真実の恋

ユッコ

第1話 秋葉 恵

 僕は秋葉恵。普通の高校一年生だ。

 4月中旬。ようやく慣れた、いつもの通学路。土手道を下り、小さな駅を目指す。

 雪国の寂れた街。政令地方都市のベッドタウン。ずっとこの町で暮らしている。高校は、電車で30分の距離だ。毎日電車で登校している。

 ゆるい曲がり道を過ぎると、駅までまっすぐ。この街のメインストーリートだ。といってもわずかばかりの商店、コンビニ、ハンバーガーショップなどがあるだけだ。

 たくさんのゾロゾロと歩く学生。ビジネスマンが駅の階段に向かい不規則に歩いている。

 駅の右側わきの、交番奥の駐輪場から、女生徒が走ってくる。女生徒は僕の前を斜めに通り抜けるとき「おはよう!秋葉くん」「おはよう」返事する。駅には無料の駐輪場もあるが、彼女は交番わきの廃業した商店がやっている有料の所に自転車をとめている。

 彼女の名は遠山恵子と言う。中学は同じだが、高校は僕と違い、この辺りでは一番の進学高に通っている。田舎なので電車はたくさんは走っていない。1時間数本だ。だから朝は一緒の時間になることが多い。

 「試験終わったら、また本を貸してね」振り返って遠山さんは言った。うんと返事する。たまに家で読み終わった本を貸し借りしている。中学の図書委員の時からだ。約束だぞーって言って、駅の階段前にいた友達の方へ歩み寄る。

 キャーキャーと騒ぎながら、駅へ入っていった。

 僕と遠山は中学三年の時、ふたりは図書委員だった。僕は、もとから引っ込み思案で、影が薄い。勉強もスポーツも苦手な僕は、本ばかり読んでいた。遠山は活発だが本の趣味は似ていた。委員会は強制だから、何か入らなければいけなかった。一年二年と立候補して図書委員になった。三年の時は、委員決める日、風邪で休んだ。翌日、遠山さんが女子の図書委員に立候補し、僕を図書委員に推薦したと聞いた。遠山さんは女子のクラス委員に推薦されたそうだか、蹴って図書委員に立候補したそうだ。

 小学校から学校は同じだから、何度か同じクラスになっている。けれど、あまり彼女のことは印象がなかった。今みたいに細っそりとはしてなかったし、おかっぱ頭で男の子みたいだった。一緒に遊んだことも無く、遠山さんと接点は無かった。

しかし不思議と登校時、下駄箱近くであったり、教室の入口あたりで会い、挨拶を交わすことが多かった。不思議だけど、偶然くらいにしか思わなかった。

 僕は女子に対する興味は人並みにあったが、彼女のことは、女の子として意識してなかった。

 僕は、同じクラスの、山口ルミさんが好きで、山口さんを見るとドキドキがとまらなかった。肩

までの髪は光沢があってキレイだった。声も心地よく思え、見ているだけで幸せな気分になれた。しかし山口さんは人気者で僕なんか、眼中に無いことは分かりきっていた。ただ見てるだけで満足だった。

 その日もさり気なく山口さんを視界の隅に入れて眺めていると、視界が人影で遮られた。「今日は委員会の当番だからね」遠山さんだった。じっと僕を見つめてる。毎週の事だし、クラブ活動 もしていないので、もちろん忘れていない。「分かってる」ならいいけどね、と口を尖らせて遠山さんは自分の席にもどり、乱暴に教科書をしまった。その頃は、ほぼ毎朝遭遇した時の挨拶のついでに一言二言会話をする位のかんけいだった。大抵は遠山さんから何か言われ、それに対して返事する感じか多かった。

 また山口さんの方を見ると、山口さんは遠山さんを見て微笑んでいた。僕の視線に気づいて、僕に遠山を指差してから両手を耳の上で人差し指を上げた。たぶん怒ってることを示すツノを作ったのだろう。僕は少し赤面して俯いた。山口さんと目線合ったのが恥ずかしくなったのだ。

 「秋葉くん、カワイイ」山口さんか笑う。

 遠山さんはビクッとして、机にうずくまった。やっばし山口さんには、僕がよく見てるのは気づかれているみたいだな。


 放課後、遠山さんが、「行くよ」って声をかけてきた。委員会のお誘いだ。なんかまだ機嫌よくない。その横顔を見て、あざといと言われている今人気の女子アナと似た髪型だと思う。長くはしてないが、以前よりも可愛くなっている。どこか山口さんと似た髪型に思える。

 僕は山口さん、なんで遠山さんを見て笑ったんだろうと思った。「なんかいやらしい目してる!」って遠山さんはカバンで僕を叩いた。「そんな事ない」確かに普段よりも遠山さんが気になっていた。いつものクールな遠山さんではなかった。「いつもと感じか違うんで‥」「違わないよ、わたしはずっと一緒だから」「そうか」それから、最近読んだ本のことを話しながら委員会の教室へ向かった。

 そんな感じで中学三年の時間は流れて行った。

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