第151話 叔父の心姪知らず

『・・・・・・眠りから醒めて最初に見る事になるのが、まさか下等生物のサルになるとは。何故邪魔をなさいましたの? 。お陰で臭くて臭くてたまりませんわ』


 覚醒したラウムドラゴンは、ロイスが危惧した通り、ガッツリと人間を見下す発言をし、更には排除を試みた事まであっさりと口にした。

 これに慌てたのが、であるエリアを守ろうと、土下座までして説得する時間を貰ったロイスである。


『止さぬかエリアッ!』

『( ゜Д゜)ハァ? 何を言っているんですの? 叔父様。どうして全ての種の頂点に立つドラゴンであるわたくしが、アホ面下げて我々を見上げるしか能のないサルに気を使わなくてはなりませんの?』


 ロイスの気も知らず、更に人間を見下す言葉を重ねるエリア。


『・・・・・・儂に免じて、人間と仲良くしてくれんか? 『リントヴルム』を倒すには、彼らの力が必要なのじゃ』


 対してロイスは、肉親の情に訴える作戦に切り替えた。


『オーッホッホッホ! 面白い冗談ですわね! ヒュドラ如きに遅れを取って壊滅しかけたサルが、何の役に立つと?』

『儂らが一千年眠っている間に、その人間からドラゴンを圧倒する存在が現れたのじゃ! 現に、ファイアドラゴンのフレイですら、何も出来ずに捕獲されたのじゃぞ!』

『まぁそれは凄い! ・・・・・・なんて私が言うとでも思いまして? いけ好かない悪食のクソ野郎ですけど、フレイの強さは私達ドラゴンの中でも群を抜いています。大方、フレイよりも強いと聞けば私が人間サルに協力すると考えたのでしょうけど・・・・・・。そのような嘘にわたくしが騙される筈もないでしょう? 真っすぐな性格故に、嘘が苦手な叔父様とはいえ、ちょっと今回は酷すぎますわ。騙すにしても、もう少し説得力のある事を言わないと』

『・・・・・・駄目か』


 ロイスの決死の説得が、失敗に終わった瞬間だった。

 ドラゴンの中で最強の力を持つフレイを、たかが人間が倒したという話に信憑性がないのが最大の敗因である。それほど、フレイと他のドラゴンの間には埋まらない実力差があるのだ。

 逆の立場ならば、自分も信じるかどうか怪しい話なので、仕方ないと言えば仕方ないのだが。


『・・・・・・ならばせめて、人間に危害を加えないと約束してくれんか?』


 そうなるとロイスが取れる手段は一つ。それは、エリアがカズキ達と敵対しないように仕向ける事だけだった。


『何故そこまでしてサル共を庇うんですの? いくら人間サル贔屓の叔父様といえども、いつもはそこまで食い下がりませんわよね?』

『それは先程から言っておるじゃろう。人間を敵に回したら最後、お主はなす術もなく捕獲され、死ぬことも許されずに養殖場送りになるからじゃ』


 フレイの事を思い出したのか、妙に真に迫った様子のロイスの言葉にエリアの本能が警鐘を鳴らす。

 

『・・・・・・わかりました。叔父様に免じて、をサルがしなければ、こちらから手を出す事は無いと約束いたします』


 だが、フレイ同様に、エリアは本能の警告を無視した。


『本当か!?』

『ええ。その時は、叔父様も?』

『危害を加えられそうになった場合は不可抗力じゃろうな。・・・・・・お主を信じておらぬ訳ではないが(嘘)、その条件で誓約できるかのう?』

『構いませんわ』


 『誓約』という言葉を出したロイスが、ドラゴン同士でしか使えない特殊な魔法を使い、(内心でほくそ笑んでいる)エリアと誓約を結ぶ。

 誓約を破ろうとで警告として体中に激痛が走り、誓約を破ると体の内側から爆発して木っ端みじんになるという、中々に過激な魔法であると、カズキ達はロイスから説明を受けていた。

 ドラゴンが使う魔法に興味津々な魔法使い達が、ロイスが目覚めた後に根掘り葉掘り聞いた結果だ。

 

『うむ。魔法は正常に働いておる様じゃな』

『ええ! それでは早速、目障りなサル共をぶち殺しますわね!』

『エリア! お前は一体何を・・・・・・、グゥッ!』


 誓約の魔法が正常に働いている事を確認した直後に、エリアが『真・アーネスト号EX』目掛けて水のブレスを吐いた。

 それを咄嗟に止めようとして体中に激痛が走った時、ロイスは漸く自分が犯した過ちに気付く。

 目覚めた時から人間への敵意を隠そうともしなかったエリアには、先程の誓約は無意味だったのだと。


『オーッホッホッホ! サルなんて根絶やしにして差し上げますわぁ!』

『すまぬ、エリア・・・・・・』


 勝利を確信し、高笑いを上げているエリアに向かって、ロイスは守れなかった事を謝罪する。

 必殺のブレスをあっさりかき消され、泡を食って逃げようとしたところでクリスに強襲されて、四肢と翼と尾を切断されたエリアが養殖場送りになったのは、その直後の事だった。

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