貴方に心を奪われて・・・
@aoka20011
貴方に心を奪われて・・・
うえーんっ!うえーんっ!
ある真夜中の日、私は泣き叫んでいた。理由は母と父に捨てられたから。もちろん私はイヤだ!と抵抗したが棒みたいなもので殴られたあと、気づいたら人気のない路地にいた。体は縄で縛られていて動くことはできない。
うえーんっ!うえーんっ!
あの頃の私は泣き叫ぶことしか出来なかった。この頃の私はまだ六歳、本当に辛かったと記憶している。そんななか、私を助けてくれた人がいた。
「おい、大丈夫か?今ほどいてやるから待ってろ。」
私と同じくらいの子が私を助けてくれたのだ。縄をほどいてくれただけでなく、私を安心させる為か無言で私を撫でてくれた。
「もう大丈夫だよ!大丈夫。これから病院に行こうか、ちょっと父さんっ!こっちきて!」
そのあとのことはよく覚えていない。気がついたら病院のベットで寝ていた。外を見ると明るくなっていたのは今も鮮明に覚えている。
「あ、!目を覚ましたんだ!良かったよ目を覚まして。」
助けてくれた彼がいた。横には大人の男性も立っていたのできっと彼のお父さんだと思った。体を起こそうとするが体が動かない。
「あまり無茶したらダメだよ、今は安静にしよ?」
そう言うと彼は私の手を握ってくれた。彼の手はとても温かく安心できる温もりだった。すると彼のお父さんは私に話しかけてきた。
「えーと、まず名前を聞かせてくれるかなお嬢ちゃん?」
「・・・・・・・零花、です。」
「じゃあ零花ちゃん、お家に戻りたいかな?」
「っ!いやっ!やめてっ!」
私は我を忘れて必死に叫んだ。もうあの家に戻りたくない。私にとっては悪夢のような場所だった。
「分かったよ零花ちゃん、なら僕たちの家に来ないかい?」
「え?」
「いやね、このバカ息子が君のこと気に入っちゃってさ。まあ退院までに考えてくれればいいよ。」
そう言い残すと病室から出ていってしまった。すると彼が私の手を握ってきた。
「なあ!もし俺たちが家族になったら俺のことはお兄ちゃんって呼んでよ!」
「お兄、ちゃん?」
「うん!僕は零花のお兄ちゃんになるんだよ!」
この言葉を聞いたとき胸の高鳴りを感じた。彼なら信用できると感じたからだろうか。彼はずっと私の手を握ったまま笑顔で見てくる。私は一瞬ドキッとした。心臓がドクっドクっとなりっぱなしだった。きっと私はこの瞬間“彼に心を奪われたのだ”。
「うんっ!なる!家族なる!」
「本当か!じゃあ自己紹介しないとな。僕の名前は壱花だ!今日から零花のお兄ちゃんになるんだよ!」
「うふふ、なんだか女の子っぽい名前だね。でもよろしくね、お兄ちゃん!」
いちか、いちか、壱花っ!その日からずっと彼の名前を心の中で何度も呼んでいた。私はもう理解していた。彼に、兄さんに一目惚れしていることに。
───大好き♥️兄さんっ!───
今は中学生三年生になり兄さんは高校生になった。久しぶりに兄さんと初めて出会った頃の夢を見た。私は今でも兄さんに恋をしている。この気持ちは色あせるどころかどんどん増している。
今すぐにでも抱きつきたい!兄さんの匂いを嗅ぎたい!できればキスとかも!そんな気持ちで朝を迎えた。
「兄さん起きて?朝だよ?」
「んっ・・・・・・もう朝か、おはよ零花。」
「うんっ!おはよう兄さんっ!」
隣で寝ている兄さんを起こす。私たちは子供の頃からずっと一緒に寝ているせいかこの歳になっても兄さんと一緒じゃないと落ち着かないのだ。どんなときでも兄さんを感じていたい。それが本音だけど。
「ほら早く起きて?京坂さんにまた怒られるよ?」
「優のやつ怒ると怖いからな、起きるか。」
京坂さんは兄さんの幼なじみで私達兄妹を支えてくれている。私も何度かお世話になっているので本当に頭が上がらない。
─────────────────────────────
「それじゃあ行ってくるよ零花。」
「うん!行ってらっしゃい兄さんっ!京坂さん、兄さんをお願いします。」
「うん任せて!それじゃあ零花ちゃんも学校遅刻しないようにね。」
兄さんたちを見送ったあと、私はいつものように寝室へ向かう。目的はもちろん兄さんが使っていた枕を嗅ぐためである。
「はぁ~~~~~♥️兄さんっ♥️兄さんっ♥️もっと私を求めてぇ~~~♥️」
他にも兄さんが着ていたものや使ったものでいろいろしたりしている。でも最近それでは満足出来なくなってきていた。
「襲ってもいいよね兄さんっ♥️私、もう我慢できないもん♪」
そんなモヤモヤした気持ちのなか私は学校へ向かった。しかし、この時事件が起こるなんて思わなかった。
私は授業中、急に先生に呼び出された。何の話かと思ったが先生の言葉に私はその場に倒れこんだ。
「零花さんのお兄さんね、今病院にいるんだ。車に轢かれてね。」
病院に着くとそこには京坂さんがいた。兄さんは今手術中らしい。私は一刻も早く兄さんの安否が知りたかった。
「ごめんね零花ちゃん、急に呼び出しちゃって。」
「いいんです、そんなことよりも何で兄さんが車に轢かれたのですか?」
「それは分かっていないんだ。轢かれたとき周りには人があまりいなかったみたいだし、運転手も乗ってなかったんだ。」
「乗ってなかった?じゃあ何で兄さんが・・・」
周りからみたら兄さんは不幸な事故にあっただけかもしれない。けど私は違和感を感じた。そもそも何故運転手も乗っていないのに車は動いたのか。それに周りは人があまり通らない道で起こった。何か第三者が関わっているようにしか思えなかった。
「零花ちゃんも違和感に気づいたんだね。でもね、こればっかりは壱花に聞くしかないよ。今は待とう、壱花の回復を。」
手術後、兄さんが病室に運ばれた。なんとか一命はとりとめたそうだ。だかしかし、私はある異変に動揺を隠せなかった。
「ねえ、兄さんの足は?兄さんの右足は?どうなったの?」
兄さんの右足が切断されていたのだ。あまりにも痛々しい光景に思わず言葉を失った。
「先生、壱花の足は?」
「左足は打撲だけで済んだんだけど右足の方は切断しなければならないほどひどかったんだ。」
「そう、ですか・・・」
どうして?何で兄さんがこんな目にあわなくちゃいけないの?なんで?
ナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ。
「零花ちゃん?大丈夫?」
ふと京坂さんの言葉で我にかえる。今はこんなことを思っていても仕方がない、兄さんの回復を待とう、そう思った。
兄さんが目を覚ましたのは翌日の朝だった。私と京坂さんは学校を休み、兄さんのお見舞いに来ていた。
「どうしたんだい優?零花?そんな悲しそうな顔をして?僕はこの通り元気だよ。」
「壱花、君は昨日なんであそこの道を通ったんだい?」
「・・・・・・ちょっとした寄り道だよ。この事故も俺の不注意だよ。だからこれは事故なんだよ。」
「本当のことを言ってくれ壱花。」
「本当のことって優、僕は嘘なんか」
「君が嘘をつくときは大抵右手で首を掻く癖がある。何年君のそばにいると思ってるんだい?」
それに関しては私は初耳だった。そういえば最近この仕草が多かった気がする。まさか兄さんは・・・
「分かったよ僕の負けだ。本当のことを話すよ。実はあそこに来るように手紙で呼ばれてたんだよ。」
「手紙の相手は分かるかい?」
「“いや、わかんないよ”。」
「うむ、壱花?まだその手紙あるか?」
「悪い、もう無いんだ。いつの間にか無くなってて。ごめんな。」
「いやいいんだ。それじゃあ俺は帰るけど安静にしてるんだよ壱花?」
「分かったよ。」
京坂さんが出ていったあと兄さんと二人きりになった。
「ねえ、兄さん?本当は誰が手紙を送ったのか分かるんじゃない?」
「・・・ああそうだよ。本当は分かるよ。」
「ならなんで京坂さんには言わなかったの?彼のお父さん警察官でしょ?なら言わないと。」
「そんなことしたら優が・・・・・・」
すると兄さんは震え出した。明らかにこの震え方は異常だ。私は急いで兄さんを抱きしめる。
「大丈夫だよ兄さん。怖がらないで。私がそばにいるから。」
「れい、か?ありがとうなこんな情けない兄さんの為に。」
「情けないなんて言わないで、それで、本当は何があったの?」
すると兄さんは話し始めた。いじめをうけていることに。入学式のとき、ある女子生徒からいじめをうけていた別の女子生徒を助けたことで恨みをかったらしい。最初はペンを隠されるなどその程度だったらしいが徐々に人数が増えていき過激になったらしい。
「それで最終的に兄さんの命を奪うと。」
「多分、そうだと思う。でも教育委員会に訴えても無駄だよ。彼女の親は国会議員だからどんなことでもなかったことにされるんだ。」
「そんなことって・・・」
私は許せなかった。私の兄さんをこんな目にあわせて。それなのに罪に問われないのはおかしい。私の中で殺意が芽生える。
殺す。絶対に殺す。私の兄さんをこんな目にあわせたんだ。絶対に殺してやる。
コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス。
「零花?大丈夫か?」
「へっ!?う、うん大丈夫だよ!兄さん。」
兄さんの言葉で我にかえる。きっと兄さんはそんなことしたって喜ばない。それは分かっているはずなのに胸の中から出てくる殺意がどんどん増していく。
「なあ零花?ごめんなこんな兄さんで本当に・・・」
「いいの別に!でも今度からちゃんと私達を頼ってほしいかな。」
「うん、そうだね。気をつけるよ。」
「気をつけるじゃダメ!絶対だよ兄さん!」
「わ、分かったよ。」
そのあと退院まで付きっきりで看病をした。心なしか兄さんが明るくなったように思えた。それだけ学校でのいじめが酷かったのだろう。本当に憎たらしい。私の兄さんに手を出してただですむと思っているのだろうか。いつか絶対“殺す”。
─────────────────────────────
退院後兄さんは慣れない義足を使ってリハビリをしていた。私は車イスで一生兄さんの世話をしてもいいのだが兄さんが自分で歩きたいという願望があるためそれを優先した。
「ねえ兄さん?そろそろ休憩しない?もう二時間はやってるよ。」
「ああそうだな、休むか。」
そして私が手渡した水筒を兄さんが口をつけて飲む。もちろん私も口をつけているので間接キスだ。この水筒はあとで保存しないと・・・
「なあ零花?散歩に行きたいんだか・・・」
「いいよ。それじゃあ車イスに乗って?」
「悪いないつも付き合ってもらっちゃって。いつか零花と一緒に歩きたいよ。」
「じゃあさ!歩けるようになったら私とデートしよ♪」
「そうだな、零花にはいつも迷惑かけてるし、いいよ。」
「ふふふっ♪それじゃあ行きましょう!」
私たちは外に出て散歩を楽しむはずだった。だかそれはある女たちによって崩壊する。
「あら?もしかして壱花くーん?なーんだ生きてたんだ!」
「ねえちょっと見てよ!足が無いよ、ちょーうける。」
いきなり兄さんの悪口を言いに来たメス豚どもが現れた。兄さんの震えかたを見て私は理解した。コイツらか。私の兄さんをこんな目にあわせたクズは。
「ねえ壱花くーん?足が無くなった気分はどうな感じ~?」
「あのっ!これ以上私の兄さんに話しかけないでください!」
私はたまらず怒鳴ってしまった。ダメだ。怒りが収まらない。それどころか殺意がどんどん増していく。
「は?もしかしてこいつの妹なの!?ははは!」
「とりあえずもう私の兄さんに関わらないでください。」
「は?あんた何様のつもりなの?そいつは私達の“オモチャ”なの。わかったらブラコンの妹さんは帰ってくれる?」
「っ!私の兄さんはあんた達のオモチャじゃないっ!ふざけないで!!」
「ちっ、ウザいよ本当に、一回痛め見た方がいいよ。」
その瞬間兄さんの悲鳴が聞こえた。兄さんをカッターで切りつけている男の姿があった。止めようとした瞬間に今度は私が男たちに体を押さえられた。
「その女好きしていいよ。でも殺さないでね、処理が大変だから。」
「へへっ今日は楽しめそうだぜ。」
私の首筋をなめる男たち。恐怖を感じた。体が動かない。私の後ろポケットにはスタンガンがある。そこまで手が伸びないのだ。なんとか、なんとかしないと。そんなときだった。
──お巡りさんっ!!!こっちですっ!!!────
「ちっ、警察か。行くよお前たち。その女は離しな。連れていくと面倒だ。」
離されたあとしばらく動くことが出来なかった。今回は誰かが助けてくれたがもし連れて行かれてたら・・・そう考えるとぞっとする。私の体は兄さんのものだ。兄さん以外の男の人には決して触らせたくない。そして私は兄さんのもとへかけよる。
「兄さんっ!!しっかりして!今救急車呼ぶから!」
幸いにも傷は浅く、入院も必要ないそうだ。本当に良かった。もし兄さんが死んだら・・・私もきっと死ぬだろう。
次の日の朝、京坂さんが慌てた様子で家にやって来た。
「零花ちゃん!SNSを見たかい?」
「いえ、見てないですが・・・何かあったんですか?」
すると一本の動画を見せてくれた。そこにはなんと昨日の私達が映っていたのだ。もちろん暴行の瞬間や私が取り押さえられる瞬間までバッチリと。
「この動画ね、昨日の夕方にアップされたんだけどすごい拡散されてね。既にテレビでもニュースになってるよ。」
「本当だ、しかも私と兄さんにはモザイクがされてるけど他の人たちはされてない。」
「それが原因でこの事件の首謀者の佐藤綾香とその事件に加担した国会議員の佐藤哲郎が今指名手配されているよ。」
そのあとの展開はとても早かった。佐藤綾香とその仲間はすぐに逮捕され、お金もしっかり絞りとれた。ただ一つ不満があるとすれば佐藤哲郎が逮捕されなかったことだ。そして学校側は兄さんに対してのいじめがあったことを認め謝罪した。驚いたのは他にも数名あの女と関わっていた人物がいたことだった。もしかしてあの時叫んだ人が拡散してくれたのかもしれない。
そして今、私は高校一年生になった。私はいとおしそうに“大きいお腹をさすりながら“兄さんに近寄る。
ねえ兄さん?絶対に離さないからね♥️うふふふふっ♥️
貴方に心を奪われて・・・ @aoka20011
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