第193話 風雲急を告げる

「美味しいです!」

「ニャー♪」

「そんな事があったとはな・・・・・・」


 散々飲み食いした後、漸く何があったのかをカズキに聞いたジュリアンは、三時間経っても食欲が衰えないフローネとその飼い猫クレアから視線を外して嘆息した。

 ちなみに今二人が嵌まっているのは、火竜肉や水龍肉を、雷竜肉と一緒に食べる事だったりする。

 雷竜肉は何故か繊維質でキノコのような味がする為、旨味の相乗効果が抜群だったからだ。


「それで? その竜玉からカズキは『時間を操る魔法』を覚えたのか? それからこれが最も肝心だが、私にもその魔法は覚える事が出来るのか!? というか覚えてるよな!? じゃないと、エクレールの悪事について詳しい説明が付かない! 過去を見る魔法かなんかを使ったんだろう!?」

「落ち着け」

「うぐっ!」


 言葉の途中で滾り始めたジュリアンの頭を、カズキは容赦なくはたいた。最近、何かと暴走しがちなジュリアンを落ち着かせるため、アルフレッドが度々やっていた事を思い出し、実践してみたのだ。そして案の定、ジュリアンは大人しくなった。


「ジュリアンが御免なさいね? だけど、あの子の言う事は私も気になるの。教えてくれる? カズキ」

「はい」


 暴走した息子の非礼を詫びたソフィアが、静かにカズキを促す。ジュリアンが暴走しなければ、自分が暴走していたのは間違いないが、その事はおくびにも出さない。


「とは言っても、概ねジュリアンが言った通りです。そして肝心の、『時空魔法』を覚える事が出来るかどうかについてですが、正直なところよくわかりませんし、お薦めも出来ません」

「・・・・・・どういう事?」


 明確な否定の言葉が出なかった事に安堵しつつ、ソフィアは尋ねる。


「これは竜玉に封じられている、代々の竜王の記憶を見て分かった事なのですが・・・・・・」

「「「「「「「・・・・・・」」」」」」」

 

 いつの間にか集まっていたソフィアとジュリアン以外の面々が、ツッコミを入れたそうな顔でカズキを見やる。だが、二人の鬼気迫る様子に、何とか口を閉ざした。


「『時空魔法』の才能は、ある日突然、開花する事が多いようなのです。それも、魔法が使えるか否かに関係なく。まあ前提として、竜玉に一度は触れておかないといけないようですが」

「カズキがそう言うって事は、法則も何もないって事よね。それでも、竜玉に一度触れておけば、覚える可能性はある。なら一度、竜玉に触れておきたいところだけど・・・・・・」


 ソフィアはそこで言葉を濁した。


「お薦め出来ない理由が怖いですね。カズキがそう言うからには、相当なリスクがある筈」


 怖いと言いつつ、カズキに先を促すジュリアン。そこには、ワンチャンいけるんじゃないかという、淡い期待がある。そしてそれは、この場に集まった面々も同じだったようで、全員がカズキの言葉を待っていた。


「・・・・・・俺がみんなに薦めない理由は、魔法の継承に時間が掛かるからだ」


 自分も『時空魔法』を追い求めていたせいか、彼らの気持ちがわかるカズキは、そう言って説明を始める。決して、やりとりが面倒になったからとか、事ある毎に探りを入れられるのも嫌だなぁ、とか考えたわけではない。


「「「「「「「時間が掛かる?」」」」」」」

「ああ。竜玉から魔法を覚える時、何故かはわからないが、魔力の大きさに応じて継承時間が前後するんだ。そこに転がっている雷竜は三日三晩。ロイスで一年。竜王から魔法を盗んだ、初代の魔法王国の国王は、1000年掛かっている。幸いと言って良いのかわからないが、その間は老化もしないし、身に危険が及ぶこともないが」

「・・・・・・つまり、肝心の『時空魔法』が覚えられるかも不透明なうえに、気付いた時には友人知人が誰もいなくなっている可能性が高いと?」

「そういう事だ。参考までに言っておくが、ジュリアンとソフィア様なら500年。ラクトなら10000年は最低掛かる。ついでに言うと、運良く『時空魔法』の才能が開花しても、今度は発動する為の魔力が足りないだろうな。使えたとしても、0.001秒先の未来が辛うじてわかるとか、その程度だ」

「そうか。悔しいが時空魔法』を覚えるのは諦めよう」

 

 暗に(というか、割と直接的に)無理だと言われたジュリアンが、一見、物分かり良く頷く。だが勿論、そんな事くらいで諦める訳もない。彼の明晰な頭脳は、既に抜け道の存在に辿り着いていた。


「代わりと言ってはなんだが、魔導書を出してくれ。そっちならノーリスクで、しかも適性があるかどうかも分かるのだろう?」

「その手があったわね!」


 ジュリアンの言葉にソフィアが快哉の声を上げる。一方のカズキはと言うと、ジュリアンの執念に感心していた。


「確かにその方法ならノーリスクだな。よくもまあ、思いついたもんだ」

「ふふん」


 珍しくカズキから一本取ったジュリアンが、ドヤ顔でカズキを見る。


「とはいえ少し時間をくれ。魔導書に落とし込むのに時間がかかるし、何より・・・・・」

「『リントヴルム』か。勿論その後で構わない」

「そうか? じゃあ、込みで一週間くらいだな」

「そんな短い期間で終わるのか! ・・・・・・って、ん? 一週間?」


 飛び上がらんばかりだったジュリアンが、ふと引っ掛かりを覚えて考え込む。何か途轍もなく重要な情報が、カズキの発言の中に含まれていたような気がしたのだ。


「・・・・・・ねえカズキ」

「なんだ?」


 そんな中、最初にその事に気付いたのはラクトだった。彼は自分の思い付きが外れているようにと祈りながら、恐る恐るその問いを口にする。


「『リントヴルム』が復活するのっていつ?」

「明日」

「「「「「「「それを早く言え!」」」」」」」


 残念ながら、ラクトの祈りは天に届かなかったようだ。

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