第242話 『朱き光』再び

「ど、ドラゴンだ! ドラゴンが現れたぞ!」


 世界中の境界が崩壊してから一週間。『思ったよりもランクの高いモンスターが現れないな』と思っていたら、遂にその日がやってきた。


「マイネさん」

「ええ、行きましょう」


 その城砦にランスリードから応援に来ていたのはフローネとマイネとタゴサク。

 フローネとマイネはその見目麗しさと、高貴な雰囲気を醸し出していた事から大切に扱われ、後方で主に負傷した人々の手当てを任されていた。

 この世界へは修行に来ていたので不満に思う事も多かったが、ジュリアンからの指示も『基本は待機。ヤバ気なのが出てきたら、マジックアイテムをぶっ放せ』だったので、どの道前へは出られない。だが、前線へ出て大暴れしているタゴサクを見ていると、自分もという気持ちになってしまうのも無理はなかった。

 とはいえ、タゴサクが前線に出ているのも幾つか理由がある。一つは待機していろと言っても聞かないであろう事。真面な勇者であるタゴサクが戦う理由は人の為なので、こういう場合に幾ら言葉を尽くして説得しても、窮地に陥っている人間を見れば勝手に動くのは想像に難くない。ならば最初から自由にさせてしまえ、とジュリアンは考えたのである。

 二つ目はタゴサクのレベルアップの為。現状、ラクト達のパーティで一番レベルが低いのが彼だったので、足並みをそろえる為にもモンスターを倒してレベルアップをしてもらおうと考えたのだ。

 元からステータスっぽい物を持っていたタゴサクは、一人だけこの世界に適応しているので、モンスターを倒せばレベルが上がった。そして彼がレベルアップすれば、他のメンバーの生存率も上がる。

 このパーティにはVIPなメンバーが多い(エスト以外の全員)ため、最悪の場合には、タゴサクに体を張って彼らを護ってもらいたいというのが最後の理由だ。だって死なないし。


「ここはオラに任せて後退してくれ! 【限界突破】! 【ギ○スラッシュ】!」


 ドラゴンの姿を捉えようと城門へと駆けるフローネとマイネの耳に、タゴサクの雄叫びが聞こえてくる。この世界に来てから取得した【限界突破】を使ったのは、一人で戦線を支える必要があるからだろう。

 

「急ぎましょう!」

「ええ!」


 タゴサクの奮闘に応えるべく、二人が更にスピードを上げる。そして城門に辿り着いた時には、遠目に見えるドラゴンを、タゴサクが一人で待ち受けていた。どうやら砦からの魔法の援護を受けて、押し寄せてきていたモンスターは全て倒してしまったらしい。

 限界突破に加えてスーパーサ○ヤ人っぽくなっているタゴサクは、一時的にレベルが1000を超えるので、短時間で大量のモンスターを倒す事が出来たのだ。反動はきついが。


「トカゲではないようですね。50メートルはあります」

「タゴサクさん、どうですか? 倒せそうですか?」

「流石にあれは無理だべ。【死に戻り】を優先せずに、【限界突破】を上げるべきだっただか?」


 カズキに渡されたエリクサーを呷りながら、タゴサクがフローネの問いに答える。

 彼はこれまでの経験(頻繁に死ぬ)から、【死に戻り】にAPを突っ込んでレベルを最大の10まで上げていた。というのも【死に戻り】を最大まで上げると、どんな死に方をしても、即座に生き返る事がわかったからだ。爆発力より継戦能力を選んだのが、ここにきて裏目に出てしまった形である。そうなる様に誘導したのは、前述の理由のあるジュリアンなのだが。


「なら、あのドラゴンはマジックアイテムで倒しましょう。傷を付けずに倒せば、お肉の心配はなくなりますから」


 フローネがそう言って、マジックアイテムである小振りの杖を取り出した。

 付近の住民を全て受け入れてから一週間。その間、弱いとはいえ引っ切り無しにモンスターが現れたので、倒したモンスターを食料にする事も出来ず、備蓄が凄まじい勢いで減っているのだ。

 

「それなら、アイツの後ろから来るのを食料にした方がいいのではないか?」


 不意に後ろから掛けられた言葉に、マジックアイテムをポチろうとしていたフローネが振り向くと、そこには草臥れた様子の四人の男女が立っていた。


「あれ以外にもドラゴンがいるんですか?」

「ああ。ウチの斥候職スカウトの【索敵】に引っ掛かったんだ。あのドラゴンに大分遅れて、100メートルクラスの奴がこの城塞に向かっている」


 フローネの問いに、朱く輝く煌びやかな鎧を纏った女性が代表して答えた。彼女がリーダーなのだろう。


「成程。ではそちらのお肉を確保する事にしましょう。手前にいるドラゴンは、あなた方が倒すという事でよろしいですか?」


 四人組から戦意を感じたマイネが、確認の為にリーダーに問いかけると、果たして彼女はコックリと頷いた。


「話が早くて助かる。最近はレベルが中々上がらないから、こういう機会はなるべく逃したくなくてね」

「やはりオリハルコンランクの方々でしたか」


 ドラゴンを見ても臆さない様子から、そうではないかと思っていたマイネが得心したのか頷く。


「幸運に恵まれてね。カズキ殿達について行ったお陰さ」


 そう言ってウィンクする女性に、タゴサクの顔が赤くなる。


「まあ!? ではあなた方が!?」


 そしてフローネは、そんなタゴサクを一顧だにせず、嬉しそうな声を上げた。彼女はエルザから、この世界で出会った、とあるパーティについて話を聞いていたのだ。


「あ、ああ。『朱き光』だ」


 何故フローネのテンションが上がっているのか分からず、困惑の表情でカトリ・コナーが頷いた。

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