第152話 振り出しに戻る

「美味しいです! ファイアドラゴンが『お肉』って感じなら、ウォータードラゴンは『お魚』って感じの味ですね!」

「「「「ミャー♪」」」」


 ラウムドラゴンのエリアを捕獲したカズキ達は、早速とばかりに味見を始めた。


「ああ、生肉に何の効果もなかった時は落胆したし、その割には十分経つと消え失せたりで理不尽な気もしたが、味は文句ないからな」

「そうだな。こうなると、他のドラゴン肉とも比較してぇところだが・・・・・・」


 アルフレッドがそう口にした瞬間、その場にいた全員の頭に浮かんだのは、姪の無残な姿に耐えられないと言って、唯一ここにいないロイスの姿だった。

 ロイスの心情を考えれば当然の言葉だと一同は思ったが、真相は違う。

 昔から姪の我侭に振り回されてきたが、今回、自分の落ち度とはいえ『誓約』を破られた事で、ロイスから姪を庇うという気持ちはとっくに失せている。

 ならばこの場にいてもよさそうなものだが、二体のドラゴンを食べ比べた結果、他のドラゴンも、と誰かが言い出すのは想像に難くない。

 その状況に陥った場合、ロイスには打つ手がないので、姪を理由に同席を避けたのである。

 



「さて、肝心の師匠の居場所だが・・・・・・」


 心行くまで二頭のドラゴン肉を堪能した翌日、クロノスドラゴンの『クロノ』と、彼が封印している『リントヴルム』の居場所を知ろうと、一同は再び養殖場へ集結した。


「養殖ドラゴン二号なら、空間魔法で居場所がわかるって話だったよな?」


 魔法で強制的に眠らせたエリアを見上げながら、カズキがロイスに確認を取る。

 

『うむ。その筈じゃ』


 昨日、姪の状態に悲痛な表情を浮かべていたロイスに配慮してか、五体満足の状態に戻っているエリアを見て、安堵の表情を浮かべる(という演技をした)ロイスが簡潔に答えた。

 

「なら、早速話を聞くとするか。・・・・・・ロイスはどうする? 素直に話してくれない場合、昨日と同じ状況になると思うんだが」

『・・・・・・気遣いは不要じゃ。儂の話に耳を傾けず、お主らに襲い掛かって返り討ちにあったのは、エリアの落ち度じゃからな。殺さないでいてくれるだけでも有難いと思っておる』

「そうか? なら遠慮なく」


 覚悟を決めたというような表情を浮かべた(もちろん演技)ロイスに頷いたカズキが、ラウムドラゴンに掛けている魔法を解除すると、目出度く養殖ドラゴン二号となったエリアが目を覚ます。


『ああ臭い。最悪の夢を見たと思ったら、今度は目の前に本物のサルがいるなんて・・・・・・。最悪の目覚めですわね』


 そして、相変わらずの調子で人間を見下す発言をした。


「夢?」

『余りに衝撃的な体験をしたせいか、現実逃避しているようじゃな。にも拘らずいきなり襲い掛かって来ないのは、本能がブレーキを掛けているのじゃろう』


 エリアの発言に首を傾げるカズキに、ロイスがエリアに起こっている異変を説明する。


「成程。じゃあ、現実だと思い知って貰うためにも――」


 そう言って、今にもエリアのどこかを切断しそうな雰囲気を醸し出すカズキ。


『待ってくれ! ここはもう一度、儂に任せてくれんか?』


 それを慌てて止めたのは、『姪を心配する叔父』という演技を、絶賛続行中のロイスだった。


『叔父様? どうして叔父様がここに・・・・・・。ハッ!?』


 叔父の必死な様子(笑)に見覚えがある気がしたエリアは、そこで初めて自身の正面にある、山のような質量を誇る生き物の姿に気付き――、そして震え始めた。


『も・・・・・・、もしや・・・・・・』

『気付いたか? そう、あれはフレイじゃ』

『じゃ、じゃあ・・・・・・?』

『左様。お主が夢だと思い込んでいる事は、全て実際にあった事じゃよ』

『っ! ・・・・・・そんなっ!』


 ロイスの言葉に全てを理解したエリアは、カズキを見て即座に逃走を図ろうとしたが、体が全く動かない事に絶望の叫びをあげる。


『無駄じゃ。フレイですら抗えないカズキ殿の魔法を、お主がどうこう出来る筈がない』

『助けて、叔父様! 叔父様ならっ!』

『それも無理じゃ。覚えておらぬのか? お主が儂を騙し、カズキ殿たちに牙を剝いた事を』

『うっ』


 その言葉に自分がしでかした事を思い出したのか、エリアの動きがピタリと止まる。

 そのタイミングで、一部始終を見守っていた(ナンシーを愛でていた)カズキは初めてエリアに声を掛けた。


「聞きたい事がある」

『ヒィッ! 殺さないで!』


 だが、カズキに声を掛けられただけで、エリアは恐慌状態に陥り、再びガタガタと震え始めた。


「・・・・・・」


 その様子に肩を竦めたカズキは、ロイスに目配せをしてエリアの視界に入らない場所へと移動する。

 エリアが落ち着きを取り戻し、ロイスとまともに話が出来るようになったのは、それから三日後。

 ラウムドラゴンであるにも関わらず、空間把握能力が著しく低いため、『リントヴルム』の居場所がわからないという事実が発覚したのは、その更に二日後の事だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る