第51話 ギンシュの思い

 それから挨拶したり部屋を案内されたりご飯食べたりしてたけど、正直全く頭に入ってこなかった。

 ギンシュが……色々あったけどギンシュが……ご指名? 私を?

 ……本気で?

 正直、『嬉しい』よりも『何で?』の方が強い。

 ミレイとかシグさんならちょっと分かる。人生ドン詰まってたもんね。自分で言うのもなんだけど、それを色々あってなんとかしちゃったもんね。

 リンドゥーは……元々どうこうだったしちょっとルート違ったからね。うん。

 でもギンシュは……そうなの? そんなに私の事をどうこう思ってくれてたの?

 そもそも伯爵家御令嬢じゃないの? それなのにこんなところでヴァージンぽいぽいしていいの?

 おまけに私にその大役を担わせちゃっていいの? ねぇ、本当に私でいいの?

 こんなんだよ? ……こんなんだよ!?

 だってさ、ほら……ねぇ!? 分かってよぉ……


 ……正直、自信ない。


 私なんかに、何が出来るだろうか。

 彼女に、寄り添えるのだろうか。

 毎日散々色々やらかしてるくせに、こういうかしこまった感じになると途端に自信を無くしてるのがもう本当に我ながら情けないなぁと思う。

 はぁ。


 とかもやもやしているうちにお風呂も入って。

 いやぁいいお風呂でしたよ。気付いたら洗い終わってたけど。

 それでなぜか私だけ……そう私だけ、ギンシュのお部屋で寝ることになった。

 それって……そういうことだよね。

 皆にごゆっくりされた。

 いやそりゃゆっくりするけどさぁ。

 そういう意味じゃないよね。



 さて。

 ギンシュのお風呂上がり、かわええ。

 というか私服がというか実家で寝間着なのだ。おまけに御令嬢なのだ。

 寝間着などネグリジェに決まっている! ……いや決まってないけど。

 私の辞書の中では決まっているのだ!!

 ……そして色っぽいというのが全面に出ている。ってか普段はきりっ! としているのに、今日はなんだか妙に女の子らしい。

「な、なんだ……そんなに見ないでくれ……その……は、恥ずかしい……から……」

 そうそうそういう所だよ! そういう所がたまらなくこう……『グッ』とくるのだよ……。

「お、おいどうした? なんだかいつものエリィらしくないな。妙に緊張しているというか……」

「実は、さ」

「なんだ?」

「ギンシュの下着の意味……聞いちゃった」

「にゃあぁっ!?」

 あ、凄い声出した。

「ごめんね」

「く、くっそぉ……エリィは色々仕掛けても全然反応がないから、全く知らないと思って一人で気合を入れたのに……秘密だったのにぃ……」

 うわぁかわいい。かわいいよギンシュ。

「ひゃっ!? そんなに『かわいい』『かわいい』いうなぁ……」

「でもさ、気持ちは嬉しいんだけどさ……私でいいの?」

 ギンシュは……きょとん、としたあと、むーっとした顔になった。

「何を言う! お前が……エリィが私に何をしたか、知っているか?」

「えっと……常識を知らな過ぎて、度々ご迷惑をおかけして」

「そういうことではないっ!」

 ギンシュは目を吊り上げて、怒っていた。

「私は貴族だ。貴族は魔法を使えて、民を従えて、はじめて貴族たりえるのだ」

「うん」

「私も女の身であるが、いや女の身であるからこそ、中途半端なことは出来まいと思い、町に出て民の声を聴き、魔法を覚えて貴族の一員として、立派な生き方をしようと思っていた。だが……」

「例の魔法の件だね」

「そうだ。あれは私を私たりえなくしたのだ。私は貴族の血を体に宿しながら、貴族ではなかったのだ……それが、どれだけ惨めだったか分かるか?」

 ……ごめん、あんまり分からない。

「ああそうだ分からないだろう。エリィは貴族として生まれてもいないし、貴族としての教育も受けてないからな。だがそれは仕方がない。立場が人を作るのだ。人が立場を選ぶのではないのだ」

 なるほどねぇ。難しいけど、ちょっとだけ分かる。

 委員長とかに推薦で選ばれて、はじめて委員長の仕事に触れて、それでそれっぽく振舞ったりすることあるもんね。あっ規模が小さいかな。

 でもきっとそーゆーことだと思うんだ……けど。

「私は……何のために生きているのか分からなくなった。何のために生まれてきたのか分からなくなった。そして騎士団に逃げたが……はっきり言おう。騎士団はそういう奴らの集まりなのだ」

「えっそうなの!?」

「正確には、魔法騎士団に入れるはずもない、庶民上がりの兵卒の集まりと、貴族の中の魔法騎士団に入れなかった落ちこぼれが集まるのだ。だから庶民組と貴族組で派閥争いが絶えないし、貴族組は魔法も使えないくせに妙に誇りだけはあるからな、面倒この上ない。そして私は……女だった」

「あぁ……立場がどんどん辛くなるんだね」

「そうだ……そんな私を邪魔だと追い出すかのように、ド田舎への、人を連れてくるだけの誰もやりたがらない面倒くさい任務をあてがわれた」

「それが……ピピーナ領への」

「ああ。そして私は……エリィとミレイに出会った。そこから先は……言うまでもないだろう」

「そう……か……」

 ギンシュはギンシュで、色々と大変だったんだなぁ。

 いや本当にそれしか言えないんだけど。

「そして私は……お前のおかげで、貴族としての誇りを、貴族としての生き方を、自分の望んでいた方向へと歩み出すことが出来た。更には一族の家訓が、秘密が間違っていないことすら教えられた。どれもこれも、私の中でくすぶっていたがどうしようもなかったものなのだ。それをお前は……救ってくれた」

 ギンシュは……いつの間にか涙を流していた。

「私が……私が、どれだけ恋焦がれても、どうにもならなかった、散々に自分を責めた、それらの憂鬱な時間の、思いの、全ての霧を払ってくれた。お前になら、私の全てを差し出してもいい。はっきりとそう言えるのだ……むしろ私は私の全てを差し出さないと、釣り合わないとすら思っている」

「そんな……そこまでだったんだ……」

「これが私の……全てだ。さあエリィ、存分に私を好きにするがいい」

「分かった。そこまでいうなら……ギンシュ、かわいいよ」

「だ、だからそれはやめろと言っているだろう!?」

「でも本当のことだもの。ギンシュはもっと可愛くしてもいいんだよ。本当は可愛いものが好きなんでしょ?」

「な、なぜそれを……」

「この部屋みれば分かるよ。あと服選んでた時とかかわいいのばっかり買ってたし」

「ぐ、ぬぅ……」

「もっと可愛い服とか着てもいいんだよ? 私はそういうの見てみたいなぁ……」

「そ、そうか……? エリィがそういうなら……」

 ギンシュちゃんにやにやしてる。さてそろそろ……。

「じゃあ、今晩はよろしく、ギンシュ」

「あぁ。よろしく頼む。その……」

「大丈夫、優しくするから」

 とゆーわけで、本番でございますことよ。

 例によって例のごとく、ギンシュちゃんの台詞のみ記載ということで。


「うっ……あぁ……そんなぁ……」

「ダメだぁ……そっ……そこはぁ!?」

「うおっ!? ほ、本当にそんなことが……」

「ふぁああっ!? なっ、なんだこれはっ!?」

「ああっ!? こすれてぇ!? こすれてるのぉ!?」

「らめぇ! そんなことしちゃぁ! おかしくなりゅぅ!!」

「えりぃしゅきぃ! しゅきなのぉ!!」

「ぎゅってぇ! ぎゅってしてぇ!! ふぁあああああっっ!!」


 というわけでぺろりんちょ。ごちそうさまでした。

 ギンシュちゃんひくひくしてら。さてさて【クリーン】してっと。

 私も寝ましょ。すやすや。


 翌朝目を覚ますと、ギンシュがすっきりした顔で起きて、そして私を見て真っ赤になってた。

 あーギンシュちゃんかわゆかわゆだよ。

 朝食の為に着替えて食堂へ向かうと……ギンシュが皆に色々聞かれて涙目になってた。かわええ。

 そして兄上にまで色々……皆ギンシュが大事で大切で大好きなんだね。

 わたしもっ!

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