第225話 フローネ、ナンパされる
「カズキさん!」
一週間ぶりにギルドへ顔を出したカズキ達は、受付で仕事をしていたリリーに目敏く発見され、あれよあれよという間に応接室へと案内される。因みに、彼女が応対していた冒険者は、放置されて途方に暮れていた。
なんだか一週間前にもこんな事があったなーと思いながらも、素直に連行されていくカズキと他2名。そこには先日と同じように最高級のお茶と菓子が用意されていて、それを堪能している内にハルステンが現れたのも同じだった。
「前回は醜態を見せてしまって済まない。言い訳する訳ではないが、あの時は動転していてな。というのも・・・・・・、ん?」
ハルステンはそこで言葉を切って、改めてカズキの両隣に座っている二人を見た。そこには金髪の若い女性と、初老の渋い男が座っている。それだけなら前回と同じ組み合わせだったが、よく見れば女性はエルザよりも若く、男性はアルフレッドよりも歳が上に見えた。二人共、それぞれエルザとアルフレッドによく似ていたので、今の今まで気付かなかったのである。
そう、今回カズキと行動を共にしているのは、フローネとセバスチャンだったのだ。
「・・・・・・あの二人は?」
「ヒヒイロカネが手に入ったので帰りました。またそのうち連れて来るとは思いますが」
「・・・・・・そうか」
数秒の葛藤の末、ハルステンはそうとだけ答えた。カズキが世界を渡る手段を持っている事に気付いたのだが、バハムートやそれを上回るモンスターを生け捕りにするような人間に、常識は通用しないと諦めたのだ。それに今回のダンジョンを踏破したのも、実質カズキ一人だったという事が、前回の話でわかっていたというのも大きかった。
「・・・・・・話を戻そう。今回、君たちがダンジョンの最奥で戦ったのは、レヴィアタンという存在だと思われる。このレヴィアタンは、ベヒモスという存在と共に、世界の終末に姿を現すと言われている存在だ」
「ベヒモスはどんな姿なんですか!?」
いつの間にかノートとペンを手にしていたフローネが、勢い込んでハルステンに尋ねる。その目はキラキラと輝き、ついでに口元も輝いていた。職業病と食欲センサーの双方を刺激されたらしい。
「あ、ああ。ベヒモスはレヴィアタンに匹敵する大きさの雄牛だ。ギルド本部に行けば、神からの神託を受けた絵師が描いた絵が保管されている。君たち? に来てもらったのは、本部に同行して絵を見てもらい、捕獲したレヴィアタンと思われる魔物と同一かどうかを確認させてもらいたかったからだ」
フローネの勢いに仰け反りながら、ハルステンはそう口にした。
「その本部とやらは遠いのかな?」
それまで黙って話を聞いていたセバスチャンが、初めて口を開く。仮にも彼はランスリードの国王なので、そんなに長い期間、国を開ける事は出来ないからだ。
「ここから馬で一ヵ月ほどの距離にあります。とはいえ、カズキ殿の魔法には一瞬にして場所を移動できるものがあるようなので、距離は余り関係ないかと」
「ふむ。それもそうか」
セバスチャンから偉そうなオーラ(笑)でも感じとったのか、何故か敬語で話すハルステン。カズキやフローネは近すぎてマヒしているが、大抵の人間はセバスチャンを前にすると皆、似たような感じになるのだ。まあ時間が経つにつれて、ぞんざいな扱いになっていくのだが。
「じゃあ早速行きましょう!」
話が纏まったとみて、フローネが立ち上がる。その勢いに押される形で、一行は早速冒険者ギルドの本部がある都市へと【テレポート】した。
「『朱き光』の報告通りだ・・・・・・。本当に一瞬で移動してしまうのだな・・・・・・」
目の前にあるギルド本部の建物に掲げられた旗を見て、ハルステンが呆然と呟く。馬で一ヵ月かかる距離を、ほんの一瞬で移動してきた事が、未だに信じられないらしい。
「ここが本部ですか。・・・・・・なんだか代わり映えしませんね」
フローネはそう言って、目の前の建物をまじまじと見る。
「本部は常にダンジョン攻略の最前線に置かれる。それは時代によって変わるから、ほぼ全ての建物は似たような造りだ。移動してもすぐに活動を始められるようにな」
呆然としていたハルステンが、フローネの言葉に我に返って説明をした。
「確かにその方が効率も良さそうですね。それでは、件の絵は何処にあるのでしょう?」
「グランドマスターの執務室だ。付いてきてくれ」
そう言うと、ハルステンは先頭に立ってギルドの中へと入っていく。
ギルド内部は、ハルステンが言ったように、先程までいた支部と変わりはなかった。変わっていたのは、そこに屯している冒険者の質である。
そこには歴戦の古強者といった様子の年配の冒険者や、逆に驚くほど若い冒険者もいる。一見してバラバラだが、一つだけ共通している事もあった。それは誰もが自身に溢れた表情をしている事である。
「ほう、これはなかなか・・・・・・」
それに気付いたセバスチャンが、感心したような声を上げた。誰もが皆、自信に見合った実力を持っていると看破したからである。
それもその筈で、本部に在籍できるのは、ミスリルランク以上の冒険者だけだ。強くて当然なのである。
「そこの素敵お嬢さん。そんな冴えないおっさん二人と少年なんかと別れて、俺達とパーティを組まないか?」
だから当然こういう輩もいた。
「え、嫌です」
フローネはそれを、いつもの事だとバッサリと切り捨てる。こういう輩は少しでも気のある素振り(ナンパ男視点)を見せると、しつこく誘ってくるからだ。・・・・・・中にはそれでも食い下がる男もいるが。
「そんな事言わずにさあ? ほら、見てくれよ俺の装備。そっちの三人とは比べ物にならないだろ?」
そしてこの男もそういう類の人間らしく、案の定、しつこく食い下がってくる。余程自分達の将来性に自信があるのか、彼の仲間も止める気配はない。そして、その場にいる冒険者たちも、ギルド職員も、ついでに当事者であるカズキたちですら制止する気はなさそうだった。
「・・・・・・」
そうなるとフローネが取る手段はひとつである。古今東西、世界が違っても冒険者に共通するそのルールの名は――。
「ガッ!?」
――そう、暴力であった。
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