第34話 初めての里帰り

「コエン選手降参のため、勝者、カズキ・スワ!」


 クリスの口から試合終了が告げられる。

 一拍遅れて歓声が上がり、その次にはため息が唱和する。


「凄い戦いだったな。・・・・・・賭けには負けたが」

「そうだな。まさか新入生がコエンを圧倒するなんて。・・・・・・くそ! コエンのせいで大損だぜ!」

「今年の一年生は異常よ。一か月経ってないのに、全員がランキングに入ってる。しかも、二位が二人。・・・・・・あーあ。コエンが勝ったら新しい武器を買おうと思ってたのに」

「これでマイネがパーティを組んだ理由が分かったな。あれなら足を引っ張られる事も無い。・・・次があったら、俺は絶対カズキに賭けるぞ!」


 大多数の生徒がコエンに賭けていた為、皆が複雑な顔をしている。

 いい試合を見れたのは嬉しいが、賭けに負けたので素直に喜べないのだ。

 そんな彼らをよそに、上機嫌なのがエルザとラクトである。


「カズキのお陰で今回も稼げたわ。ラクト君もでしょ?」

「はい。今回はお金に余裕があったので、かなりの額になりますね」

「それももう終わりだけどね。さて、最後の換金に行きましょうか」


 カズキの実力が知られてしまった以上、今までのように八百長紛いの荒稼ぎが出来なくなってしまうから、という意味でのという言葉であって、賭け事を止めるという意味ではなかった。


「俺も行くぞ」


 背後からクリスが声を掛けてきた。


「珍しいわね」


 驚いた顔でエルザが振り向く。


「俺がトトカルチョをやったっていいだろ?」


 クリスは、自分が賭け事に手を出した事を珍しいと言われたのかと思ったが、そう思ったのは本人だけだった。


「「クリスさん・・・・・・」」

「お兄様・・・・・・」

「クリス、あんた・・・・・・」

「「「「お金持ってたの!?」」」」

「そこ!?」


 四人に珍獣でも見るかのような顔をされ、クリスが情けない顔をした。


「楽しそうだな」


 そこに、ナンシーを抱いたカズキがやってきた。

 カズキは試合が終わると、一直線にナンシーの元へ向かったのである。


「クリスさんがトトカルチョに参加したんだって」

「へえ? 珍しいな。金持ってたんだ」

「「ニャー」」


 カズキの反応も皆と同じで、ナンシーとクレアもカズキに同意するように鳴いた。


「お前等・・・・・・。俺がいつも金欠だと思ってるだろ?」

「違うのか?」

「違ぇよ!」

「じゃあ、今日の晩飯はクリスに奢ってもらうか」

「良いだろう。今晩は俺の奢りだ」


 いつまでもカズキやラクトに集っているのも悪いと思ったのか、クリスが見栄をはる。


「決まりだな。ラクト、さっき言った条件で頼む」

「うん。じゃあ、予約を入れておくよ」


 クリスはこの時点で怪しむべきだったのだ。

 いつもは街の食堂や学院の食堂を使っているので、油断していたのであろう。

 ラクトに案内された所はメニューに値段が書いていない店で、いつもの食堂の値段と桁が二つ違った。

 所持金千円から二万円になったクリスでは支払えず、結局は土下座でカズキに会計をお願いする事になる。




「里帰り?」


 翌日、ギルドで依頼を受けて出発しようとしたカズキの前に、エルザが現れてそう言った。


「そうよ。邪神の事とか新しい神殿の事とかあって、暫く帰ってなかったから。偶には顔を見せろって手紙が来たの」


 自分の娘が邪神と戦ったのだ。無事なのは分かっていても、顔を見たいのが親心であろう。


「ふーん。良いんじゃないか? 偶には親孝行してきなよ」


 そう言って送り出そうとしたカズキだが、彼には忘れている事があった。


「なに他人事みたいな顔をしてるの? あなたも一緒に行くの」


 当然のように言われても、カズキはピンとこなかった。


「・・・・・・なんで?」


 エルザが突拍子もない事を言うのはいつもの事だが、今回は本気で意味が分からない。

 困っているカズキに助け舟を出したのはフローネだった。


「カズキさんは、エルザさんのだからでは?」

「「「え!?」」」


 話を聞いていたラクトとマイネ、ついでにカズキが驚いた声を上げた。


「カズキって、召喚されたんだよね? なのに実の弟っておかしくない?」

「俺もそう思う」

「・・・・・・どういう事?」


 漸く思い出したカズキが、二人に簡単に説明する。


「・・・・・・つまり、この世界での戸籍を得る為に、養子で良いところをエルザさんが納得しないから、実の弟にしてしまった。という事ですか?」

「端的な説明をありがとう」


 マイネが要約して話した内容に、カズキは頷いた。


「それなら仕方ない・・・・・・、のかな?」


 釈然としない顔でラクトが言う。カズキも同じ気持ちだった。


「そういう事らしいから行ってくるよ。――言い出したら聞かないし」


 明らかに行きたくなさそうなカズキであったが、戸籍の取得に協力してもらっている以上、顔を出して挨拶するのが筋だと思いなおす。


「カズキも大変だね。今回は軽めの依頼だから三人で大丈夫。こっちの事は心配しないで」 

「最初から心配はしてないけどな。クレアはどうする?」

「カズキさんに任せていいですか? 私たちだけでは流石に・・・・・・」


 移動している時は問題ないが、戦闘中に気を配ることは出来ないという事らしい。


「それもそうか。分かった、クレアは俺が預かるよ」

「お願いします」

「ニャー」


 話を聞いていたクレアは、フローネに向かって鳴いた後、カズキの肩に飛び乗った。


「ミャー」

「気をつけろってさ」

「ありがとう、クレア。行ってきますね」

「無理はしないようにね」

「「「はい!」」」


 エルザの言葉に揃って返事した三人は、荒野へ続く扉を開けて旅立っていった。


「じゃあ、私たちも行きましょうか」

「うん。それで、ねーさんの実家ってどこにあるんだ? この街にあるのは違うんだろ?」

「ええ、ここにあるのは王都の屋敷だから。ソフィア叔母さんが結婚した時に用意されたの。一度も使った事はないけど」

「そういえば、クリスやフローネとは従兄妹になるんだっけ」

「そうよ。私の母の妹がソフィア叔母さんだから」


 エルザは幼い頃に神官の資質を見出されたので、一年の内、半分以上の時間を王都の神殿での修行に費やしていた。

 王都での保護者はソフィアである。その関係で頻繁に城に出入りしていたため、クリスやフローネ、ジュリアンとは兄弟同然の間柄であった。


「そうなのか。初めて知ったよ」

「自分の親の事でしょ?」


 一か月前まで弟になっていた事実すら知らなかったカズキに、平然と無茶な事を言うエルザ。

 だが、ここで迂闊な事を言うとどんな目に合うか分からないので、カズキは素直に引き下がる。


「悪かったって。それよりも実家って何処? 遠いの?」

「ここから馬車で二週間位ね。ランスリードとザイム王国の国境沿いにあるから」

「・・・・・・遠いな」

「馬車を使わなければいいのよ。お城で馬を借りる事になってるから、買い物の後に行きましょう」

「買い物? 土産とか?」

「他にも生活必需品とかね。さあ、行きましょう」


 エルザはそう言って歩き出した。




「・・・・・・ここ?」

「そうよ」


 馬を飛ばす事五日。二人と二匹は、エルザの故郷に辿り着いた。

 国境沿いにあると聞いていたカズキは、想像と違う光景が目の前に広がっているのを見て、暫し呆然と立ち尽くす。

 漠然と思い描いていたのは、行商の馬車が通りを行き交い、彼らを目当てにした宿が立ち並ぶ光景であった。

 だが、目の前に広がっているのは一面の畑である。通りを行き交っているのは、馬車ではなく牛だった。

 宿がありそうな雰囲気は欠片もない。

 一言で言えば、農村だった。


「ねーさんの実家って、確か男爵だったよな?」

「一応ね。ソフィア叔母さんが嫁ぐときに、実家に爵位を与えられたの。王都の屋敷と一緒にね。仮にも王妃になる人間の実家が、只の農家だなんて外聞が悪いと思ったんじゃない?」

「成程」


 エルザが王都で農機具を大量に買い付けていた理由がこれで判明した。

 農村では、確かに必要だろう。


「あれま! エルザちゃんじゃないか! 帰ってきてたんだね」


 そこに、一人の恰幅のいいおばさんが声を掛けてきた。

 滅多に人が来ないのだろう。カズキたちを遠目で見かけて、興味津々な様子で近付いてきたのである。


「おばちゃん、久しぶり! 元気だった?」


 エルザも慣れた様子で言葉を返す。


「おばちゃんは元気だよ。それにしても久しぶりだねぇ。聞いたよ? 邪神を倒したって! この村からそんなすごい人が現れるなんてねぇ。ソフィアちゃんが王子様と結婚するって聞いた時以来だよ。あの頃は大騒ぎでねぇ。この村に――」


 おばちゃん特有のスキル、長話が発動した。

 エルザは嫌な顔一つせず、むしろ楽しそうに応じる。

 こうなるとカズキは置いてきぼりであった。

 だが、その状態を全く苦にしないのが、カズキという人間である。

 これ幸いと地べたに座り込み、ナンシーとクレアのブラッシングを始めた。


「ん?」


 熱心に二匹に奉仕していると、何処からともなく猫が集まってきて、カズキの周囲が賑やかになった。

 カズキは嬉々として、目につく端から奉仕を始める。

 エルザ達の長話が終わる時には、村中の猫がカズキの周りに集まっていた。


「あら、この光景を見るのも久しぶりだねぇ。ソフィアちゃんが帰ってきたみたい。彼は何者だい? エルザちゃんの良い人かい?」


 漸くカズキに目を向けたおばちゃんは、エルザにそんな事を言う。


「ちょっと若いけど、猫たちにこんなに慕われるんだから、悪い人ではなさそうだねぇ。それで? いつ結婚するんだい?」


 おばちゃん特有スキル、思い込みも発動。ここで慌てれば、村中に噂が広まっていくことだろう。

 だが、エルザは動じなかった。慣れているのだろう。


「違うわ、おばちゃん。この子は私の弟よ」

「はて? エルザちゃんの弟は一人だけじゃなかったかい?」

「最近増えたのよ。この子がどうしても私の弟になりたいって言うから」

「へー、そうなのかい。エルザちゃんは優しいねぇ」


 田舎に住んでいるおばちゃんは純粋だった。疑うことなくエルザの言葉を受け入れてしまう。


「あなた、良かったわねぇ。エルザちゃんの弟になれて」

「そうですね。そう思います」


 猫たちに水をあげながら、カズキは上の空で返事をした。

 だが、おばちゃんに気を悪くした様子はない。ソフィアで慣れているからだ。

 そうこうするうちに、騒ぎを聞きつけたのか、人が集まってきた。


「エルザちゃん、お帰り!」

「うわ、村中の猫が集まってる。ソフィアちゃんが帰ってきたのか?」

「エルザおねーちゃん、お土産は?」

「エルザ! 久しぶりね!」


 エルザが、声を掛けてくる村人に律義に応対していると、満足したのか皆が仕事に戻っていった。


「いいのか? 久しぶりなんだろ?」

「いいのよ。仕事の邪魔をしても悪いでしょ? それに、夜になったらまた会うし」

「夜? 何かあんの?」

「この村の人間はお祭り好きだから、何かあればすぐに宴会を開こうとするの」

「そうなのか。今日はねーさんが帰ってきたから宴会があると」

「そういう事。さあ、行きましょうか」


 エルザがそう言って歩き出した。

 その後を、ナンシーとクレアを抱いたカズキが付いていく。更に後ろには、この村の猫たちが続いた。

 道すがら声を掛けられながら歩く事三十分、一軒の家の前でエルザが立ち止まった。

 そして、ノックもせずにドアを開けると、慣れた様子で声を掛けながら入っていった。


「ただいまー。帰ったわよー」


 書類上はこの家の子供という事になってはいるが、当然ながらここに来るのは初めてである。

 その為、エルザの後について一緒に入ってよいものかとカズキは考えた。


「どうしたの? そんな所に突っ立って。早く来なさい」


 エルザに促されて、カズキはようやく家に入った。


「お邪魔します」

「ただいまでしょ?」


 気に入らなかったのか、エルザから突っ込みが入る。


「・・・・・・ただいま」

「はい、お帰り。自分の家なんだから、もっと堂々としてなさい」


 エルザは相変わらず理不尽だった。


「そうは言うけどさ、ここに来るの自体、初めてなんだけど」

「大丈夫よ。気にする事は無いわ」

「無理言うなって・・・・・・」


 玄関でそんな話をしていると、後ろから声を掛けられた。


「エルザ。早かったわね」


 声を掛けてきたのは、ソフィアに似た雰囲気を持つ黒髪の女性だった。


「ただいま、母さん」

「お帰り。それから・・・・・・、あなたがカズキ君? 初めまして、エルザの母のリディアです。ソフィアの手紙に書いてあった通りね。こんなに猫に慕われているなんて」


 カズキの緊張を察してか、リディアは気さくに話しかけてきた。


「・・・・・・初めまして。お世話になっています」

「戸籍の事? いいのよ、気にしなくて。この子の事だから、最近まで知らなかったんじゃない?」

「やっぱり分かります?」

「そりゃあね。この子って、思い込みが激しいから。付き合うのも大変だったんじゃない?」

「いえ、それ以上にお世話になってますから」


 付き合うのが大変だという事は、カズキも否定しなかった。


「本当? それならいいのだけど。さて、こんな所で立ち話をしているのもなんだし、上がって頂戴」

「はい、お邪魔します。あ、この子たちは・・・・・・」

「一緒で構わないわよ」

「ありがとうございます」


 カズキの後を付いてきた猫たちは、リディアの言葉が終わらないうちに、勝手に上がり込んでいた。

 ナンシーとクレアは、カズキの腕の中で大人しくしている。


「この子がナンシーね。それでこっちが――」

「クレアです。ナンシーの姉妹の」

「そう、二人ともよろしくね。エリーは元気してる?」

「元気ですよ。エリーの事も知っているんですね?」

「もちろん。エリーの実家はここだしね。クレアなんか、エリーによく似ているわ」


 そう言って、クレアを撫でるリディア。


「ソフィアったら、エリーが子供を産んだって手紙を寄越したのよ? よっぽどうれしかったんでしょうね」


 その時の事を思い出したのか、リディアはクスクスと笑っていた。

 話をしながら家の奥に進んでいくと、そこかしこで猫が寛いでいる。どうやらここでは日常茶飯事の事らしい。


「父さんたちは?」


 案内されたリビングでは、すでにエルザが寛いでいた。


「畑に出てるわ。そろそろ戻ってくる筈よ」

「・・・・・・畑?」

「ええ。それがどうかした?」


 カズキの疑問に、リディアが反応した。


「いえ、貴族なのに畑に出るんだなぁ、と思って」

「ああ、そういう事? 貴族と言っても、名ばかりだからね。そもそも何をすればいいのかも分からないから、業務は村長に丸投げしてるわ」

「テキトーなんですね」

「いいのよ。うちは農家なんだから」


 などと、アルテミス家の事情を聞いていると、玄関の方から足音が聞こえてきた。


「「「ただいまー」」」


 そう言いながら入ってきたのは、作業つなぎに麦わら帽子を被った男たちだった。


「お帰り。どうだった?」

「ダメだな。仕掛けた罠には引っかからなかった。対策を見直す必要がある」

「そう。駄目だったのね」


 カズキとエルザをほったらかして、リディアとエルザの父親(だろう。多分)っぽい作業つなぎは深刻な表情をしている。


「やはり、冒険者に頼むしかないだろうな。今はまだ人の被害は出ていないが、それも時間の問題かもしれない」


 そう発言したのは、二十代半ばの作業つなぎだった。


「冒険者か。だが、この村には大した蓄えもない。あいつらを倒すのに、一体いくらかかるのか・・・・・・」

「だから、俺がやるって! 魔法学院に入学予定で、ソフィア叔母さん以来の魔法使いであるこの俺が!」


 威勢の良い声を上げたのは、十二、三歳くらいの作業つなぎだった。


「初歩的な魔法を使える位で調子に乗るな。そんな物で追い払えるなら、こうして悩んでいない。せめて、ソフィアちゃんが来ていれば・・・・・・」

「ねえ、なんの話をしてるの?」


 無視される事が我慢できなかったのか、エルザが口を挟んだ。


「ん? ・・・エルザか、お帰り」


 作業つなぎパパが、エルザに気付いて挨拶をした。


「ただいま、父さん。それより、さっきからなんの話をしてるの?」


 エルザに応えたのは、作業つなぎ(多分兄)だった。


「最近、畑がゴブリンに荒らされているんだ。大事になる前に冒険者を雇う事を検討している。あと、エルザお帰り」

「ただいま、兄さん。ゴブリンがいるの? いつから? 数は?」


 矢継ぎ早のエルザの質問に、今度は作業つなぎ(駆け出し魔法使いの少年。魔法学院入学希望。多分弟)が答えた。


「ねーちゃんお帰り。畑が荒らされるようになったのは、一週間位前かな。数は分かんねーけど、俺の魔法で一発だって!」

「ただいま、カリム。あんた、いつから魔法を使えるようになったの?」

「一年前かな。ソフィア叔母さんが残していったノートの通りに練習したら、魔法が使えたんだ。俺って天才じゃね?」


 エルザの弟は、姉に似て思い込みが激しかった。


「アホか! ちんたら詠唱してる間にやられるのがオチだ」

「大丈夫だって。ねーちゃんに手伝ってもらうから」

「それならお前は邪魔なだけだ。エルザ一人の方が、はるかに安全に決まっている。何しろ、邪神を倒したんだからな」

「ねーちゃんは司祭だろ? 得意なのは回復と防御だ! 邪神を倒したのは『剣帝』と『大賢者』だって話じゃねーか!」


 アルテミス一家は、エルザが武器を使っても一流だという事を知らなかった。

 あくまで聖職者として有名なのだと思っている。


「それはそうだが・・・・・・。なあエルザ」

「何?」

「クリストファー殿下を呼べないか? それが無理なら、騎士を派遣してもらいたいんだ。お前も知っての通り、この村には蓄えがない」


 蓄えがない理由は、何かにつけて宴会をするせいである。 

 この村がアルテミス男爵領になり、王国への税金が免除される事になったのだが、その浮いたお金は全て酒代に費やすという、刹那的な生き方をこの村の人間はしているのだ。


「クリスは呼べば来るでしょうけど、騎士は難しいわね。魔法学院の警備とか、邪神のせいで狂暴化した魔物の退治とかしてるし」

「そうか。なら済まないが、殿下と連絡を取ってくれないか? ソフィアちゃんの故郷を守るためと言えば、急ぎで駆けつけてくれるかもしれない」


 冒険者に金を払いたくないがために、クリスの感情に訴える事にしたらしいつなぎ男(父と長男)たち。

 これなら、まだカリムの方がましだろう。

 自分の旦那と息子のゲスい考え方に、リディアはため息をついた。

 だが、エルザは平然としたものである。ゲスさ加減で言えば、王都の司祭の方が数段上を行くからだ。


「別にクリスじゃなくてもいいんじゃない?」

「どういう事だ? まさか一人で行く気か?」

「違うわよ。私はいかないわ。あいつら臭いし」

「じゃあ、カリムか?」

「流石ねーちゃん! 分かってるなぁ」


 勘違いして一人盛り上がるつなぎ男(弟)。


「それも違う。別に『剣帝』を呼ばなくたって、『大賢者』でもいいんでしょ?」

「何? だが、彼は自分の世界に戻ったという話じゃなかったか?」

「何を言っているのよ。ここにいるじゃない」


 エルザはそう言って、カズキを指さした。

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