今日ひとりで下校するのが、ちょっとだけ、嫌になる話。
江田・K
プロローグ
小高い丘の上に私の通う高校はある。
朝の坂道は「地獄かな?」と思うほどだけど、下校の時はすっごい楽。私は下り坂を自転車のペダルを回さずに下りて行く。部活で疲れ切った体にとても優しい。
ひんやりした風が頬を撫でてくる。
秋、どころか冬の気配が日増しに強くなってきてる。先月あたりまでめちゃくちゃ暑かったのが嘘みたい。
日が暮れるのもすっかり早くなって、空はもう真っ暗。遥かずっと彼方の空の切れ間に、世界の終わりみたいな色の夕焼けが、ギリギリ残っているのが見えて綺麗だな、って思う。反対の空には気の早い月がもう顔を出していたり。
今日は、すっかり遅くなってしまった。
理由は部活。紅白戦で負けたチームは外周追加とか、先生、そういう
紅白戦自体は接戦だった。もっとはやく言ってくれれば、皆のモチベも違ったはず。
けど、そんな気分で部活やってるもんだからウチはあんまり強くならないんだろうな、なんて思いもする。
それはともかく。
急いで帰らないと。
私の家の門限は八時。
ちょっとでも遅れたら、父さんに叱られちゃう。
過保護だな、と思いもするけれど、ありがたいな、とも思う。言わないけどね。
なんだかんだ気にかけてくれるし、私の意見を尊重してくれる、いい父さんだ。友達の家みたいに、何年も口を聞いてないなんてこともないし、洗濯物を分けて洗うとかもない。
父さんとは仲良しだ。
母さんがいないせいもあるのかもだけど。
丘を下り、人通りのあまり無い川沿いの道を走る。いつもの通学路。電灯が少なくて、結構、というかかなり暗い。自転車のライトだけが頼りだ。
毎日通り過ぎる、錆びた看板がふと視界に入ってきた。見るともなしに見る。
剥げ掛けたペンキ。
「ふしんしゃにちゅうい」のイラスト。
イラストは小さな女の子に襲い掛かる影のバケモノ。現実を矮小化するのはよくない、って父さんも言ってたっけ。
こんなイラストで注意喚起したところで意味なくない? 実際、痴漢の被害に合ってる子もいるって言うし。
けど、私には関係ないか。
チビだし、脚太いし、可愛くもないし。
余計なこと考えてないで早く帰ろ帰ろっと。
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