第207話 カズキ、オリハルコンランクダンジョンを瞬殺する。
ギルドマスターのハルステンがオルトロスとの戦いに臨もうとしていた頃。カズキはボーダーブレイクの終点に辿り着いていた。
「ここから先には行けないか。大して距離を移動していないのと、モンスターの強さから考えれば、ゴールドランク辺りまでが範囲ってところかな?」
面倒だからと森の中に道を作り、最短距離を進んできたカズキには知る由もないが、彼が今いる場所は、本来ならオリハルコンランクのモンスターが跋扈している場所だった。
余りにも超越した強さを持つカズキにとっては、並ゴブリンもゴブリンエンペラーと変わらない。その上、この世界の事もよく知らないのだから、勘違いしてしまうのも無理のない話であった。
「ん? 階段があるな。ひょっとしてこれがダンジョンか?」
ここまでの道中で、一通りのモンスターを『次元倉庫』送りにしたカズキは、そろそろ戻ろうかと考えたところで地面にぽっかりと空いている穴と、そこから下へ降りる階段を見つけた。
「・・・・・・ちょっと潜ってみるか」
折角見つけたのだからと、気軽な気持ちでカズキは足を踏み入れる。その場所には限られた冒険者しか足を踏み入れる事が出来ず、その資格がある冒険者パーティでもクリアするのに数年掛かる、オリハルコンランクダンジョンであるとは、神ならぬカズキにはわからない事だった。
「全部で地下1000階か。ちょっと面倒だな」
魔法を使ってダンジョンの構造を調べたカズキは、ダンジョンの最奥に、一際濃い、変質した負の魔力と言うべきナニカを感知した。
「これがコアだろうな。問題は、普通に攻略したら2日位掛かりそうなところか。となると・・・・・・」
秒で真っ当な攻略と言う選択肢を除外したカズキは、少し悩んだ末に、力業で行くことにした。具体的には、コアまでの最短距離を魔法でぶち抜き、そこを降りていくという作戦である。
そして一分後。
「この奥にコアがあるのか」
カズキはダンジョンの最奥、その一歩手前の、巨大な扉がある場所までやってきていた。直接コアのある場所に繋がなかったのは、コアを守っているボスと思しきモンスターに興味が湧いたからである。
「おお、デカいな」
カズキが無造作に開けた扉の先は広々とした空間で、見渡す限り平原が広がっていた。それだけでなく、空には太陽が昇り、遠くの方には標高の高い山も見える。そして極めつけは、空を悠々と泳いでいる、クジラ。
「地上で見た空を飛ぶ魚の仲間か? いや、こっちはクジラだから哺乳類か」
カズキを侵入者と認定したのか、それまでの優雅な泳ぎから一転して、物凄いスピードで迫りくるクジラ。
「本当にデカいな。
見る見るうちに接近してくるクジラを見ながら、カズキはそんな感想を漏らす。考えている事は勿論、食べられるかどうかだ。
「取り敢えず炙ってみるか」
何故かクジラが炎のブレスを吐いてきたので、これ幸いとその炎を使ってクジラに気付かれないように切り取った肉を炙る。そして、未知の食材に対しては恒例となった【キュアポイズン】を使い、躊躇いもなく口にした。
「うん。ちょっとクセがあるけど美味いな」
毒身を終えたカズキは、その味に酔いしれつつも、お行儀良く待っていたナンシーにクジラ肉を分け与える事は忘れない。
「ウミャー♪」
「おっ、ナンシーも気に入ったか。ならコイツは生け捕りにして、養殖部屋行きだな。ここで倒して他のダンジョンにいないとかだったら、後悔するかもだし」
「ニャッ」
そんな会話をしながら、手慣れた様子で眠らせた上で捕縛したカズキは、『次元ハウス+ニャン』の中の養殖部屋へとクジラを移動する。
アルフレッドとクレアの元へ送らないのは、クジラが大きすぎるので『次元倉庫』には入らないからだ。
「帰った時に、城にある『次元倉庫』を拡張して、養殖部屋をそっくり移動するか。どう考えても、アルさんの方が食材をいっぱい使うだろうし。俺たちの分は、必要なだけ確保しておけばいいしな」
クジラがいなくなった事が引き金になったのか、いつの間にか平原が消え失せ、1メートル四方の小さな部屋の端に立っていたカズキは、眠そうなナンシーを丁寧に抱きかかえながら独り言ちる。
「これがコアだな」
そして、ナンシーが完全に寝入ったのを確認してから、部屋の中心でプカプカと浮いている物へと視線を移し、無造作に剣を振り下ろした。
「おお、こんな感じなのか」
破壊されたコアから、力の残滓がカズキの体に物凄い勢いで取り込まれる。その現象はたっぷり1分も続くと唐突に終わりを迎えた。
「これで終わりか。後はダンジョンの崩壊と同時に、勝手に外へ追い出されるんだったな」
【テレポート】でさっさと帰ろうかとも思ったが、一度は体験しておこうとカズキはその場で待機する。すると程なくして目の前が真っ暗になり、次の瞬間には地上への帰還を果たしていた。
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