第74話 タゴサク、頑張る

 エスト、マイネの勝利を見届けた一行は、当初の予定通り帰ろうと、席を立った。


「ん?」


 その時、カズキが違和感を覚えて立ち止まる。


「どうしたの?」


 不意に立ち止まったカズキを見て、エルザも立ち止まった。そして、カズキが気にしている、闘技場の入場口付近へと視線を向ける。


「あら、タゴサクじゃない。目を覚ましたって事は、試合に出るつもりなのかしら?」

「でも、魔力切れで倒れたんだから、まともには動けないよね?」


 やはり立ち止まったラクトが、そんな事を口にする。

 通常、魔力切れで倒れた者は、半日近くはまともに動けない事が多い。ラクトの疑問も尤もだった。


「いや、その心配はない。何故かは知らんが、魔力が全快してる。ついでに少し上がってる」

「嘘っ! 何で!?」


 ラクトの魂の叫びに、カズキは肩を竦めた。


「さあ? 勇者の特殊能力とかじゃねえの?」


 正解である。某ドラ〇エ風のゲームを目指した神が、寝て起きると、HP体力MP魔力が全快するようにした為だ。


「・・・・・・なんか、自信に満ち溢れた顔をしてるな。もしかして、れべるとやらが上がって、【メガデイン】が使えるようになったのか?」


 呟きながら、また席に座りなおすカズキ。

 その言葉に興味を惹かれたのか、他の皆も席に座りなおした。


「もしかして、さっきの戦いで【キロデイン】を連発していたのは、魔力が回復する事を前提に、れべる? を上げる為だったのでしょうか?」


 マイネが推測を口にする。確かに端から見れば、そう考える事も出来なくはない。だが、それは勘違いである。


「成程、それなら先程の試合を棄権しなかった事も納得できます。戦えば戦うほど強くなるのだとしたら、負けを前提に無茶が出来る。僕が同じ立場なら、やはり同じ事をしたでしょうし」


 ラクトもマイネに同意した。勿論、勘違いであるが。


「なら丁度良かったわね。この中でタゴサクと戦う可能性があるのはフローネだけ。この試合で、彼の真の実力を見極めさせてもらいましょう」


 そう言って、エルザは何処かへと姿を消した。

 突然の行動に、皆が疑問を顔に浮かべる。かと思えば、数分で戻ってきた。その顔に、満面の笑みを浮かべて。


「どうだった?」


 そう尋ねたのは、カズキだった。彼だけは、エルザの行動に心当たりがあったらしい。


「バッチリよ。先の二戦で無様な負け方をしたせいか、二十倍になってたわ」


 どうやら、トトカルチョでタゴサクの倍率を確認してきたらしい。勿論、それで終わる訳もなく、当然のように、タゴサクに賭けていた。


「え~、これより、一回戦最後の試合を始めます。尚、この時を以て、本日のトトカルチョの受付は終了致しました」


 そんな話をしているところに、クリスのアナウンスが流れる。

 それに応じて、タゴサクと、その対戦相手が中央に進み出た。


「では、トーナメント一回戦最終戦。通常戦闘の部、始め!」


 審判を差し置いて、何故かクリスが開始の合図を出す。それに反応した二人は、示し合わせたように、互いに距離を取った。


「【ファイア・アロー】!」


 先手を取ったのは対戦相手の方だった。距離を取ると同時に、素早く牽制用の魔法を放つ。


「ハッ!」


 タゴサクは迫りくる炎の矢を、気合の声と共に振るった剣で迎撃。見事、炎の矢を霧散させた。


「「「おおーーー!」」」


 これを見た観客席が沸いた。今日までの試合の中で、そんな真似をしてのけたのは、タゴサク唯一人だったのだから、当然の話かもしれない。


「剣で魔法を斬った!? クリスさんや、カズキさんにしか出来ないと思っていたのに・・・・・・」


 一方で、ショックを受けたのはマイネである。話を聞いて以来、必死に修得しようと努力している自分の前で、タゴサクが当たり前のようにそれを使いこなしたのだから。


「ねえカズキ。タゴサクにあんな事が出来るとは思えないんだけど?」


 ラクトも納得できなかったのか、カズキにそんな質問をする。


「・・・・・・魔力が動いた気配はなかった。って事は、あれは魔剣か?」


 カズキも気になっていたのか、タゴサクの持っている剣をジッと見つめた。


「・・・・・・極微量だけど、ミスリルが混ざってるみたいだな。さっき位の魔法をかき消すのが精々の、本当に少ない含有率だ」  

「そうでしたか・・・・・・」


 カズキの言葉に、マイネが落ち着きを取り戻した。


「そういえば、初代勇者が魔剣を所持してたって話があったよね。あれがそうなのかな?」


 安心したラクトが、魔剣そのものについて言及する。


「その話は初耳だが多分そうなんじゃないか? 俺達が捕獲して回った勇者の中に、魔剣を持ってる奴はいなかったし」


 邪神を討伐するに当たって、勇者武器にして戦う為に、彼等を狩って回った時の事を、カズキは思い出して答えた。


「という事は、タゴサクが正当な勇者の末裔って事?」

「そうかもな。それよりも、そろそろ動きがあるぞ」


 カズキの言葉に、皆がタゴサクに注目する。

 武器戦闘の時とは違い、タゴサクは慎重に戦っていた。相手も【キロデイン】を警戒してか、不用意に踏み込むことはしない。そのせいで、膠着状態に陥っていた。――入場する前の、自信に満ち溢れた顔はなんだったのか。


「このままじゃ埒が明かねえべ。『剣帝』や『聖女』、そしてラクトっちゅう人に認めて貰えねえと、邪神を倒す事も出来ねえ。今までの試合で晒した、無様な印象を払拭する為には、オラの強さを見せねえと!」


 叫んだタゴサクが、【キロデイン】を対戦相手にお見舞いする。備えていた相手は、稲妻を飛び退って躱した。その隙に、タゴサクも大きく後ろへ下がる。


「ぶっつけ本番だけんどやるしかねえ!」


 そう言うと、タゴサクは剣を天に掲げた。


「【メガデイン】!」


 新しい魔法を警戒してか、相手は更に後退する。だが、稲妻が落ちた先は、タゴサクが掲げた剣だった。


「おーっと! タゴサク選手の剣に稲妻が落ちてしまった! 魔法の発動に失敗したのでしょうか!?」


 クリスのアナウンスを他所に、タゴサクは右手に持った剣を逆手に握りなおして、腰だめに構える。

 その剣には稲妻が纏わりついて、光り輝いていた。


「・・・・・・成功だべ。初めての技だから、勝手が分からねえだ。悪いけんど、どうにか防御して欲しい。――【メガスラッシュ】!」


 どこかで聞いた事のありそうな技の名前と共に、タゴサクがその場で剣を振るう。

 すると、斬撃の形をした稲妻が、相手に向かって猛烈なスピードで飛んで行った。


「【アース・シールド】!」


 タゴサクの言葉に嫌な予感を覚えていた相手は、忠告通りに魔法で防御した。

 だが、タゴサクの放った【メガスラッシュ】は、土の障壁を破壊して相手に到達。その身に電撃を浴びせて消滅した。


「「「「・・・・・・」」」」


 静まり返る闘技場。皆が固唾を飲んで見守る中、対戦相手がその場に倒れ・・・・・・、そして、起き上がってこなかった。


「勝者! タゴサク!」


 相手の様子を確認した審判がタゴサクの勝利を告げると、歓声が爆発した。

 一般参加からの出場者が本戦で勝ったのは、実に十年ぶりの出来事だったからだ。

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