからな! 」
「応! 【ギガントアックス】! 【サウザンドアタック】!」
「【クリムゾンフレア】! 【メテオストライク】!」
『【隠密】【パワーチャージ】【ペネトレイト】【ポイズンアタック】【スタンアタック】』
実際にはエリクサー使用を前提とした、強烈なアビリティ連打の力押しに過ぎないので、参考になるか怪しいのだが、何故かフローネとマイネにも刺さっていた。
「『困った時は力押し』ですね!」
「そうですね。最終的に勝てばいいのですから、それも有りなのかもしれません」
もしかしたら『朱き光』の我武者羅に勝ちを拾いに行く姿勢に、自分達に足りない物を見出したのかも知れない。
「グオオオオオオオオオオオオ!」
いつの間にか城塞の守備をしていた者達が見守る中、ドラゴンの動きが次第に弱々しい物に変わっていく。斥候職であるゾシムスの状態異常を伴う執拗な攻撃が、他のメンバーの攻撃によりダメージが蓄積したドラゴンの状態異常耐性を突破し始めたからだ。
「畳み掛けるぞ! 【限界突破】! 【ディバインソード】! 【クリムゾンスラッシュ】!」
「【限界突破】! 【ギガントアックス】! 【サウザンドアタック】!」
「【限界突破】! 【クリムゾンフレア】! 【メテオストライク】!」
『【【限界突破】【隠密】【パワーチャージ】【ペネトレイト】【ポイズンアタック】【スタンアタック】』
それを見て取ったカトリが総攻撃の命令を下す。とはいえエリクサーを使って
エリクサーのドロップ率は、ダンジョンの難易度が高い程上がる事が知られているからだ。
「グギャアアアアア!」
「うおおおおおお! やりやがった!」
「良くやった!」
「素敵ー! 抱いてー!」
『朱き光』が猛攻(但しやっている事は変わっていない。違うのは気迫だ)を開始してから一分後、遂にドラゴンが力尽き、地響きを立てながらその身を地面に横たえると、城塞から見守っていた守備隊から歓声が上がった。
それから暫く、ドラゴンが完全に息絶えているのを確認したゾシムスがカトリに頷く。それを受けたカトリが改めてドラゴンを倒した事を宣言すると、更なる歓声が。続いてアントナが右腕を突き上げ勝鬨を上げると、三度歓声が巻き起こる。
この後100メートルを超えるドラゴンが現れるという事を、『朱き光』のメンバーは完全に失念しているようだった。
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