第6話 モンスターと対峙 前編
翌日、私は冒険者ギルドに行った。
でも朝は凄く混んでいるらしいので、朝食をゆっくりと食べてから向かった。
ギルドはまだ少し賑やかになっていたが、それでも満員の通勤電車のような殺伐とした雰囲気はなくてちょっとほっとした。
「お、昨日のこないだのエルフちゃんやん。おはよーさん」
「ガーリーさん。おはようございます」
先日お世話になった受付嬢のガーリーさんが、落ち着いている受付のカウンターの内側から声をかけてきた。
「今日はどないしたん? もう朝の依頼はあらかたとられてもーたで。今からどうこうするにも大した依頼は残ってへんわ」
「いえ、依頼はまだ当分……。それよりも、もう少し基礎的なことを教えていただこうかと」
「なんやなんや。このガーリーちゃんに何でも聞いてみぃ」
「えっと、依頼とは関係なくモンスター等を退治したり討伐した際の、なにか証明とか、あるいは獲物の持ち込みとかに関して……」
ガーリーさんはうんうんと頷き、少し上の方を見ながらふーむと考えつつ、教えてくれた。
「なるほどな。モンスターは基本的に魔石を持ってんねん。その魔石を持ってこれば討伐証明にはなるけど、モンスターによっては討伐部位の証明があった方がありがたい奴もおるな。ゴブリンなんかはクズ魔石しか出んから耳とか切り取って持ってきてくれるとええかもな」
私はふんふんと頷きながら聞いていく。
「あとは、ウルフ系やラビット系などの獣系モンスターやったら、肉とか毛皮とかを裏に持ち込んでくれたら、解体料はかかるけどバラしてくれるで。肉は食事に、毛皮は防具や暖を取るのにも使えるし、そのまま売ってくれてもかめへんし。まあ最初はそーやって稼ぐのも手やな」
「わかりました。ありがとうございます」
「ほんまは素人さんやから町の雑用なんかもやってくれると助かるんやけど……剣も魔法も使えるエルフのねーちゃんにはモンスター退治の方がありがたいかもな」
「まあ、とりあえずは稼いでいかないといけませんし」
「せやな。あとゴブリンなんかはたいしたお金にはならんけど、しっかり退治してくれるとそれはそれで助かるわ。一般人にはあれでも結構怖い相手やしな」
「まあ、見つけ次第ですね」
「おう。よろしゅうなー」
「あ、あと薬の材料とか鉱石とかは」
「そういったものはギルドの依頼を確認するか、あるいは商業ギルドとかに直接話つけた方がええかもな」
そう言いながらガーリーさんはちょいちょい、と手で私に近付くようにジェスチャーをする。
私はカウンターの内側にゆっくりと近付くと、ガーリーさんはこっそりと私に教えてくれた。
「ホンマはこーゆーことギルドの職員が言うたらあかんのやけど、商業ギルドに直接持ち掛けて、欲しいもんとか必要なもんとか聞いて自分でどうこうするのもありやで。ギルドの手数料取られなくなるからな。でも相手によってはぼったくられることもあるさかい、その辺は難しいな。普通の冒険者やったらこんなこと言わへんのやけど、エリィちゃんなら対応も丁寧そうやし、一つの可能性として考えてもええんちゃう?」
「そういうことも出来るんですね……なるほど」
「まあとりあえず、色々と集めとくのに支障はないんとちゃう?」
「そうですね。とりあえずは。色々とありがとうございました」
「この程度なら仕事のうちや。うちは初心者とかわいこちゃんにはめっちゃ優しいからな。エリィちゃんならいつでも大歓迎やで」
「あはは」
曖昧にごまかす私。こういう時の返答は本当に困る。
そんな訳でギルドを出た私は、今日も門を出て森へ。早速モンスター討伐といきますか。
まずは【探知】を発動。近くにモンスターの気配はないようだ。代わりに反応したのは植物の類。
どうやらこの辺りは薬に使えそうな植物が色々と生えているらしい。早速【鑑定】を使って調べてみることにする。
≪薬草 レア度1≫
[噛んだり塗ったりすることで体力を少し回復する]
[回復薬などの材料にもなる]
≪毒消し草 レア度1≫
[噛んだり塗ったりすることで毒状態を回復する]
[解毒薬などの材料にもなる]
≪スキル【鑑定】のレベルが5になりました≫
なるほどなるほど。こーやってアイテムを集めていけばいいのか。
これ結構楽しいな。
独り者のおじさんの趣味なんて、かつては競馬かゴルフか麻雀か、なんて相場があったかもしれないが、今も昔もおじさんというものはコレクションが大好きだ。かくいう私も鉄道の模型やら漫画やらのコレクションをちびちびとではあるが集めていた。
同じ要領で【探査】で見つけたアイテムを片っ端から【鑑定】にかけ、アイテムボックスにしまってゆく。
RPGでも99個集めるのが面白かったおじさんとしては、これは楽しい。
ただここは流石に現実のようだ。今のところの私個人の見解としては、だが。
流石に寝て起きてを数度繰り返しても目覚めないのはいかがなものか。
あるいはゲームの中、という可能性もありうるが……それにしては感覚が妙にリアルである。
最近のVRはとんと進化したものだ、といえるかもしれないが流石に進化しすぎだろう。
先日の夜のことを考えると……むむむ。
とりあえずここは『私の知っている現実とは違う現実』という仮定に基づいて行動してみる。
まあ何が言いたかったといえば、『植物根こそぎ採取はイクナイ』が結論である。
ゲームならば一度町に戻ってまた来れば全て元通り! かもしれないが、現実ならばそうはいくまい。
まあそんな訳で、七割ほど採取をして、今日はやめておくことにする。
そうこうしていると【探知】に反応があった。赤色のマークが移動している。これは私に対して敵対的な相手の反応を示している……気がする。町中だと殆ど黒だったので。恐らく黒は中立の相手なんだろうと思っている。この辺の説明もあると嬉しいんだけど。あとで【鑑定】してみよう。
そしてその相手は北に40メートルほどの距離にいるらしい。距離が分かるのは【探知】の横に地図でよく見かける縮尺と単位が書いてあるからだ。これは非常に便利。少なくともこの世界の単位とかではなくて、きちんとメートル法で表示されているのが素晴らしい。もしかしたらこれも【言語理解】のおかげなのかもしれないけど。
さて敵は【探知】で把握したが木々が邪魔をしているために見えない。ゆっくりと近付き、剣を抜いておく。私がこの剣で戦えるかどうかは分からないが。そこは【剣術】スキルに期待したい。
そして20メートルほどの距離になると……いた!
身長は1メートルくらい、くすんだ緑色の肌に醜悪な顔付き。二足歩行でぼろ布を腰にまとい、手にはこん棒を持っている。
世間一般でいうところのゴブリンという奴だろう。
きょろきょろと辺りを見回しながら、鼻をフンフンとして、あれは匂いを嗅いでいるのだろうか。
彼の動きを見る限り、こちらには気付いていないようだ。
周りに誰もいないことを確認し、剣を刀のように持って居合の、剣をこれから抜く格好になって、魔力を練る。そして小さく呟く。
「【ウインド】」
私は同時に剣を横に薙いだ。剣圧をそのまま風のようにして飛ばすイメージで魔法を放つ。前方に横一文字に風の魔法が飛んでいき、そのまま周りの木とゴブリンを真っ二つにした。
≪キャラクターのレベルが4に上がりました≫
「これは……結構いいかもしれない。ただ木に被害が出るのがなぁ」
ゴブリン一体倒すのに何本もの木を倒していては、あっという間にこの林は日が燦々とそそぐ原っぱになってしまうだろう。もっとよい方法を見つけないと。
エルフなんだからいっそのこと弓でも使ってみるか。いやそれだと魔法もそうだが遠距離のみになってしまい、勝手が悪い。
んー、もう少し魔法を色々と試してみることにする。
結局色々考えた結果、一対一の場合の魔法は銃にすることに落ち着いた。
具体的には、手を銃の形にして、風の弾丸を相手に叩き込むのである。
これならば周りの木々にも被害は出ない。
問題は狙いだが、狙いをつけるというよりも狙撃箇所と自分の人差し指を、一本のレールで結ぶようにしてイメージすると、百発百中になったので、今後はこれでいくことにする。
そして、ここで私は少し考えたのだが。
「これ、レーザービームとかも出来るんじゃない?」
とゆーわけで早速実践。レーザーとかだと光魔法になるのだろうか。
今度はゴブリンが二匹出てきたので、そのうちの一匹をよく狙って。
「いくぞ。【レーザー】」
集中すると無詠唱でも魔法は発動するのだが、流石に最初の魔法は言葉を使った方が上手くいくようだ。イメージと言葉が相互接続するような感じだと思われる。
私の言葉と共に、銃の形で構えた人差し指からは一筋の光が放たれ、指の先にいるゴブリンの頭部に見事命中した。
ゴブリンはゆっくりと倒れる。そして倒れたことに気付いたもう一人のゴブリンは、混乱していた。
≪スキル【光魔法】を習得しました≫
生き残っている方のゴブリンは動き回っているが、貫くイメージをしっかりと持って、もう一度。
「【レーザー】」
激しく動いていたが、レーザーは腹部を貫通した。ゴブリンはばたりと倒れ、腹を抑えているようだ。
私はそっと近付くと、2メートルほど離れたところから再度【レーザー】を頭部に放ち、絶命させた。
≪スキル【光魔法】のレベルが2になりました≫
「ふぅ。やっぱりレーザーは【光魔法】か。でもこれは便利そうなのを覚えたぞ」
【光魔法】があれば、夜などの暗闇でも明るく照らすことが出来るし、よくあるRPGならば直接ダメージを与えられないアンデットやゴースト系のモンスターにも聖なるダメージを与えることが出来るだろう。他にも癒しの力みたいなので回復魔法も使えるかもしれない。これは便利だ。
そういえば【回復魔法】がスキル選択の時に見当たらなかったのだが、それも【光魔法】に分類されているなら納得だ。
これは今後の探索もより捗ることになるだろう……と一人にやにやしていると、探知に大きな反応があった。
どうやら私が何度か戦闘をしていたので、他のモンスターが寄ってきたらしい。
慎重に、こっそりと、相手を確認する。
すると遠くに、遠近感を無視するほどの大きさの、巨大な猪が見えた。
どれくらい大きいかといえば、ダンプカーくらいか? あるいはそれより大きいかもしれない。
ここが林だったから周りの木々にはそこまで被害は出ていないが、ここが森ならばそこらじゅうの木をバキバキと倒しながらまるで意に介さずのっしのっしと歩くような……重厚な威圧感がそこにはあった。
色こそ焦げ茶色だが、まるでどこぞの映画に出てくる主様のようなサイズだ。
しかも向こうは、間違いなくこちらを睨み付けて、ふごーふごーと鼻息荒くしている。
「こいつは……ヤバいな。どうしよう」
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