第182話 いつの時代も変わらないもの

「「なんの騒ぎだ!」」

 

 勝手に気絶したメタボオークを前に途方に暮れていると、住人を掻き分けて魔法使いっぽい姿をした男が二人現れた。


「オーク卿!? 一体何があったんだ!?」


 二人は気絶しているメタボオークに気付くと、一人は遠巻きに見ている住人へと駆け寄り、もう一人はカズキ達の方へと近づいてきた。

 何故か二人共、メタボオークの様子を一瞥しただけである。その態度から、メタボオークがどう思われているのか、察する事が出来た。


「・・・・・・お初にお目にかかります。私はこの空中都市ラームの魔法騎士団に所属している、リックスと申します」


 リックスと名乗った隊長は、そう言ってから何故か跪いた。

 

「見た所、お三方ともこの都市の所属ではない御様子。差し支えなければ、そこの豚がどんな非礼をお三方に働いたのか、私にお教え願えないでしょうか?」

「その前に一ついいか?」

「はっ! 何なりと!」

「なんでよそ者である俺たちに、そこまで下手に出てるんだ?」


 カズキの質問に困惑した表情を浮かべたリックスは、少し考えてから答え始めた。

 

「お三方共に、この空中都市の誰よりも高い魔力をお持ちだからです。そこまで高い魔力を持つのは王族の証。他国の方々とはいえ、礼を失する訳には参りません」

「確かに(フローネはランスリードの)王族だけど」

「おお、やはり!」


 カズキはここで、リックスの勘違いを利用する事を思い付いた。自分達を他国の王族だと勘違いしているのならば、その(偽の)立場を利用して、この都市のトップに会う事も可能なのではないかと考えたのだ。

 

「それで此度はどういうご用件でこちらに?」

「あの豚の話はいいのか?」

「・・・・・・実の所、なにがあったのかは全て存じております。お三方にご挨拶をしようとしたところで、あの豚が騒ぎを起こしたので」

「他国の、それも王族に非礼を働いた人間なら、遠慮なく処罰が出来るからか?」

「御明察です。それ故、あの豚が騒ぎを起こすのを待っておりました。・・・・・・ご不快でしたか?」

「良いんじゃね? この豚があんたらよりも実力が下なのに態度がデカいのは、ここの上層部のお偉いさんのバカ息子とかで、爵位が低いあんたたたちでは取り締まる事が出来ないとか、そういう理由があったんだろ?」

「・・・・・・お恥ずかしい話ですがその通りです」


 そのものズバリな理由を言い当てられたリックスは、カズキの深い洞察力に目を瞠り、尊敬の眼差しを向けて来る。

 だが実際には――。


「カズキさん、カズキさん」

「ん?」


 何事かと遠巻きにしていた群衆を解散させるため、リックスがその場を離れると、フローネがカズキに近寄ってきた。


「古代魔法王国の人間も、今とやっている事は変わらないんですね」


 フローネの言う通り、何処の世界でもよくある話をしただけだった。




「それは真の話ですか!?」


 メタボオークを部下に任せたリックスは、領主の館にカズキ達を案内する道すがら、彼らがこの地を訪れた理由を聞いて驚愕の声を上げた。

 

「残念ながら本当だ。この島は一ヵ月もしない内に地面に激突する。そこで聞きたいんだが、その原因に心当たりはあるか?」

「・・・・・・いえ。所詮私は、平民出身の一代騎士爵ですので。知っているとすれば、領主代理さまとその側近だけだと思います」


 カズキに質問されて我に返ったリックスが答える。


「・・・・・・まさかとは思うが、その側近の中に、メタボオークの親は?」

「幸いな事にいません。この島で爵位が一番高いので名目上の領主にはなっていますが、実務に関しては何の権限も持っていませんので」

「お飾りの領主って訳か。じゃあ領主代理? に直接話を聞いたほうがいいか」

「はっ、それがよろしいかと」


 リックスはまだ衝撃が抜けないのか、それからは必要な事しか言わなくなった。


「・・・・・・こちらが領主の館です」


 それから暫く歩き、リックスが立ち止まったのは、大きな門の前だった。


「ここに来て、初めてそれらしい建物に出会いましたね!」


 今まで期待を裏切られ続けてきたフローネが、目を輝かせてノートとペンを取り出した。資料で見た遺跡が完全な形で残っている事に感動し、物書きの性が前面に出て来たらしい。

 二人いた門番はそんなフローネの行動に驚いていたが、リックスが事前に連絡していたのか、フローネの行動を咎める事はなかった。


「開門!」


 フローネの突飛な行動から目を背けた門番の合図に応じ、門が内側へと開く。


「どうぞこちらへ。領主代理の元まで案内いたします」


 そう言って歩き出したリックスの後を、カズキ達が追いかける。

 すれ違う人間が悉く跪く事に面喰いながら歩いていると、やがて質素な扉の前でリックスが立ち止まった。


「お三方をお連れしました」

「・・・・・・どうぞ」


 リックスがノックして中に声を掛け、返事を聞いて扉を静かに開く。

 

「お初にお目にかかります。私がこの空中都市ラームの領主代理、レットでございます」


 そこには、この館ですれ違った人たち同様に、跪いた初老の男の姿があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る