第47話 初陣
アーネストの操縦で突撃した船は、海中に潜ったシーサーペントにあっさり回避された。
勢い込んで突撃した割には、酷く中途半端な結果である。
自分の思い通りの結果が得られなかったショックで、アーネストは俯いて沈黙。マジックアイテムにより制御されている船も、同様に沈黙した。
「「「「・・・・・・」」」」
他の乗組員も、あまりな結果に言葉を出せずにいる。
いや、よく見ると皆、肩を震わせている。笑いを堪えているのだ。
妙な沈黙がその場を支配し始めた所で、突撃を躱したシーサーペントがヒョッコリと姿を現した。
そして、アーネストを嘲笑うかのように、船の周りをゆっくりと泳ぎ始める。
「っ!」
その様子を見ていた一同の我慢は限界に達した。一人が声を漏らしたのを切欠に、全員が遠慮なく笑い声をあげ始める。
「ぎゃはははは! そりゃあそうだ! シーサーペントだって馬鹿じゃないんだから、突撃されたら躱すよな!」
「そっ、そうだな。ア、アーネスト、こ、今回は運が悪かったと思って、ぷっ!」
クリスが容赦なく兄の失態を笑う。ジュリアンはそれでも弟をフォローしようとしたが、込み上げる笑いに耐えられず、その先の言葉を口にする事はなかった。
そんな中、異変にいち早く気付いたのはカズキである。
ピタリと笑うのを止めると、ジュリアンとクリスを除いた全員を守るかのように、大規模な魔法障壁を展開したのだ。
そんなカズキの様子を見たクリスとジュリアン以外のメンバーも、笑うのを止めて緊張の面持ちでシーサーペントの動きに注視する。
だが、カズキが警戒していたのはシーサーペントではない。
カズキの視線の先にいたのは、俯いて肩を震わせているアーネストであった。
彼は不意に顔を上げると、シーサーペントを見据えて一言呟いた。
「・・・・・・くたばれ」
その言葉と同時に、急激に気温が下がる。
直後、アーネストからシーサーペントへ向けて、猛烈な吹雪が放たれた。中間にはクリスがいたがお構いなしである。
吹雪が過ぎ去ると、氷の彫像が海の上にぷっかりと浮かんでいた。
アーネストが、神話級と呼ばれる古代魔法、【コキュートス】を使ったのである。
「っぶねえ。兄貴! 殺す気か!」
あちこちに霜が付いたクリスが、アーネストに向かって文句を言った。
彼以外はカズキがあらかじめ張った障壁で、ジュリアンも一拍遅れて気付いたので、危なげなく防御魔法を使って防いでいる。
「ちっ!」
アーネストはクリスの抗議に耳を傾けず、舌打ちをして銛(オリハルコン製は一本しかないので、鉄製)を持ち上げる。
そして、凍り付いたシーサーペントめがけて、全力で投擲した。射線上にクリスがいたが、気にした様子もない。
放たれた銛はクリスを掠め(避けなかったら直撃)、シーサーペントに命中。それにより、シーサーペントだった物は、甲高い音を立てて砕け散った。
「『真・アーネスト号』の初陣を汚しやがって」
突撃を回避されたのが悔しかったアーネストは、そう言って漸く怒りを収めた。
どうやら、皆に笑われていた事には気付いていないらしい。クリスに向かって攻撃しているように見えたのも、クリスが偶々アーネストとシーサーペントの間にいた事が原因の、単なる事故であるらしかった。・・・・・・多分。
「ふむ、水の加護を持っているのは伊達ではないな。余波だけでこの威力とは」
ジュリアンの独り言に、ソフィアが反応した。
「ホントね。直撃コースだったら私の魔法では防げないわ。貴方ならどう?」
「普通に防ごうとしたら無理でしょうね。アレなら可能でしょうが」
「そうね。最近漸く形になってきた、魔法の同時使用なら防げそうだけど・・・・・・、何でクリスは魔法を使えないのに、あの程度で済んでいるのかしら? 我が息子ながら、意味が分からないわ」
「あいつもカズキと同様、人間を止めていますから。きっと、我々の理解できない方法で魔法を防いだのでしょう」
ソフィアとジュリアンが好き勝手な事を言っていると、船が動き出した。
新たな獲物を求めて動き出した『真・アーネスト号』(酷い名前である)であったが、仲間が瞬殺された事を警戒したのか、それとも別な理由か、新たなシーサーペントには遭遇しなかった。
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