第90話 タゴサク、散る
「【ギガ〇イン】!」
タゴサクが唱えた呪文に応じて、雷がゴブリンエンペラー達に降り注ぐ。
つい先程まで使えなかった魔法を使えるのは、ゴブリンを倒してレベルアップしたからだろうか。
だが、タゴサクが自身満々に使った魔法は、取り巻きのロードの内の一匹が張った魔法障壁にぶつかり、あっさりと霧散させられてしまった。
しかし、タゴサクに動揺はない。彼は最初から、【ギガ〇イン】でエンペラーを倒そうとは思っていなかったからだ。
「・・・・・・行くぜ。【ギガス〇ッシュ】!」
そう、本命はこちら。ゴブリンに【ギガ〇イン】を見舞うのと同時に、自身の剣にも雷を落としていたのだ。
【メガデイン】の倍の威力を持つ【ギガ〇イン】。そこから放たれる【ギガス〇ッシュ】の威力の前に、ゴブリンロードが張った魔法障壁が霧散する。
その結果に気を良くしたタゴサクは、勢いのままにエンペラーに突撃しようとしたが、それは果たせなかった。
途中にいるロードが、障壁を破った事で威力が減衰した【ギガス〇ッシュ】を、手にした剣で受け止めていたからだ。
「そんな!?」
予想外の結果に、慌てて飛び退るタゴサク。予想通りの結果だと、うんうんと頷くウェインとカリム。
「覚醒したオラの一撃を防ぐなんて・・・・・・! 不味い。ここで食い止めなければ、この先にある町が滅ぼされてしまう!」
一人で盛り上がり、勝手に悲壮感を出すタゴサク。
少年と騎士にエンペラーの始末を任され(と、勝手に思い込んでいる)、それを引き受けた以上、ここで諦める訳にはいかない。
だが、自身の最大最強の技である【ギガス〇ッシュ】を防がれた今、打つ手がないのも事実だった。
「・・・・・・いや」
そこまで考えて、タゴサクは首を振る。まだ打つ手がある事に、たった今思い至ったからだ。
それは、【メガデイン】などと同じく、勇者の中でも選ばれた者(初代の直系)にのみ許された魔法。その名も【ブロウアップ】。
全ての
しかも、魔法を使った本人は暫くすると復活する為、学院長になってこの魔法の存在を知ったジュリアンの認識は、『リサイクル可能な自爆テロ魔法』であった。
「二人共聞いてくれ。オラはこれから、敵のボスに特攻をかける。今のオラの力なら、取り巻きを排除してボスにもダメージを与えられるはずだ。その隙を見逃さずに、ボスを討ち取って欲しい」
名前も知らない二人に一方的に捲し立てたタゴサクは、【ギガス〇ッシュ】の効果が残っている内にと、返事も聞かずにゴブリンへと吶喊する。
彼は今、このシチュエーションに酔っていた。
「頼んだぞ、二人共! 喰らえ! 【ブロウアップ】!」
同じことを繰り返すタゴサクに、嘲笑の笑みを浮かべたゴブリンロードが、再びタゴサクの剣を受け止める。それと同時にタゴサクの魔力が膨れ上がり・・・・・・、表情を驚愕へと変えたロードを巻き込んで、爆発が起こった。
「「「おおー!」」」
タゴサクの自爆芸を見て、拍手と歓声を上げるカズキ達。次いで、黒い棺が、ゴブリン達が目指していた方向へと飛び去って行った。
そして、肝心の結果はと言うと・・・・・・。
「予想していた通り、やっぱ無理だったか。まぁ、派手な爆発が見れたから、見世物としては面白かったけど」
カズキの言葉が全てを物語っていた。被害と言えば爆発に巻き込まれたゴブリンロードが若干煤けている位で、タゴサクが語ったような、他のゴブリンへのダメージは一切ない。つまり、完全な無駄死にである。
「そうですね。彼の戦闘能力は、冒険者のランクとしてはC級位でしょうか。魔物ランクC級のゴブリンロードを一対一で倒すにはBランクの実力が必要なのに、更にエンペラーの能力によって強化されています。あの結果は妥当な所かと」
「詳しいんですね、ウェインさん」
すらすらと解説を始めたウェインに、カズキが感心の声を上げる。
「今は騎士として活動していますが、私も学院の卒業生ですからね。これでも、Aランクのライセンスを持っています」
「先輩だったのか・・・・・・」
「ええ、ジュリアン殿下と同級生です。学生の頃は、殿下と、リーザの冒険者ギルドの支部長であるテオ、私の三人でパーティを組んでいました。・・・・・・何度死にそうな目にあった事か」
昔を思い出し、遠い目をするウェイン。若かりし日のジュリアンに散々振り回されたのであろう。
「・・・・・・それに比べると、カリム君は既にBランクの実力がありますね。その若さで自分に出来る事と出来ない事をしっかり理解しているし、状況判断も的確だ。きっと、良い冒険者になるでしょう」
「ホント!?」
気を取り直したウェインが、自分の評価を気にしているカリムに気付いてそう言った。
「ええ。エンペラーを倒して戻ったら、私からギルドに推薦しておきます。身内以外のランクA以上の冒険者が推薦すれば、有望な冒険者のランクを引き上げる事が可能になりましたから」
ラクトやフローネのランクが上がったのも、この制度によるものである。
「そんな事できるの!? やったー!」
諸手を挙げて喜ぶカリムに、その場の雰囲気が弛緩する。
無傷のゴブリン軍団が残っているにも関わらず、そんな事をしている余裕があるのは、ゴブリンエンペラーが動かないからだ。――正確には、動けないのだろうが。
「さて、ナンシーも眠そうにしている事だし、さっさと終わらせるか。」
「・・・・・・ミャー」
ウトウトしているナンシーを刺激しないように、カズキがゆっくりとゴブリン軍団に目を向ける。
途端に、今まで動かなかったゴブリン達が活発に動き出した。
カズキと目が合って身の危険を感じたエンペラーが、一丸となってカズキに襲い掛かるよう指示を出したからだ。――指示を出した当人は、部下を見捨てて逆方向に駆け出していたが。
「部下を使い捨てて、自分は生き残る作戦か? エンペラーと大層な肩書がついても、やる事は結局、ノーマルゴブリンと同じか」
興味なさそうにそう言って、カズキが【コキュートス】を発動する。
次の瞬間には絶対零度の吹雪がゴブリン達に襲い掛かり、それが止んだ時には三百近い数のゴブリンの氷像が出来上がっていた。
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