第190話 土下座はスキル

 第7コロニーのハンターギルド。そのギルドマスターであるルノセルから、第0コロニーへの扉が開く条件を聞いたカズキ達は、すっかりと漁師が板についていたクリスを連れて、再び第7コロニーへと戻ってきていた。

 カズキの職業には『大賢者』と表示されていたが、エルザとクリスがそれぞれ、『聖女』、『剣帝』となっているとは限らなかったからだ。


「じゃあ私から」


 エルザがそう言って、ステータスの確認ができる魔道具に手を置く。すると、魔道具から光が放たれ、ギルドマスターの執務室の壁に、エルザのステータスが表示された。


――――――――――――――――――――


名前:エルザ・アルテミス

種族:使徒

職業:聖女

年齢:21

LV :測定不能

HP :3089/3089

MP :51530004/51535684

ATK :36858214

DEF :89213618

AGI :65321890

INT :546284721

SP :99999999(MAX)


スキル

【魔力操作:神】【打撃武器:LV77】

【剣術:LV10】【料理:LV10】


魔法

【神聖魔法:神】 


称号

 救済者セイヴァー

 神殺しゴッドスレイヤー

――――――――――――――――――――


「「おおっ!」

 

 職業に『聖女』と記されているのを見て、ギルドマスターのルノセルと、彼の養女で、秘書でもあるアンナが歓声を上げる。

 

「種族は使徒・・・・・・。つまりは神の使いね! 流石、私!」


 そして当の本人は、自分の種族名を見て舞い上がっていた。自分が人間を辞めている事は、一切気にしていないようである。


「ステータスも高いわね。DEFなんて、カズキよりも上だもの」

「人間を辞める。つまり上位の存在になると、ステータスが増大するのか? ハイエルフやハイドワーフとやらも、エルフやドワーフとは一線を画す能力を持っていたという話だったが」

「ハイドワーフ! そいつらは何処にいるんだ!?」

「落ち着け、もう滅びている」

「魔力操作と神聖魔法のレベルには神が付いてるわね。使徒なのに『神』とかついてるのは良いのかしら? 『使徒』として、ちょっと心配だわ。そう、『使徒』として!」

「二回言ったな。そんなに気に入っているのか・・・・・・」

「気にする必要はないと思うよ? 神=超スゲーくらいの感覚だし」

救済者セイヴァーはまあ、納得ね。世界各地で人々を救ってきたのだし」

「『使徒』ですから!」


 エルザのステータスを見て盛り上がるカズキ達。彼らの興奮が収まったのは、それから一時間も経ってからだった。


「さあ、本日のメインイベントだ!」


 機を窺っていたのか、騒ぎが収まると同時に魔道具に手を置くクリス。わざわざ大声を出して注目を集めたのは、エルザが羨ましかったからだ。何故なら彼は普段の言動のせいか、褒められるよりも叱られたり、呆れられる事の方が多いので、偶には賞賛の言葉を掛けて欲しかったのである。自業自得だが。


「「素晴らしいっ!」」


 職業に『剣帝』と記されているのを見て、ルノセルとアンナがまたも歓声を上げる。

 既にカズキが異世界より召喚された事を教えられていた二人は、これで第0コロニーへの扉を開くことが出来るとあって、最後の一人であるクリスへの賞賛の声を惜しまなかった。


「ふふん」


 それに気を良くしたクリスが、両手を広げてカズキ達を振り返る。


「「「「・・・・・・」」」」


 だが、クリスの期待に反して、そこに賞賛や羨望の眼差しはない。それどころか、何故か全員ジト目だった。折角ドヤ顔までキメたのに。

 

「?」


 不審に思ったクリスは、答えを求めて自身のステータスを上から見る。職業にしか注目していなかった彼は、そこで初めて彼らが取った態度の理由を知り、そしてその場に頽れた。


――――――――――――――――――――


名前:クリストファー・ランスリード

種族:超人

職業:剣帝

年齢:21

LV :測定不能

HP :4659/4659

MP :30004/30004

ATK :測定不能

DEF :213618

AGI :95321893

INT :472

SP :99999999(MAX)


スキル

【剣術:神】【魔力操作:神】

【土下座:LV10】


称号

 万年金欠病

 自転車操業

 悪魔殺しデーモンスレイヤー

 神殺しゴッドスレイヤー

――――――――――――――――――――


「種族は超人。やはり人間を辞めていたが、まあそれは予想できた事だな」


 のの字を書き始めたクリスを見ながら、ジュリアンが口を開く。


「ステータスもまあ、納得できるものだったわね。・・・・・・ここまでピーキーだとは思わなかったけど」

「問題は称号ね。確か、功績が偉大な程、獲得する可能性が高いって聞いていたのだけど。これを見ていると、ネガティブな方向に突き抜けても称号は獲得するみたいだわ。ねえクリス。ちょっと聞かせて欲しいのだけれど。あなた今までに何回借金して、何回滞納して、何回土下座したの?」

「ひっ!」


 ソフィアが出した低い声に、クリスは返事よりも早く土下座する。


「素早いな。今までにも見てきたが、どんな体勢からでも土下座に移行できるのを不思議に思っていたんだ。だが、スキルの効果ならば納得も出来る」

「何でそんな事が分かるんだ?」

「【鑑定】というスキルを取ったんだ。それで【土下座】を鑑定したら、どのような体勢からでも土下座に移行できると書いてあった。スキルレベルが高くなるほど、移行までの時間が短くなるらしい。ついでに言うと、このスキルはポイントを振って取得する事は出来ない特殊な物でな。熟練度に応じてレベルが上がるらしい。因みにだが、レベル1にするのに必要な熟練度は、土下座1000回だ」

「マジか・・・・・・」

「私たちの想像以上に土下座してきたのね。ちょっと付き合い方を考えた方がいいかしら?」


 ソフィアに説教されるクリスを見ながらそんな事を話す三人。

 この日、ソフィアの説教は夜中まで続き、クリスの【土下座】のスキルレベルは二つ上がったという。

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