第15話 ミレイと闇魔法
挨拶を終えたので、これから荷物をまとめて引っ越しだ。
といってもアイテムボックスがあるので割と簡単だろう。
それよりも、だ。
私は私自身の事を話した方がいいだろう。
自分とは何者で、そしてどうしていきたいか、を。
……元男性とかそーゆーのは黙っておこう。やっぱし。
彼女も傷つくかもしれないし。
少なくとも精神が男性であるくらいで、別に現在の肉体はどこをどうみても女性なのだし。
混乱させてしまうかもしれないし。
とまあ一通りの逃げ口上を作ったところで、私は色々と話し出した。
「えっと……ミレイに話があるの。いい?」
「はい。なんでしょうか、エリィ様」
「えっと、ね。私……その……」
ドキドキする。きょとんとした彼女に真実を告げることが。
いやある意味では告白なのかもしれない。彼女のような美人さんに告白して断られたらどうしようと思うのはそりゃあ皆そう思うだろう。私だけではなく。
ええい、ままよ。
「私、こんな姿だけど、実は『神の落し子』なの」
「え? エリィ様が……ですか?」
「うん。だから色々とスキルとか使えたり知識が偏ってたりするかもしれないけど、そういう時に驚いたりしないでほしいなって」
「えっ……」
ああ怖い。彼女の反応が怖い。えーやだー気持ち悪いーとか言われたらホント辛い。
どうして私が彼女にこんなに思うところがあるのだろう。
私は一体どうしてしまったのだろうか。
そしてそんな私をよそに、彼女は答えた。
「エリィ様……すごい……すごいですよ!」
「……へっ?」
「だって! だってエリィ様が『神の落し子』なんて! だから私は救われたんですね! そりゃそうですよ! それくらいの人でないと私なんて救えないですよ!」
「引か……ないの?」
「引く? どうしてですか!? こんなにすごいことなのに!」
そうなのか。凄いことなのか。
やっぱり私の感覚とこの世界の感覚は、どこかずれているらしい。
「そ、それなら……いいんだけど……」
「それに」
「?」
「私は、ミレイはエリィ様がどこの誰であろうとも、ずっとついていくつもりです。それが例え……私の見知らぬ世界だとしても」
「そう……」
なんだか……自分がとても申し訳なく思った。
私は彼女に、そんな壮大な覚悟をさせてしまっていたのかと思うと。
「それで? もしかしてこれから何かすんごいことしてくれるんですか?」
「うーん……そこまで色々期待されると困っちゃうけれど、実は引っ越しの際に、『アイテムボックス』ってスキルを使おうと思って。まあ正確にはスキルとはちょっと違うけれど」
「えっと、それって『神の落し子』が使う、道具をどこかにしまったり出したりする、そういう魔法のことですか?」
「うん。今はこの鞄から出し入れすることで誤魔化してるんだけど、きっと戦闘中とかに思わず使っちゃって、それでバレたりするかもしれないから」
「うわぁ……見たい見たい! 見たいですぅ!」
「へ? えっと……こう?」
私は鞄からではなく、空中から試しに所蔵してある魔石を取り出してみた。
「凄い! ホントにホントのアイテムボックスですぅ! これが伝説の……」
「え? 伝説なの?」
そういうとミレイは少し呆れたような顔をする。
「エリィ様。『神の落し子』なんて自分から言うようなことではないですよ。エリィ様は見た目が見た目なので普通にしていたら気付かれないと思うですけど、あんまりぼーっとしてると誘拐とかされて奴隷商人とかに売られかねないですからね!」
「ゆ、誘拐……」
そんなこと考えもしなかった。やはり平和ボケ国家日本で生まれ育つとそういう意識が浮かんできすらしない。
私は誤魔化すように次の話をする。
「あ、あとね、ミレイが戦闘の際に何が出来るか、どんなスキルを覚えてるかとかを知りたいから、ミレイに【鑑定】のスキルを使ってみようと思って」
「エリィ様、【鑑定】まで使えるですか!? これは益々誘拐の危険性が……いいですか、絶対に私以外に『私は神の落し子です』って言っちゃダメですからね!」
「は、はい……」
言えない。もっと色々便利な【探知】って魔法が使えるよーとか、【ステータス】とか見れるよーとか、魔法も色々使えるよーとか。
「そ、そんな訳だから……でも【鑑定】ってやっぱりされたくない?」
「そんなことないですよ? むしろ『【鑑定】されたい』って人は多いと思うですぅ。何しろ自分が何に向いてるか、何に向いてないかが一発で分かるですからね。鑑定屋とか開けば一生安泰ですぅ。もっとも【鑑定】スキル持ちなんて、大抵は冒険者でトレジャーハンターとかそっちになるですけど」
「どうして?」
「だって危険なダンジョンも罠も全部【鑑定】で見破って、初見の敵も【鑑定】で属性やら弱点やら見つけて、お宝手に入れて売ればそれこそ一発で大金持ちですよぅ。ちびちび【鑑定】してるのが馬鹿らしくなるくらいですから」
なるほどね……確かに。
「それよりも! 私のこと【鑑定】してくれるなんて嬉しいですぅ! 戦闘は……自信ないですけど頑張るので置いていかないで欲しいですぅ」
「うん。それじゃさっそくだけど……いい?」
「はい。お願いしますぅ」
私は彼女のステータスを【鑑定】してみることにした。
「じゃあ……いくよ。【鑑定】」
彼女の能力値を見てみると……完全に魔法特化型だ。というかMPたっか! なんだこの値は。
とにかく魔法関連の数字が異様に高い。レベルは低いのに。この値は……サキュバスという種族はみんなこうなのだろうか。
そして彼女のスキルは、っと……【魅了】に【闇魔法】に【肉体変化;サキュバス】?
なんだこれ。とりあえず彼女に聞いてみるか。
「ミレイは……なんか魔力関係の数値が異様に高いんだけど……サキュバスって皆こうなの?」
すると、ミレイはなんだかもじもじしだした。
「えっと……エリィ様が正直に話してくれたので私も正直に言うですけど……私、こんなですがサキュバスのお偉いさんの娘なので、多分数値が大きいんだと思うんですぅ。小さい頃から色々魔力を伸ばす為の訓練とかもあったので……もっとも、あんまり上手ではなかったですけど」
「そうなんだ……ちなみに、何か自分で使えるスキルって知ってる?」
「えっとぉ、【闇魔法】は使えると思うのですが……じつは今までキチンと発動したことがなくて……私は本当に【闇魔法】を覚えてるのかどうか……そうだ! エリィ様なら【鑑定】したから分かるですよね!?」
「うん。ミレイはちゃんと【闇魔法】のスキルを覚えていたよ」
「良かった……良かったですぅ……」
ミレイはまたべそをかき始める。そんなにか。
「あと、【魅了】と【肉体変化;サキュバス】ってのがスキルにあったけど」
「【魅了】も持ってるですか!? それは知らなかったですぅ」
「あと【肉体変化】ってのは」
「えっと、私もお姉さまみたいに翼とかしっぽとかあるですけど、あれ出してるとお偉いさんの娘ってバレちゃうので、普段はしまってるですぅ」
「そーなんだ」
今度見せて欲しいな。こっそり頼んでみよっと。
「ちなみに魔法の使い方とかは、訓練とかでやらなかったの?」
「実は……それも訓練の内容にあるですけど、サキュバスはみんな『小さい頃から本能的に出来るものだから、出来ないものに何をどう教えればいいのか分からない』と言われてしまって……ぐすん」
えっと……つまり、普通のサキュバスは日常的にエロいこと考えてるけどミレイはそうでもない、と?
これ私が説明するのか……ぐぬぬ。
「そうか……」
「えっと、じゃあ魔力は分かる?」
「はい。【クリーン】とかの加護からの魔法は使えますぅ」
「じゃあああいう時のように魔力を生み出すんだけど、その時に……同時にえっちなことを考えることで、魔法を使うための魔力を生み出すことが出来るの」
「ほえ……そうなのですか?」
「うん。どうやらそうみたい。ちなみに【黒魔法】ってどういうことが出来るの?」
「私が教わったものは、【ダーク】というなんか紫色のこうもわもわっとした雲みたいなのを出す魔法と、【ポイズン】という対象相手を毒状態にする魔法ですね。でも【ポイズン】はとても危険だから決して勝手に使ってはならない、魔法が自在に使えるようになってはじめて練習してよい魔法だとも。だから私は当時はずっと【ダーク】を練習してたですぅ」
「なるほどね。じゃあここでは万が一もあるから、明日実際に門の外に出てから訓練してみようか」
「い、いきなり実戦ですかぁ? 流石に怖いですぅ」
「いやそんなことはしないよ。モンスターもいない、誰にも迷惑をかけない場所でやってみようってこと」
「あ、それなら安心ですぅ。私、頑張りますぅ」
というわけでその日は夕食を食べにまた『止まり木』へ向かい、その際に部屋の僅かな荷物を『アイテムボックス』にしまい、そしてまたミレイの部屋に戻って一晩ぐっすり寝て、翌日は門を出て私がいつも行っている林で、ミレイと、一緒に私も【闇魔法】の練習をすることにした。
結論から言うと、ミレイの部屋でやらなくて本当に良かった。
ミレイは自分の魔力のコントロールがまるで出来ていなかったし、それに加えてえっちぃイメージが私とのにゃんにゃんなので、とにかく物凄いイメージを想像してしまったようで、辺り一面がダークのガスに覆われることとなった。
それから何度も訓練をして、なんとか魔力量を、そして妄想を調整出来るようになった。
ミレイは案の定泣いていた。「今までずっと出来なかったのに……これでお母さまにも胸を張って報告出来ますぅ」と言っていたので、もしかしたらミレイはこのせいで家を出ているのかもしれないとふと思った。
その日はそれくらいにして、その後もミレイとは訓練を続けた。
ミレイの魔力量はそれこそ半端ないものがあるので、きっと他の魔法も使えたら強いに違いない、と思った私は、ミレイに他の魔法の使い方も教えた。
魔法を使う際の正確なイメージと魔力のコントロールさえ出来れば、あとは努力あるのみだった。
ミレイはどうやら凄い努力の子なのか、発動しない魔法を何度も何度も繰り返し練習していた。
そのお陰か、ついに【風魔法】【水魔法】【土魔法】の習得に成功した。
そして、攻撃力のある魔法を覚えたので、時々遭遇するモンスターとも戦って貰うことにした。
最初はビビっていたミレイだったが、私が横にて何かあったらすぐなんとかするから、というと、ミレイも奮起したようで、とりあえずこの林に出てくる獣の類ならば割となんとかなるようになっていた。
それでもゴブリンとかの明らかに魔物然としたような相手は、まだ少し萎縮するようだが。
そんなこんなでミレイも経験値を入手し、レベルも上がり、色々と成長したみたいで、とても嬉しい。
魔法のレベルもちょっとだが上がった。これは私と一緒にいることでスキルレベルの上がりか方が早くなっているのだろうか。その辺は用検証ということで。
いやはや、ミレイは本当に優秀だなぁと思った。
私は本当に素敵な仲間と一緒になれたようだ。
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