第178話 タゴサク、増長する
「どんな感じですか?」
変化した自分の力を確かめるかのように、手を開いたり握ったりしているタゴサクの顔を、興味津々なフローネが下から覗き込む。
「自分が自分じゃないみてぇだ。今ならなんだって出来そうな気がする」
人格まで変わってしまったのか、フローネの色仕掛け? にも動揺せず淡々と答えるタゴサク。その視線の先には、先程の手合わせで、手も足も出なかったカズキの姿があった。
「成程。雷系の魔法を使わないと、真価を発揮しない仕様か。それなら勇者の為に創られた剣だという事に納得がいく。ただ、たかが二倍程度の【フィジカルエンチャント】に容量を食われすぎて、効果がイマイチなのがもったいない。【フィジカルエンチャント】を外して、雷の増幅に特化した方が良さそうだな」
当のカズキは魔剣の分析に夢中で、タゴサクの視線など意に介していない。
「なんか格好いいな! にーちゃん、俺もアレやりたい!」
「【トール】が使えればそれで問題は解決するが、魔力がまだ足りないか。わかった。もう少し威力の低い魔法を創っておくよ」
「ホント!?」
「ああ」
「やったー!」
挙句、タゴサクの姿を見てパクろうと決意したカリムとの話を始めてしまう。
「おい!」
これに我慢がならなかったタゴサクは、自分に注意を向けようと、ついにはカズキに向かって怒鳴り声まで上げる。カズキに剣を復活して貰った事も忘れているようだ。
「タゴサクの奴、力に酔ってるな。いつもの態度が嘘のようだ」
「「・・・・・・」」
エストの言葉に、ラクトとコエンが揃って目を逸らす。劣化【フィジカルエンチャント】を使った訓練で少しだけ成果が出た途端に調子に乗って、オーガ退治の依頼で醜態を晒したのはつい最近の事だったからだ。
「もう一度オラと戦え! 今度はさっきのようにはいかねーぞ!」
増長しているタゴサクは、そう言ってカズキに対して剣の切先を向ける。外野の生温かい視線には気付いていないらしい。
「・・・・・・これもマジックアイテムの副作用なのか? それとも勇者特有の現象か?」
タゴサクの様子にやれやれといった表情になったカズキは、カリムを下がらせて独り言ちる。そして、先程の様に木の枝を手にして、顎をしゃくってみせた。
「っ!」
たったそれだけの挑発で激昂したタゴサクは、いつもの様に剣を逆手に構え、そして音もなく飛び出す。
「「「消えたっ!?」」
「「「「「速いっ!」」」」」
タゴサクの動きを捉えられなかったラクトとコエンが叫ぶ。残りの人間は、今までとは全く違うタゴサクのスピードに、驚きの声を上げた。
「へぇ、速いな」
そしてカズキは、当たり前の様にタゴサクの攻撃を避けながら、そんな事を呟いていた。
「やるな! だが、今のは小手調べだ!」
叫びながら更にスピードを上げ、次々と斬撃を繰り出すタゴサク。それをカズキは反撃に出る事もなく、紙一重に躱していく。
「オラオラオラオラ!」
自分からは手を出さず、ギリギリで躱すカズキの様子を『反撃する余裕がない』と勘違いしたタゴサクは、更に回転を上げ、止めの【ギガス〇ッシュ】を放つタイミングを窺い始める。
「ここだ! 【ギガス〇ッシュ】!」
タゴサクのスピードの上昇が止まったタイミングで、わざと隙を見せたカズキの思惑通り、タゴサクが勝負に出た。
【ギガス〇ッシュ】の発動と同時に爆発的な魔力の消費がなされ、更に加速したタゴサクは、その勢いのまま、カズキ目掛けて渾身の力で剣を振るう。
先程と同じように
自分では気づいていなかったが、心の底では
「これで終わりだああああああああ!」
勝利を確信したタゴサクが、カズキの体に剣が到達する寸前に雄叫びをあげる。だが――。
「うん。大体わかった」
という言葉と同時に放たれた、タゴサクよりも速くて鋭い、下からの斬撃に剣を(またしても)切断され、体に到達する寸前に止められた木の枝から放たれた衝撃波に、上空に吹っ飛ばされた。
「うわあああああ!」
吹っ飛ばされた事と、またしても剣を切断された事による、二重の意味での悲鳴を上げながら、錐もみ落下してくるタゴサク。
そんなタゴサクを、このまま墜落死されても気分が悪いからと、魔法でゆっくりと地面に降下させた時、事件は起こった。
マジックアイテムの効果が続いている影響で、性格が変わったままのタゴサクが意趣返しをしようとカズキの至近にまでフラフラと近づき、あろう事か【ブロウアップ】を発動するという暴挙に出たのだ。
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