第75話 トーナメント三回戦 マイネVSエスト
トーナメント本戦三日目。この日は、各部門の二回戦が行われた。
カズキのパーティメンバーは、特に苦戦する事もなく勝利し、カズキのライバルを自認するエストも、危なげなく勝利を収めている。
一回戦最後の試合で注目を集めたタゴサクは、苦戦しながらも勝利を捥ぎ取り、学院へ入学する権利を手に入れた。
そして迎えた最終日・・・・・・。
「さあ! いよいよこの日がやって参りました! 一週間に渡るトーナメントも今日が最終日! 過酷な三連戦を勝ち抜いて、勝利の栄冠を掴むのは誰なのでしょうか!?」
今日もクリスのアナウンスは絶好調だった。
「それでは早速参りましょう! 三回戦最初の試合は、初戦から学院生離れした魔法を見せつけた、ラクト・フェリン選手の登場です!」
その声に応じてラクトが姿を現すと、客席から大きな歓声が上がった。
「その類い稀なる魔法の才能から、彼こそが『大賢者』なのではないか!? などという声も上がっております! 果たして真相は如何に!?」
クリスの煽りに、更に沸く観客達。
「・・・・・・勘弁してよ」
迷惑そうに当の本人であるラクトが呟く。
他ならぬ『剣帝』がそんな事を言おうものなら、信じてしまう者が出かねないからだ。
「『大賢者』・・・・・・。古文書(攻略本)に書いてあった、あらゆる魔法を使いこなす『賢者』よりも上の存在に違いねえ。間違いねえだ。ラクトっちゅう人が、召喚された魔法使いだ!」
そして、ここに信じた者がいた。邪神を倒す使命を持つ、勇者タゴサクである。――尤も、彼はクリスが『剣帝』だという事は知らない。根が単純な上に、『剣帝』は学院生だと思い込んでいるので、クリスの言葉を鵜呑みにしてしまったのである。
「決まったぁ! ラクト選手、試合開始と同時に発動した魔法で、対戦相手を一蹴! 相手に何もさせずに勝利してしまいました!」
「正に鎧袖一触。巷で『大賢者』なのではないか? と噂されるだけの事はありますね」
ジュリアンまでもが、ラクト=『大賢者』説を吹聴する。面白がっているのは明らかだった。
「・・・・・・はぁ」
何を言っても無駄だと分かっているラクトは、溜息を吐いてその場を後にする。何故試合よりも、
ラクトの試合の次は、マイネの出番だった。
「さあ! 次に登場するのは、皆さまご存知のこの人! 学院始まって以来の快挙を成し遂げた、マイネ・センスティア選手です! 彼女は入学から今日まで、一度として負けた事がありません! トーナメントに出れば毎回優勝! 学院内のランキング戦でも、全ての部門で一位を独占しています! 果たして、彼女を止める事が出来る存在が現れるのか!? それとも、彼女の無敗伝説が続くのか!? どちらに転んでも、我々は歴史の目撃者になる事でしょう!」
「・・・・・・」
クリスの煽りは続く。次の標的になったマイネは、羞恥心を押し殺しながら登場した。
そして当然のように、タゴサクの勘違いも発動する。
「今まで誰にも負けた事がねえだか!? エストっちゅう人が『剣帝』だと思ってたけんど、それは間違いだったんだべか?」
そんな事を考えながら、マイネに注目を向けるタゴサク。対戦相手を確認すると、タゴサクが『剣帝』だと思い込んでいたエストの姿がそこにはあった。
「対するは、圧倒的な剣技でここまで勝ち上がったエスト選手! この勢いのまま、マイネ選手の牙城を崩せるのか!? 注目の一戦、試合開始です!」
クリスの開始の合図と同時に、両者が動く。小細工なしに正面から剣を振り下ろすエストに対し、マイネは下から斬り上げた。結果、両者の剣はぶつかり合い、キィンという甲高い音と、激しい火花が散った。
「・・・・・・やるな」
「そちらこそ」
動きが止まった二人は、互いに声を掛け合って、仕切りなおすために開始位置に戻る。
「なんと! 今まで一撃で試合を終わらせてきた両者の剣が、この試合で始めて交わりました! 共に技量は互角の模様です!」
クリスのアナウンスが響く中、先に仕掛けたのはエスト。
「ハッ!」
気合の声と共に踏み込み、速度の乗った突きを放つ。対するマイネは、自身に切先が届く寸前で、半歩体をずらし、横から剣を叩きつける事で突きをいなそうとした。そのまま体勢を崩したエストにカウンターの一撃を見舞おうという目論見である。
「っ!」
その瞬間、エストの剣が引かれる。結果、マイネの剣はエストの剣に触れる事無く空を切った。
「フェイント!?」
気付いた時には遅かった。逆に体勢を崩したマイネに向けて、再度、エストの突きが放たれる。
「クッ!」
咄嗟の判断で、地面に身を投げるマイネ。だが、転んでもただは起きぬとばかりに、体勢を崩したままエストの足を狙って斬撃を繰り出した。
「チッ」
舌打ちしたエストは、追撃を諦めて大きく飛び退る。以前、カズキと戦った時の記憶(よろめいたカズキに、足を砕かれた。凄く痛かった)が、大袈裟な回避行動をエストに取らせたのだ。
「・・・・・・危なかった。カズキさんとエストの戦いの様子を聞いていなかったら、今ので負けていたでしょうね」
立ち上がったマイネが呟く。今までにない泥臭い戦い方だったが、マイネは気にした様子もない。
むしろ、久々に実力が伯仲した相手と戦えるとあって、口元には笑みが浮かんでいた。
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