第218話 アルフレッドの望み
「悪い、聞いてなかった。もう一度言ってくれるか?」
『朱き光』が苦労して倒したドラゴンをあっさりと斬り伏せたアルフレッドが、次々と襲い掛かってくるドラゴンをやはり一撃で屠りながら、カトリを振り返った。
「い、いえ、何でもありません・・・・・・」
よそ見しながらもドラゴンを倒すという神業を披露するアルフレッドに問われ、カトリは目を逸らしながら答える。先程までの自分の言動を思い出し、居たたまれない気分になっているからだ。
「そうか? まあ、もう少しで終わるから、あんたらは休んでいてくれ」
そう言うと、アルフレッドは彼らを置いて別の場所へ移動する。別に『朱き光』を見捨てたわけではなく、近くにドラゴンがいなくなったためだ。
それから10分後――。
「すげえ。一人でドラゴンを倒しちまった・・・・・・」
そこにはドラゴンを殲滅したアルフレッドを見て、呆然と呟くアントナの姿があった。
「それだけじゃない。あれだけ動き回ったのに汗ひとつかいてないし、息も乱れてない上に返り血すら浴びてない。ついでに言えばアビリティすら使わなかった。いくら
実際には身体能力強化を使ったり、ヒヒイロカネではなく、カズキ謹製の魔剣(ダーインスレイヴ)で血を全て吸収したりしているのだが、そんな事はカトリにはわからない。だからこの時、『この3人の中心人物はアルフレッド』と、彼女が思ってしまったのも無理はなかった。更に、カズキがアルフレッドを師匠と言った事、カズキとエルザがドラゴンと戦おうとしなかった事もその考えに拍車をかけている。
この頃になると、神々しい(笑)エルザとその弟であるカズキは高貴な身分で、アルフレッドはカズキの師匠兼、護衛であるというストーリが、カトリの中で出来上がっていた。オリハルコンよりも上であろうゴッドランクの事と、職業欄に料理人と記してあった事など、既に忘却の彼方である。
「これで終いか? なら味見だな」
久々に向けられる尊敬の眼に気を良くしたアルフレッドは、全身の筋肉が悲鳴をあげているのを『朱き光』のメンバーに気付かれまいと、何食わぬ顔で最後に倒したドラゴンの肉を切り取る。
どんな味がするのか確かめる為(いつの間にかクレアが来ていたから、美味しいのは確定している)と、良質な肉を食べて筋肉の成長を促すためだ。
「おっ、悪いな。・・・・・・ふむ。やはりドラゴン系の肉は、火を通した方が美味いみたいだな」
まず生で食べたアルフレッドは、続いてカズキが火を通してくれた肉を口に入れる。
「やっぱりマジックアイテムより魔法の方がいいな。イメージ通りに火が通る。いや、贅沢な悩みだというのはわかってるんだが」
普段アルフレッドが使っている調理器具は、全てカズキに頼んで作らせたマジックアイテムである。
火を起こすのも一発だし、火力の調整も自由自在。水も常に新鮮で高品質な上に、使い放題だ。今まで自分で火起こしから何からやっていた事を考えれば、時間を大幅に短縮できて、今まで以上に料理に集中できる環境になったと言える。
それでもそう思ってしまうのは、カズキがホイホイと料理に魔法を使うからだ。
例えば同じ肉を焼く場合。アルフレッドが1分かかるところを、カズキは一瞬で完了する。アルフレッドが火力を見極めながら焼くのに対し、カズキは理想の焼き加減という曖昧なイメージだけで済ませてしまうのだ。そうして焼きあがった肉は、アルフレッドが手塩にかけて育て上げた肉と遜色ない味わいなのである。
「それって古代魔法の領域よね? 今なら魔力量は足りてるから、試しに属性を調べてみれば?」
「そんなのとっくに試してる。だが結果はいつも同じだ」
エルザの提案に、アルフレッドは首を振ってそう答えた。魔力量が古代魔法を覚える基準に達していると知った時から、いつかは使えるようになろうと、一日に一回は調べているのだ。残念ながら、使えそうな気配は欠片もないが。
「ははぁ。それでヒヒイロカネに目をつけたのね。だからじゃんけんの時、魔力操作なんかやってたのか」
「うっ」
エルザに指摘されたアルフレッドは、痛いところを突かれて短い呻き声を上げた。どうしてもヒヒイロカネを手に入れたかった彼は、じゃんけんの際に身体能力強化を応用して、目に全ての魔力を集め、動体視力を強化したのである。
決して、某ハンター漫画の『凝』のパクリではない。
「まあジャンケンに使うなとは誰も言わなかったし、ジュリアンとソフィア叔母さんも気付かなかったみたいだからいいんだけど」
むしろ、エルザは感心していたくらいである。魔力を集中し、それをジュリアンとソフィアに気付かれる事無く隠した(某ハンターの『隠』以下略)手腕に。
それは2人よりも魔力の制御力が高い事と、魔力を放出する『第三段階』に手が届きかけている事を意味しているからだ。
ドラゴン(養殖部屋にいる、先程倒したデカいトカゲじゃないほう。鱗が固すぎて、カズキ達変態の刃しか通さない)を、マジックアイテムなしで切り分けるべく、毎日の様に試行錯誤しながら包丁を振るっていた成果が出ているのかもしれなかった。
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