第48話 シーサーペントを食べてみた

「全然遭遇しないな。いっそ、魔法で探すか?」


 一時間が経った頃、リーザで買ったソファ(観光中にナンシーが気に入ったので、即購入)を用意しながら、カズキがそんな事を言い出した。

 猫たちが食事を終え、一斉に昼寝をしてしまったので、暇になったのである。


「その必要はない!」


 やけに力強い言葉で返答したのは、当然のようにアーネストだった。


「何故なら、その為の機能も、この船には付いているのだからな!」

「じゃあ、最初から使えよ」


 船に備え付けのシャワーで霜を落としてきたクリスが言うが、アーネストは聞こえないふりをした(今の今まで忘れていたのだ)。 


「では、『真・アーネスト号レーダー』起動!」


 そして、掛け声と共に、手元のボタンを押す。

 だが、傍目には変わった事は無かった。


「・・・・・・何も起きないね?」


 失敗したのだろうかと思ったラクトは、ナンシーを抱いてソファーに寝そべっているカズキに聞いてみた。


「んー? あの魔法は術者を中心に周りの生物を感知するんだけど、感知できるのは術者本人だけだからな。ラクトが期待するような、水面に映像が映るとか、そんな効果はないぞ?」

「・・・・・・そうなんだ。期待してたのに拍子抜けだな」


 ラクトの言葉に、マイネとフローネも頷いた。


「気になるなら、カリムと母さんみたいに試してくれば?」


 その言葉にアーネストの方へ振り向くと、そこにはカリムとリディアがいた。

 二人共ボタンを押したのか、不思議そうな顔で、辺りを見回している。


「おっ! あっちに一匹発見!」

「あら本当。そこから少し離れた所には二匹いるわね。なかなか面白いのね、魔法って」


 何やら楽しそうな二人を見て、三人もそちらへ移動する。

 そして、同じようにボタンを押して、感嘆の声を上げた。


「おおっ! これが古代魔法!」

「遠くにいる生き物の場所が分かるなんて・・・・・・。これがカズキさんが普段見ている世界なんですね」

「凄いです! この魔法があれば、ロック鳥とか、ワイバーンを探せますね!」


 フローネだけは、関心の方向性が明後日を向いていたが。


「それでどうするの? まずは一匹でいる方から狙う?」


 自前で魔法を使っているソフィアが、船長であるアーネストに声を掛ける。


「ああ。まずは一匹捕獲して、味見をしなくちゃならねえからな」

「・・・・・・さっきも一匹だったんだけどな」


 殺されかけたからか、クリスはしつこかった。

 だが、アーネストはまたも聞こえないふりをする。


「野郎ども! これから一匹でいる方を捕獲する! しっかり摑まってろよぉ!」


 一匹目のシーサーペントに突撃を躱された事を忘れ、またも高速で船を動かすアーネスト。

 このままだと、さっきの状況の再現になりそうだった。


「カズキ、頼む」

「分かった」


 ジュリアンの要請に頷いたカズキが、シーサーペントに近づいた所で魔法を掛ける。

 すると、海に潜り込んで突撃を回避しようとしていたシーサーペントが、水上で暴れ始めた。

 水上歩行の魔法を掛けられたので、潜るに潜れなくなったのである。

 そこに、アーネストが操る船が突進。今度は狙い違わず、シーサーペントの巨体を衝角で貫いた。


「よし!」


 思い通りの結果を得られた事に、アーネストが満足気な表情をする。

 そして、カズキに作ってもらった銛(オリハルコン製)を片手に意気揚々と近付き、衝角に縫い留められて藻掻くシーサーペントに止めを刺した。


「さて、こいつを解体バラして味見と行こうじゃねえか」


 アーネストはそう言って、シーサーペントをで甲板に引き上げた。


「「ええっ!?」」

「どうした?」


 驚きの声を上げたラクトとマイネを見て、カズキが不思議そうな顔をする。


「・・・・・・僕の気のせいかな? 今、殿下が軽々とシーサペントを甲板に引き上げてたように見えたんだけど・・・」

「マジックアイテムでは? いくら何でも、あの巨体を一人でどうにかする事が出来るとは思えませんし」

「成程。この船は殿下が一人で運用できるように作った物だから、そういう魔法も必要ですね。納得しました」


 二人が自分達なりの結論を出した所で、カズキからの訂正が入った。


「アーネストはマジックアイテムを使ってないぞ?」

「「え!? じゃあクリスさんみたいに魔力を操ってるの(ですか)?」」

「それも違う。単純に力で引き上げたんだ」

「「ハハハ、そんな馬鹿な」」


 二人は乾いた笑い声を上げて否定した。

 それもそのはず、全長三十メートルのシーサーペントの体重は、少なく見積もっても五十トン以上。気軽に動かせる物ではないのだ。


「やっぱりそういう反応になるよなぁ」


 腕を組んでしみじみと頷くカズキ。彼がアーネストの馬鹿力を目の当たりにしたのは、体長十メートルのクジラを肩に担いで運んでいた時であった。

 その時一緒にいたエルザが、驚くカズキに魔法の言葉を使った事で、妙に納得してしまったのを今でも覚えている。その言葉とは・・・・・・。


「なぁ二人共。アーネストはクリスの兄貴だぞ?」

「「なるほど」」


 エルザに言われた言葉をカズキがそのまま伝えると、二人共納得したようだった。

 それほどランスリードの王族は異常なのだという認識が、二人の間に出来上がっているのだ。

 そんな会話をよそに、アーネストはシーサーペントを魔法で手際よく解体し、早くも味見にとりかかろうとしていた。


「まずは刺身からだな」


 そう言って、シーサーペントの切り身を躊躇いなく口にしたアーネストだったが、次の瞬間には海に向かって吐き出していた。


「ぺっ! 不味っ! なんだこの酷い味は!」


 その言葉に、後に続こうとしていたフローネとカリムは、伸ばしていた手を引っ込めた。


「どんな味なんだ?」


 興味を惹かれたのか、ジュリアンがそんな質問をする。


「澱んだ池の水と、油の塊を足したような味だ」

「・・・・・・良くわからんが、不味いという事だけは分かった」


 嫌そうな顔をして、ジュリアンが引き下がる。

 だが、アーネストはまだ諦めていなかった。


「次は焼いてみよう」


 そう言って、今度はぶつ切りにしたシーサーペントの肉を網の上で焼き始める。

 さっきの刺身で懲りたのか、生焼けの部分がないように入念に火を通し、今度は恐る恐る端っこに噛り付く。そして、先程と同じように海に向かって吐き出した。


「ぺっ! これもダメか! なら次は――」


 諦めずに次の調理法を試すアーネストであったが、結局、煮ても蒸しても燻しても同じ結果にしかならなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る