第20話 水魔法と船足
それから私達は部屋に戻ってぐっすり。
翌朝、出発は早いので眠い目をこすこすしながら準備をして、港へと向かった。
そういえば川にある船着き場って港って言っていいものなのだろうか。それともやっぱり船着き場なのだろうか。
そんなどうでもいいことを考えながら、私と二人は歩みを進めた。
港では船長さんが出迎えてくれた。
わりとがっしりした体格のおじさんが出てきた。お髭はどちらかといえば無精ひげ。でもしっかり金髪イケメンのにおいがしたので、きっと若い頃はおモテになったのだろうと推察出来る。
「おう、あんたらか。王都まで乗せてってくれって御一行さんはよぅ。こら別嬪さん方がきたもんだ」
でも喋り方はぶっきらぼうだった。なんか海の男って感じ。いやここ川ですけど。
「そうだ。宜しく頼む」
「俺ぁ船長のアシンだ。一つだけ……大事な事だから言っておくが、船の上では俺の指示に従って貰う。これだけは守ってくれ。いいな」
ギンシュちゃん、ちらりと私とミレイの方を向くが、私達はそれに合わせて頷いたので、再度顔を戻して
「問題ない」
と答えた。
「よし、じゃあ荷物も粗方積み終わったから出航するぞ、これから一週間、よろしくな」
そう言って握手をした。
「あ、そうだあともう一つだけ」
「なんですか?」
「船員どもは全員男だ。一週間というのもそこそこに長い。だから、その……色々と気を付けてくれ」
あーそゆこと? 確かにねー男で一週間ってそれなりに溜まるよねー分かる分かる。
おまけに私達はこんな見た目である。そりゃあ私が船員の立場だったら実にやりにくいお客様方だろう。
「分かりました。こちらも気を付けます」
「分かってくれるとありがたい。それじゃあ、改めてよろしくな」
「はい。こちらこそ」
さてさて船旅だが……荷物が結構あるので決して広くはない。
だが一応私達にも部屋はあるので、そこで休むか外で景色を見るか、だが。
私は景色を見ていることにした。折角だしね。知らない土地だしね。
ミレイも私にくっついてはいるが……なんか気持ち悪いらしい。あらまあ船酔いですか。
大変そうなので背中さすさすしてあげながら、私は船の
川沿いは……この辺はまだ川の上流~中流域のようで、山間や森の中を進んでいる。
船員さんに聞いたら、まだ当分はこの景色が続くらしい。
ここの森を抜けると町が見えてきて、そこからは拓けて農地が広がっているようだ。
そういえば馬車に乗っている時も常時【探知】を展開して地図を道なりに埋めていたのだが、ついに【探知】がレベル10になった。やったね!
現状の探知はすこぶる便利になった。私の視界に常に探知のミニマップが展開されるようになったし、そのマップを空中でタッチしたり視線を合わせたりすると、自動で中心に来たりマップを大きく展開したり、なんなら私の目の前に立体的鳥観図や俯瞰図みたいな感じで展開出来る。なにこれめっちゃ素晴らしい!
勿論探査範囲もかなり広がったので、川沿いにも地図がガンガン埋まってゆく。ギンシュちゃんは『まっすぐ北』と言ってはいたが、やはり川なのでそれなりに蛇行もしているようだ。
ヤバいぞこの地図楽しいわー。おまけに気になる町や村、建物などまで触れたりすると名前とか詳細とか出てきてもうなんか未来の案内板みたいな感じになってる。この【探知】魔法凄いわ。はー早く王都に行ってみたいわー王都を地図で上から見てみたいわー。
そんなことを思っていると、横からギンシュちゃんが出てきた。
「なあ……その……」
「ん? ギンシュちゃんどしたの?」
「ここは川の上だろ?」
「うん」
「川には水がいっぱいあるだろ」
「そりゃそうだね」
「なら……【火魔法】……練習出来ないだろうか?」
「いやー……うーん……危ないんじゃない?」
「でも……【火魔法】……」
そうだよね。ギンシュちゃんはバニング伯爵家だから一刻も早く【火魔法】覚えたいよね。
「じゃあアシン船長に聞いてみよっか」
「本当か! ありがたい!」
という訳で船長さんに聞いてみることにした。
船長さんは部屋で地図とにらめっこしてた。
「なに? 魔法の練習をしたい?」
「はい。船尾の方から川に向かって行うので、まあそこまで危険ではないかなぁと」
「なんだあんたらお貴族様か? 面倒ごとは勘弁だぞ」
「あぁ大丈夫です。面倒は起こしませんから」
「はぁ……仕方ねぇな。ちなみに何の魔法だ?」
「【火魔法】を」
「【火魔法】!? ダメだダメだ! 何考えてやがる! 船は木で出来てるんだぞ!? 万が一船に火がついたら沈没して荷物も何もかもなくなっちまう! 俺は一文無しどころか命だって危ういぞ! 絶対にダメだ!」
ギンシュちゃんしょんぼり。
「あ、でも【水魔法】とかならいいぞ。何しろ周りも水だしな。多少水浸しになるくらいは大目に見よう。ただ荷物を濡らしたりとかは勘弁な」
「分かりました。ありがとうございます」
「だって」
「うぅ……【火魔法】……」
「ちなみに王都の周りに水は」
「あるぞ。この川をまっすぐ下れば王都の中央に流れ着き、そして川が注ぐ大きな湖のほとりに城がある。そして王宮と町の途中に二十の堀もあるからな。川や湖の近くや堀の周りなどなら大丈夫ではないか?」
「ならそこでやろっか。今は【水魔法】の練習をしようよ。【火魔法】で万が一があっても【水魔法】が使えるなら被害も減らせるだろうし。どっちも使えると便利だし、何よりお兄さんやお父さんに勝つには【水魔法】覚えてると強いと思うよ」
「確かに。父も水魔法使いは厄介だと常々おっしゃっていた。よし! なら私に【水魔法】を教えてくれ! ……だが、私はスキルを持っていないぞ?」
「持ってなくても訓練すれば覚えられると思うよ?」
「本当か!?」
ギンシュちゃんは信じられない! という顔をしたが、何より私は自分で実証済みだ。
「私もそうだったし、ミレイも私が最初に【鑑定】した時は【闇魔法】のスキルしかなかったけど、今は【風魔法】も【水魔法】も【土魔法】も使えるよ?」
ミレイの方を見ると、んふーと自慢げ。でもすぐ気持ち悪くなって口を手で押さえてた。あーあー久々に見るな残念美人。
やっぱり第一印象のせいで、ミレイがめっちゃ凄いお姫様ってのに違和感バリバリである私。
言わないけど。多分ギンシュちゃんの前で言ったらまたすんごい怒られたり青い顔されたりするから黙ってるけど。
「それは……凄いな。いやでもあの御方は」
「やめやめ、そーゆーの。とりあえずやってみようよ。基本は昨日の夜にやった【風魔法】と同じだから」
「そうだな。まずは一通り試してみて、それでも出来なかったらへこむとするか」
にっこり笑うギンシュちゃん。はーギンシュちゃんかわええな。その笑顔ほんまかわええよ。夜もかわええけど昼もかわええよ。
うーんやっぱり一緒に来てくれないかなぁ。
という訳で船尾へ移動。うーむ結構広くていい感じ。
さてさて今回訓練するのは【水魔法】。まずは実際に触ってみるところから。
「じゃあギンシュちゃん、両手を出して」
「こうか?」
「それで水を
「うむ」
「じゃあいくよ。ほいっと」
私は彼女の両手に水を生み出す。
「おおっ、やはり見事に魔法を使うな」
「ギンシュちゃんもすぐにこれくらい出来るようになるから。今ここに水があるでしょ、それで昨日のようにえっちぃ事を思い出しながら……その手の水を増やす想像をしてみて」
「なるほど……やってみよう。うーん……」
ギンシュちゃんは目を閉じて、昨晩のイメージを思い出しているみたいだ。眉をひそめているのでまあきっとそんな感じだろう。
「呪文は……どうすればいい?」
「特に無いよ。好きな呪文を唱えてもいいし、言っても言わなくてもいいし」
「では……水よ増えろ!」
ギンシュちゃんの手元の水は……動かない。失敗したか? とも思ったが。
こぽこぽ、と小さい泡が浮かび、ちょろちょろちょろ……と手元から水がこぼれだした。
「これは……成功、なのか?」
「うん。成功だよ! スキルの無い時は、普段よりも魔力を多めに使うといいみたい。スキルを覚えたら今まで通りで大丈夫だけれど」
「魔力を多めに、とはどうすればよいのだ?」
「えっとね、妄想をもう少し強めにする感じかな? ちょっとえっち度を強めにする感じ」
「というと……もう少し恥ずかしい感じにするのか……うーん……」
妄想中のギンシュちゃん。ちょっと肌に赤みがさしているので、結構凄いこと考えてるらしい。なんかそーゆーののぞき見出来ないかな。バレたらめっちゃ怒られそうだけど。
と阿呆なことをかんがえていると、ギンシュちゃんの手から水がごぼごぼとあふれ出した。
「そうそう! 上手いよ! じゃあその水を船の外に出すように操ってみようか」
「分かった。うーん……水よ、大いなるうねりとなって空を走れ!」
ギンシュちゃんの呪文と共に水は動き出す。手のひらからあふれた水は細長い蛇のようにぐねぐねと動き出し、そして勢い良く船尾の後ろへ、川へと水はじゃばばば、とそそいで、私達の足元は綺麗さっぱり水気は無くなった。
「やったね! これでこれでギンシュちゃんは【風魔法】と【水魔法】の二つの魔法使いになったよ! これで王都で【火魔法】も練習すれば、三属性だね」
「こ、こんなに簡単に……なんだか、信じられないな」
ぽかんとしている。まあそりゃあそうだろう。今までどう頑張っても出来なかったことが、こんなに簡単に出来るようになるのだから。
あれ、もしかして私って教える才能とかあるのかな? どーなのかな?
ちょっと気になって自分のステータスを見てみると、スキルに【指導】ってのが増えてた。能力を見てみると≪他人に自身の習得しているスキルを覚えさせやすくなる≫と出てきた。なるほど。
だったら私が先に【火魔法】を習得した方が、ギンシュちゃんは覚えやすくなるかもしれないな。
王都についたら私も練習してみよっと。
さて水魔法を操れるようになったことだし……なんかもっと色々やってみたいな。
そうだ!
「ねえ、この船の速度を上げてみない?」
「は? そんなことが出来るのか?」
「水魔法を操れるなら出来るかなって。ちょっとやってみよっか」
私は【水魔法】を使うイメージをしながら、妄想を高めてゆく。うーん昨晩の二人は実にえちちであったなぁ……むふふ。
そして船底の川の水を少し持ち上げ、タイヤのように縦に丸くして、ゴロゴロと転がるイメージを作り出した。
ただそのまま丸くはせずに、かなり横に潰れた楕円のように、あえて言うならベルトコンベアのようにした。
「いっけぇええ!!」
船はぐいんと川の水面よりも上に上がった。そして喫水線が一気に下がり、それこそ船底が見えてしまいそうなほどだ。
そして一気に船速を上げて進み出した。
風の勢いも一気にあがり、びゅうびゅう吹いている。
「あははは! これ楽しいねー」
「なっ、なんてことだ! こんなことが魔法で可能なのか!?」
驚き呆れるギンシュちゃん。やっぱりこの世界の魔法って攻撃が基本なのかな? こういう応用はやってないのかなぁ?
そんなことを思っていると、船首の方から船長のアシンさんが慌てて走ってきた。
「おい何してんだ! これはお前の魔法か!?」
「はいそうです。試しに速度が上がったりしないかなーって試して」
「これは水魔法なのか!?」
「そうですよー」
「なんてことだ……この速度なら次の町まであっという間だぞ……そうだ! 他の船にぶつかる可能性は!?」
「あーあるかも。誰か前見てくれませんかぁ」
「やめろ! そんな危ないのは今すぐやめろ!!」
「はーい」
私は魔法を中断する。ゆっくりと船は喫水線を上げて、元の位置に戻った。
ちなみにミレイは、どーやら私の魔法の最中は船が波に揺られないので(私が船をある程度水魔法で固定しているので)かなり楽になっていたようだ。がまた今は波に揺られるようになってしまったので、ぶり返しがきている模様。辛そう。
「結構いい感じだったんだけどなぁ」
「前が見えないのに船速を上げる奴があるか! しかし……」
「なんです?」
「今の魔法、船首でも出来るか?」
「多分大丈夫だと思いますよ?」
「方向を簡単に変えたり、前の船を横から追い抜いたりは出来るか?」
「はい。恐らく」
「よし、やってみてくれ! これで船速が上がれば積み荷も早く渡せるし、滞在の費用も減るし、俺らは大儲けだ!」
私はいいのだが……船員は不満そうな顔をする。
「大丈夫だ! お前たちにはきちんと元々の日程分の払いはするぞ! おまけに荷下ろしも早く出来れば追加で報酬もやろう!」
その言葉によっしゃあ! と奮起する船員たち。なるほど早くついたら日当が減るのか。それは確かに困っちゃうね。
「じゃあお願いするぞ! あと次は私も一緒に立ち会うので、よろしくな」
「はい。分かりました」
「私も揺れない船の方がいいですぅ……」
ミレイは割と真剣に先ほどの魔法を必要としていた。
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