第231話 馬鹿と鋏は使いよう
「フローネ。セバスチャンを」
「はい!」
五人の勇者をあっさりと捕獲したカズキは、一人離れた場所にいたフローネに、セバスチャンの治癒を頼む。
【ブロウアップ】から身を守るため、一瞬で全ての魔力を使い果たしたセバスチャンは、全身の筋肉が断裂の上、あちこちの骨が折れたりひびが入った上、幾つかの内臓にもダメージを負った。
「不覚・・・・・・」
フローネの魔法と、『カズピュ~レ・ファイアドラゴンの前脚味』により回復したセバスチャンが、先程の自分の立ち回りを思い出し、その場にのの字を書き始める。
不意の自爆に驚き、咄嗟に全魔力を放出してしまったが、実際にはそんな事をしなくても、余裕で【ブロウアップ】に耐える事が出来たと気付いたのが理由である。
つまりセバスチャンが負ったダメージは、全てが自爆によるものだったのだ。
「で、こいつ等をどうするんだ?」
セバスチャンの後ろ姿にクリスを幻視して、やはり似た物親子だと妙な感心をしているカズキが、余計な事をしないように気絶させた勇者を見て、こちらへと恐る恐る歩いてくるガストンに声を掛ける。
「こんな奴らでも、この世界トップクラスの実力者じゃからな。出来れば今まで通り、ダンジョンの攻略に従事させたいんじゃが・・・・・・」
「その様子だと、何か問題がありそうだな」
「うむ。今までは【
「知り合いだったのか?」
「当時の担当が儂での。自分の世界への転移門が見つかっても、この世界に残ってくれたんじゃよ」
それから数代は、ガストンとも交流があったのだという。だが、グランドマスターとなった事でその縁は途切れ、数百年ぶりに再会した彼の子孫は、増長して犯罪者になっていたのだそうな。
誤算だったのは、ガストンへの復讐の為、真面目にダンジョンを攻略し、短期間でガストンのレベルを上回った事だ。まさかただの小石を、神殿に見立てるとは思ってもいなかったのだという。
「成程。使い道があるなら消滅させないのもアリだな。俺たちがいなくなっても、ダンジョンの攻略はしないといけないわけだし」
カズキはそう言いながら、ガストンが使ったという【
その際、強制する内容はガストンと全く同じにして、早速とばかりに勇者たちを解放すると、彼らは一斉にアビリティを使い、あっという間にその場から姿を消した。
「ちっ! やっとガストンの呪縛から解放されたと思ったのによぉ!」
「今に見てやがれ! 絶対に吠え面かかせてやるからな!」
「その為にはレベル上げだ! 恐らくだが奴のレベルは3000前後。ベヒモスとやらがいそうなダンジョンを見つけて、そこで中ボスを周回すればあっという間に奴のレベルを超える! その時こそ、ガストンのジジイともう一人のジジイ、そしてあのクソ生意気なガキを殺してやる!」
カズキへの恐怖から、解放されるなりアビリティを全力で使い、一目散に逃走した勇者たち。やがて完全に町から離れ、そこで【限界突破】の反動でその場に倒れた彼らは、恐怖の反動からか、口々にカズキ達を罵り始めた。その様子を、カズキ達が魔法で見ているとも知らずに。
「こうなると哀れなものじゃな。全てカズキ殿の掌の上じゃというのに・・・・・・」
「カズキ殿のレベルは測定不能ですからな。まさか、一生魔法が解けないとは想像もつかないでしょう」
その様子を、ガストンとハルステンが複雑そうな表情で眺める。二人は、勇者たちがカズキ達へ報復に来るのを期待して、彼らを解放した事に気付いていたのだ。
「セバスチャンがいい具合に自爆した事で、見事に勘違いしてるな」
「そうですね。これでベヒモスの捜索が捗りそうです」
現在、活動しているオリハルコンランクの冒険者は世界全体で200人程。勿論、一人でダンジョンを攻略出来るような猛者はいないからパーティを組む。1パーティは大体5人からなので、最大でも40組だ(実際にはもっと少ないが)。
そして、彼らがオリハルコンダンジョンへの往復と、中の探索に費やすのが最低でも5日。これには、道中でモンスターと戦ったり、野営したりするのも含まれる。
この結果、オリハルコンダンジョンの情報は、週に一件あるかないかという事態に陥っているのだ。
彼らはカズキやクリスのような変態ではないので、探索から戻れば休養を取り、装備を点検に出したりと、次の探索までに色々とやる事も多いのである。
そこでカズキが考えたのが、勇者の敵愾心を煽り、自主的に探索させる方法だった。
何しろ勇者たちには【死に戻り】という特殊能力があるため、食事も睡眠も必要ない。生き返れば全てが全快の状態で復活するからだ。
後はこまめに勇者の様子を確認して、ダンジョンに籠る時間が長い場所がわかれば、彼らよりもレベルの高いモンスターがいる=ベヒモスがいる可能性が高いダンジョンの場所がわかるという寸法だった。
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