第145話 ファイアドラゴンとの戦い その二

『クハハハハ! 貴様は炎の加護を持っていたのか! 成程! それなら我のブレスを防いだ事にも納得がいく! だが残念だったな! 我の加護は人間よりも数段上! 炎の魔法しか使えない貴様では、我に傷をつける事は叶わんぞ!』


 カズキが手にした炎の剣を見て、フレイが息を吸いながら高笑いを上げた。会話は魔法で行っているとはいえ、中々に器用なドラゴンである。


「・・・・・・前に、似たような事を口走った奴がいたなぁ。あれは誰だったっけ?」


 フレイの言葉に過去の記憶を刺激されたカズキが、暫し考えるような仕草を見せる。


「うーん。思い出せない。きっと、どうでもいい事なんだろう」


 そして、あっさりと諦めた。

 因みにだが、似たようなセリフを口にしたのは、入学して一ヵ月が経った頃、ランキング戦で戦ったコエンである。

 当時のカズキはコエンを個人として認識していなかったので、記憶が曖昧なのも仕方がないのだ。


「そんな事よりもアイツの尻尾だ。下手に動かれると間違って首を落とす可能性があるから、ブレスを吐いた直後を狙おう。何でか知らんが一瞬硬直するみたいだし」


 そう言って待ちの姿勢に入ったカズキに向かって、溜めを終えたフレイがブレスを吐き出した。

 

『ヒャハハハハ! 今まで自分を傷つける事のなかった炎で焼かれる気分はどうだ!? 辛かろう? 苦しかろう? 命乞いの一つや二つでもしてみせれば、一思いに喰らって――ギャァアアアアアアアア!』


 カズキがいい感じに焼けたところで喰らおうと、ブレスの威力を徐々に上げていたフレイが、尻尾に生じた激痛に悲鳴を上げる。

 先程話していた通り、ブレスを吐いた直後に硬直したフレイの一瞬の隙を突いて、カズキが魔剣と化した【レーヴァテイン】を振るった結果だった。


「安全策を取って硬直したところを狙ったけど、気付いている様子は全くなかったな」

『ぐああああああああああああ!』


 根本から切断した尻尾の大半を仕舞い、ごく一部(それだけでも百キロくらいあるが)の肉を火で炙りながらカズキが独り言ちる。悲鳴を上げているフレイは、当然の様に放置だ。

 

「ミャー♪」

「ニャー♪」

「うん。味付けしなくても抜群に美味いな。尻尾だからもっと硬いのかとも思ったけど、普通に嚙み切れるし。休眠中に全く動かさなかった事も影響してるのか?」

『・・・・・・いや、儂に聞かれても困る。同族を喰おうと考えた事など、一度もなかったからの』

『痛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』

「そういえば、そんな事を言ってたっけ。うーん。どっかに活動中で、人間に敵対的なドラゴンでもいれば比較が出来たんだけど・・・・・・」


 物足りなそうなクレアに自分の肉を献上しながら、カズキが考え込む。


「ミャー」


 その悩みに答えを出したのは、食べる事に関しては他者の追随を許さないクレアだった。


「ん? ああ成程。養殖して、強制的に運動させればいいのか。クレアは頭良いなぁ~」

「ニャー」

「そうだな。比較する為にも、色んな部位の肉を調達する必要がある。確保する部分は、クレアが指示してくれ」

「ニャッ」

『・・・・・・』

「ミァ・・・・・・」


 二人の会話にドン引きしているロイスを放置して、クレアとカズキは本格的に行動を開始。

 満腹になって眠くなったナンシーは、二人の邪魔にならないようにと、自主的に【次元ハウス+ニャン】に移動した。

 

「ニャッ」

「先ずは右前脚か」

『グギャアアアアアアアアア!』

「ミャッ」

「次は左前脚ね」

『ギャアアアアアアアアアア!』

「ニャー」

「次は後脚か。これは味が同じだからどっちでもいい、と」

『ギョエエエエエエエエエエ!』


 フレイには対応できない速さで剣を振るうカズキの前に、四肢が捥げ、翼もなくなり、更には体のあちこちに穴が開いている巨体が横たわったのは、それから僅か十分後の事だった。


「ミャーオ」

「これで一通りの部位は確保できたな。残るのは頭部だけど・・・・・・」

「ニャー」

「そうだな。それは時間を操る魔法を覚えてからにしよう。時間が止まっていれば、首を切り落としても死なないからな」

『・・・・・・』


 フレイの目と鼻の先でそんな会話をしながら、焼肉を楽しむクレアとカズキ。

 その様子を、息も絶え絶えなフレイが屈辱に震えながら見ていた。大人しいのは苦痛に耐える為だが、じっと機を窺っている為でもある。

 得体の知れない方法(フレイ視点)で四肢を捥がれたフレイは、カズキの注意が逸れるのをジッと待つ。そして、遂にその時が訪れた。


「カズキさん! クレア!」

「お、フローネ」


 町での治療に一段落ついたのか、食べ物が絡んだ時にだけ発揮される、魔力による身体能力強化を駆使して、フローネが駆け付けたのだ。


『死ねえええええええええええええ!』


 それまでブレスを吐く事しかしていなかったフレイから、突然魔法が放たれる。

 ドラゴンにも魔法を使える者と使えない者がいて、フレイは後者だと周りに思わせて来た。自分よりも強い同族を相手にする時、不意打ちで仕留める為である。目的の為に手段を選ばないのが、フレイというドラゴンなのだ。


『なっ! 今まで力を隠しておったのか! マズい!』


 突然発生した火球になす術もなく呑み込まれたカズキ達の姿を見て、ロイスが絶望の声を上げた。

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