第42話 勇者退治の報酬

 カズキが勇者を瞬殺する様子を見ていた次元屋のメンバー達は、信じられない面持ちでラクトを振り返った。


「・・・・・・坊ちゃん。彼は何者なんです?」


 リーダーが一同を代表して、ラクトに疑問をぶつけた。


「ええと」


 どう説明しようかラクトが迷っていると、空気を読まないカリムが勝手に説明してくれていた。


「ねーちゃん! にーちゃん凄えな! 『大賢者』なのに、剣で勇者を圧倒しちまった!」

「「「「・・・・・・え?」」」」


 呆然とする次元屋一同がラクトを見る。バレてしまったものは仕方がないと、ラクトは頷いて肯定した。

 そこに、王都の方向から馬に乗った騎士団がやってくる。

 先頭にいたのは、何故かジュリアンであった。


「ジュリアン、どうしたの?」


 エルザが不思議そうな顔をして、ジュリアンに声を掛けた。


「最近、勇者が王都付近を荒らしていてな。それを退治する為に騎士団と行動していたんだ」


 騎士団に被害を出さない為に、ジュリアンが出張ってきたらしい。


「倒せる人間が限られているから分からなくもないけど、クリスはどうしたんだ?」


 平常モードに戻ったカズキが、ナンシーを撫でながらジュリアンに聞く。


「ここ最近姿を見ていない。大方、金を稼ぐためにあちこち走り回っているのだろう」

「ふーん。勇者を倒せば懸賞金が入るのに、こんな時に限っていないなんて、何処までも運のない奴だな」

「全くだ。カズキは二匹倒したようだから、二億円だな。振り込みでいいか?」


 とっくに状況を把握していたジュリアンが、カズキにそう提案する。

 カズキ達が邪神を倒し、勇者が用済みになった事で、各国は勇者に懸賞金を掛けるようになった。

 勇者を単独で倒せる人間は限られているが、所在を知らせるだけでも情報料を貰えるようになっているので、勇者は次第に追い詰められている。

 最近では勇者を専門に退治する部隊が各国に設置され始めており、少なくない犠牲を出しながらも、勇者の弱体化に成功しつつあるのが現状だ。

 ジュリアンが勇者の心臓にマジックアイテムが埋め込まれている事を、各国の上層部に報告したおかげである。


「クリスなら喜んで貰うんだろうけど、俺はいいや。相談なんだけど、学院の単位と交換は出来ないのか? ほら、学院のギルドにも懸賞首の紙が貼りだされてるだろ?」


 既に多額の資産を持っているカズキは、賞金に興味を示さなかった。


「ふむ、一考の価値はあるな。学院は懸賞金を丸々受け取れるし、カズキは単位を稼げる。ワイバーンの討伐が単位十だから勇者一匹も同じだと考えて・・・」

「報酬は全額単位と交換で構わないぞ」

「なら、二十の倍で四十だな。・・・やはり気付いていたか」

「何をです?」


 妹の疑問に、ジュリアンは答えた。


「単位の取得についてだ。学院では、ギルドで受け取る報酬を半分にするのと引き換えに、単位が与えられるだろう?」

「はい」

「報酬を辞退すれば、単位を倍貰えるという制度があるんだが、気付く者が少なくてな」

「まあ! そんな制度があったんですね!」

「ああ、まあ気付いても色々と物入りなのが冒険者だからな。利用したくても利用できない生徒もいるだろう」


 話を聞いていたラクトは、カズキが自分の為に言い出さなかった事に気付いた。

 だが、礼を言ってもカズキは惚けるだろうから、心の中で感謝するだけに留める。


「流石カズキさんですね。私も丸二年間学院に在籍していましたが、全然疑問に思っていませんでした」


 マイネも感心したのか、尊敬の眼差しでカズキを見ていた。


「何の事か良く分からないけど、流石にーちゃん!」


 そして、何故かカリムも。

 その声に振り返ったジュリアンは、そこに伯母と従弟の姿を認めた。


「御無沙汰しております、伯母上、カリム。ようこそ王都へ」

「久しぶりね、ジュリアン君。他人行儀な言葉使いは必要ないわよ」

「そーだぜ、ジュリアンにーちゃん」


 畏まって挨拶をするジュリアンに、笑いながら声を掛けるリディアと、良く分かっていないカリム。


「そうですか? では、いつも通りに。これから城へ向かうのならば、私も同行しましょう」

「ありがとう、心強いわ。だけど、仕事はいいの?」

「カズキに奪われたので暇になりました」

「まあ!」


 ジュリアンの冗談に、リディアは笑い出した。


「それはともかく、ここで伯母さんに会ったからには、城まで送り届けないと母に叱られてしまいます。次元屋の皆さんも、一緒にどうでしょう?」


 立て続けに色々あった次元屋の面々は、そこで漸く我に返った。


「・・・・・・宜しいので?」

「構いません。街道の安全を守るのも我々の役目。それが果たせず危険に晒されてしまった皆さんへのお詫びも兼ねて、是非にご一緒させて下さい」

「では、有難く」


 恐縮した様子でリーダーが答えると、賊の残党を拘束した騎士団が商隊の前後を固める。

 その後は何事もなく、日が暮れる頃になって王都に辿り着いた。

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