第188話 何故か指名手配
「やっぱり、第7コロニーにとやらに行ってみるしかないんじゃない?」
『リントヴルム』と思われる禍々しいドラゴンと、それと相対する五匹のドラゴンのレリーフの中間あたりに、よく観察しないとわからないような切れ込みが入っていた。
切れ込みが天井から床まで真っすぐに伸びていた為、これを扉だと判断したカズキ達は、どうにか開く事が出来ないかと周囲を調べたが、手掛かりになりそうなものは何もなし。そこでエルザが考えたのは、先程自分で言ったように、知っていそうな人間に聞く事だった。
「流石に壊すわけにもいかないしな。壊した結果、先に進む道があればいいが、そこになにがしかの手掛かりがあった場合は、目も当てられん」
「そうと決まれば行きましょう。あっ、レット達はどうする?」
ソフィアの言葉に、レットとリックスが顔を見合わせる。
「・・・・・・ついていきたいのは山々ですが、私達は移住先に戻ろうと思います。いつまでも責任者が不在という訳にはいきませんから」
尤もらしい言葉を並べて、同行を断るレット。だが実際のところは、衝撃の連続で疲れた心と体を休めたいというのが本音である。
「それもそうだな。なら一度、地上に戻るか」
カズキはそう言って、その場に『門』を創り出す。潜り抜けた先は、空中都市の住人たちに提供された土地だった。
「「・・・・・・」」
「じゃあ、俺達は行くから」
「「ハイ、アリガトウゴザイマシタ」」
最後の最後に止めを刺され、何故か片言になっている二人を気にも留めず、再び『門』を創り出すカズキ。
「あれだけ魔力を消費したのに、顔色一つ変わらないとは・・・・・・。『リントヴルム』とやらには同情を禁じ得ないな」
彼らが立ち去るまではと何とか頑張っていたレットは、『良いものを見せてもらった報酬』としてカズキに渡された『魔導書』と魔石を弄びながらそう言い、直後に白目を剥いて卒倒した。
「見つけたぞ! 賞金首!」
『門』を出て近くにある第7コロニーへと移動しようと歩いていたカズキ達は、当初、その声が自分達に向けられているとは思っていなかった。何かがおかしいと思ったのは、五人の男たちが行く手を阻み、彼らが武器を構えた時である。
「ジュリアン、あなた何かした?」
四人の内、前回この世界に来たのはカズキとジュリアンの二人。そして、その時に色々と恥ずかしい言動をジュリアンがしたとカリムから報告を受けていたソフィアは、疑いの眼差しを自分の息子に向けた。
クリスが頻繁にやらかしているのと、年齢を重ねた事で最近は落ち着いてきたお陰で目立たないが、実はジュリアンも過去に色々とやらかしている。その最たる例が、自分の父親である国王を賭け事の対象にした狂気の催し、通称『セバカルチョ』だ。
「い、いえ。別に何も・・・・・・」
その事を自覚しているジュリアンは、返事をしながら目を逸らす。これがセバスチャンやクリスなら、悪い事をしていなくても土下座していただろう。勿論、
「・・・・・・そう、どうやらあなたとは関係ないみたいね」
ジュリアンの様子から
「持っていくの?」
「ええ。どうやら賊ではないようですし。ここに放置して、魔物に殺されても後味が悪いので」
「じゃあ、彼らはハンターって事?」
「恐らく。ハンターギルド発行の手配書を持っていたので」
ソフィアの質問に答え、エルザが手にしている物に視線を向けるカズキ。
「どれどれ?」
興味を持ったソフィアが覗き込むと、前回この世界に来た四人の、精巧な似顔絵が描かれていた。
「あれ? これって・・・・・・」
一瞥して興味を失くしたのか、エルザがあっさりと手放した手配書を見て、何かに気付くソフィア。
「いたぞ!」
だが、彼女が自分の考えを述べようとしたところで、再びハンターたちが現れる。人数は先程の男達同様、五人。
彼らは、同業者が得体の知れない方法で無力化されているのを見てか、初めから武器を構えていた。
「武器を捨てて投降しろ。いくらお前たちが強くても多勢に無勢だ。私達には勝てん」
リーダーらしき男がそう言って手を上げると、カズキ達を取り囲むように、新たに十人のハンターが現れる。全員が弓を装備し、各々がカズキ達を狙っていた。
「あれがカリムの言っていたスキルなのね。確か【隠密】だったかしら? ・・・・・・バレバレだけど」
エルザはそう言って、足元に落ちていた石を、一見、誰もいない場所へと投げつける。軽く投げたように見えたその石は、包囲しているハンターたちの更に外側へと猛スピードで飛んで行き――、
「【
【隠密】で隠れていた男を暴き出した。
「なっ!?」
まさかスキルレベル10の【隠密】を見破られると思っていなかったリーダーが、驚きながらも攻撃の合図を送る。それに応じて、彼の仲間たちは即座に行動した。皆が皆、カズキ達が一筋縄ではいかない相手だと考えたのか、取り囲んで弓を構えていた者達はスキルを使って矢を放ち、魔法使いは最強の魔法を後先考えずに乱発する。
いくら四人が強くても、数の暴力には逆らえないと考えたのだ。
「馬鹿な・・・・・・」
それが勘違いだと気付いたのは、スキルや魔法の影響で舞い上がった砂煙が晴れた時だった。
凡そ五分にも及ぶ猛攻に晒された筈なのに、彼らは何事もなかったかのように、いつの間にか用意されていた豪奢なテーブルで、優雅にティータイムを楽しんでいたのだ。
「リーダー。【鑑定】が弾かれました・・・・・・」
男が呆然としていると、サブリーダーが報告してくる。その声は恐怖からか、小さく、そして震えていた。
「・・・・・・」
サブリーダーの言葉に我に返ったリーダーは、予想していたのか黙って頷いた。そして、取り囲む前に【鑑定】を頼まなかった事を後悔した。
サブリーダーの【鑑定】のレベルは10。最大である。それは即ち、自分よりもレベルが50高い相手でも鑑定できるという事だ。そして、サブリーダーのレベルは50。つまり目の前の四人は、最低でもレベルが101あるという事だった。
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