第184話 空中都市の真実
カズキがジュリアンと連絡を取り、空中都市の住民たちをランスリードで受け入れる事が決まった。
そこで問題になったのが、空中都市の住民たちの住居問題だった。
移住に当たってジュリアンが用意した土地は、近くに川は流れているが、それ以外は草木が鬱蒼と生い茂るだけで、何もない場所である。そんな土地を一から開拓し、人が住めるようにするには、いくら古代魔法の使い手が多くても至難の業だ。事実、カズキの【テレポート】で側近やリックス達とこの場所に連れて来られた時、彼らはその気が遠くなる作業を思ってか、誰もが無言でその場に立ち尽くしていた。
何しろ空中都市の人口は5万人。これだけの人数の住居を、タイムリミットである一ヵ月以内に用意するのは、住民総出で掛かったとしても無理だろう。
カズキならば一ヵ月どころか一時間で済むが、彼がそれをする理由はない。例外があるとすれば、それは労力に見合った報酬を提示された時である。何故ならカズキは国に縛られない冒険者だからだ。端から見ればランスリードの為に動いているように見えるし、実際にそうだが、それはカズキがランスリードという国に恩を感じている為である。彼の感覚では、恩返しをしているにすぎないのだ。
「そういうわけで、報酬に空中都市を貰った」
「そうか」
カズキの言葉にジュリアンが頷いた。
話の流れはこうだ。【テレポート】などという、例え開発できたとしても発動は出来ないとされていた魔法を気軽に使うカズキならば、5万人の住居くらい何とかなると思ったレット達が、空中都市を譲る代わりに用意された土地の開発を依頼したのだという。
尤も、レット達が言いださなければ、ジュリアンが提案する予定だったのだが。
「意外だったのはその場で決断した事か。普通、こういう時はギリギリまで揉めるものなんだが」
「それはですね」
フローネの説明によると、平民でありながら王族を凌ぐ魔力量を持っていた彼らは、その事を危険視した王族や上級貴族に疎まれ、国の命令で彼ら自身が研究していた――レットが責任者だった――空中都市の管理と、無能な癖にプライドだけは高い豚親子を押し付けられたのだという。
豚親子からの連絡が途絶えた時点で、島ごと滅ばされるという情報を良識のある貴族から聞いた彼らは、同じく平民出身の騎士たちの協力の元、なんとか空中都市を維持管理してきたが、未だに未解明の部分が多いので、隙を見て他国に亡命し、そこで改めて研究する事を考えていたらしい。
「成程な。カズキ達の来訪は、向こうにとっても渡りに船だったわけだ」
「ああ。流石に古代王国が滅んでいたのは想定外だったみたいだけどな」
「それはそうだろう」
そんな会話をしてから一週間後。
「ここが空中都市か・・・・・・。思ったよりも普通だな。ランスリードの街中と変わらん」
「フローネとそっくり同じ事を言ってるな。流石は兄妹」
カズキはジュリアンとソフィア、そしてエルザと猫たちを連れて、空中都市を再訪していた。
住民の引っ越しが終わったので、レットが言っていた『未解明な部分』の調査をする為である。
カズキはその部分に、この島が時間を超えた理由があると睨んでいたのだ。
「・・・・・・こちらです」
責任者として最後まで残っていたレットと、その護衛のリックスが、カズキ達を館の地下へと案内する。そこには空間が歪んでいるのか、どう考えても上の館を呑み込むほどの大きさの洞窟が口を開けて待っていて、その入り口の手前に置いてある台の上に、風属性の結界を張ると思しきマジックアイテムと、エレベーターの上下ボタンのようなマジックアイテムが置いてあった。
「私たちの仕事は、この洞窟の奥に行く方法を研究する事でした。というのも、この洞窟から漏れ出てくる魔力は濃度が高く、ミスリルへの魔力の充填が通常より早いためです。もしそこに世界樹があれば、より大きな魔法金属が生っている可能性が高く、無くても植樹すれば、今までよりも大きな実をつける事が出来るのではないか? と考えたのです。同じような洞窟は他に三か所あり、それぞれの場所で研究が行われていました」
「「「「・・・・・・」」」」
レットの説明を聞きながら、顔を見合わせる四人。彼らはこの洞窟から漏れ出る魔力に心当たりがあった。だが、レットはそれに気付かず話を先に進める。今は責任を負う領民がいないので、本来の研究者としての自分に戻っているらしい。
「この島が浮上を始めたのは研究から五年程経った時でした。あれはそう、人間が駄目なら魔物は? と考え、色々な魔物で試していた頃です。原因は洞窟から漏れ出た魔力が土地を侵食した事でした。いやぁ、あの時は大変でした。何しろ、この島の制御――とは言っても昇降させるのが精一杯でしたが――するマジックアイテムの開発と魔物を使った実験を並行して進めていましたからな!」
空中都市は偶然の産物だった事をさりげなく暴露するレット。リックスはこの話を何度も聞いているのか、うんざりした様子で洞窟の警戒するフリを始めるが、四人は黙ってその先を促した。放っておけば、レットが知りたい事を話してくれそうな雰囲気だったからだ。そしてその考えは間違っていなかった。
「・・・・・・何故か通り抜ける事が出来た魔物は大半が戻って来ず、偶に戻ってきた魔物は洞窟を出て暫くすると巨大化し、隷属魔法が解けて暴れまわったのですから! そうそう、知ってましたか? 巨大化したワイバーンだけは、生肉を食べると魔力が微妙に増えるのです! まあそのお陰で王族や貴族との差がどんどん開いてしまい、この島の管理と豚親子を押し付けられてしまったのですが・・・・・・」
後半から王族や貴族に対する愚痴が始まったが、カズキ達は既に話を聞いていなかった。
「センスティア領のワイバーンと似ているな。という事は、あの場所にあったのも空中都市が由来の可能性が高い。ああ、魔の海域もそうか」
「その二つはカズキが封じたから浮上の心配はなさそうね。じゃあ、あと一つは?」
「『リントヴルム』が呑み込んだってロイスが言ってたから、それで数が合うわね」
ロイスの話を元に、現在の状況を確認するジュリアン達。だが、カズキだけは全く別の事を考えていた。
「・・・・・・なあリックス」
「はい?」
カズキの呼びかけに、形だけの警戒をしていたリックスが振り返る。
「他の場所ではどういう研究をしてたのか知っているか?」
「私も詳しくは知りませんが、概ね似たような研究をしていたと聞いています。ただ・・・・・・」
「ただ?」
「一か所だけ、向こうの世界の魔物の召喚を試みている場所がありました。『あれだけ魔力が満ちている世界の魔物なら、こちらの魔物よりも強いだろう。それを使役できれば世界に覇を唱えるのも可能だ!』と言い出した国王の命令の元、大量のミスリルが運び込まれたようです。そこで何があったのかはわかりませんが、結果として研究員と護衛は全滅。研究もストップし、その場所は封印されたそうです。レット様の推測では、洞窟の向こうから現れた魔物に襲われた可能性が高いと」
「そうか。・・・・・・ん?」
自分の好奇心を満たし終え、ナンシーを愛でる事に集中しようとしたカズキがふと周囲を見回すと、何故か自分に注目が集まっている事に気が付いた。
「カズキ、何を考えていたのかしら?」
代表して口を開いたのは、何故か笑みを浮かべているエルザである。
これに対するカズキの答えは、
「え? 古代王国が滅亡した原因?」
という、至極あっさりとした言葉だった。
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