SMILE
奈々星
第1話
僕は今行くあてもなく自転車を漕いでいる。
親と一悶着あったのだ。
非は僕にあって門限を守らなかったのが原因
僕は両親からあまりお小遣いを貰えなかったので友達と遠出をする時などは親からお金を貰っていた。
遊ぶ時は時間はあまり気にせずみんなとの時間を思いっきり楽しむようにしている。
みんなに水を差さないように門限のこともあまり口にしない。僕の家は厳しいようだがみんなは高校生にまでなると門限などなくなってかなり自由を与えられているらしい。
しかし僕はみんなに水を差さないように、とは言いながらも10時という門限をなるべく守ろうと、そのまま美味しいラーメンでも食べに行こうという二次会的なノリは断って1人で帰路に着くことが多い。
それでも門限は破っているので一人の帰路はいつも憂鬱だ。
家に着くと直ぐに言い合いが始まる。
門限なんて設けているのはうちだけだ!
うちはうち、外は外!
こんな言い合いがいつも繰り広げられていて
いつも僕が折れている。
親に生活費や学費の話を持ち込まれては勝ち目がないのは当然だ。
そうして僕は親からペナルティを課せられスマホを1週間ほど没収されたり、お金を数ヶ月の間一銭も貰えなくなったりする。
こういうことは僕が友達と某テーマパークや
某レジャー施設に行く度に起こる。
そして今回もそうだ。
いつもと違うのは僕が折れなかったこと。
僕は親との言い合いに決着をつけないまま一人、自転車で夜の街で風を感じている。
とても落ち着くのだ。
僕は友達とは仲良くやっていてムードメーカー的立場であるからスマホを取り上げられてみんなとの会話についていけないのがとても辛い。
全然お金を持っていないのに遊びにはよく誘われるので断る度に心が痛む。
これを読むみんなは自分でお金を稼げばいいと思うだろうがあいにく、僕の高校ではバイト禁止という呪いのような校則があるのだ。
僕はこうやってお金に悩む度に校則を破って自分で稼ごうかという葛藤を抱える。
しかしいつも勇気が足りず結局行動に移すことが出来ない。
こんな生活が長い間続いていたのでだんだん僕の性格は歪み始めた。
SNSを見れば、
今日はこんな所に遊びに行った。
今日はこんな美味しいものを食べに行った。
そんなことを世界に発信している人間には、
悲惨な死がなるべく早く訪れてくれることを願っている。
僕は高校受験を失敗して私立の併願校に通っている。そこには受験に落ちたくせに大して勉強もせず金ばかり浪費して量産型としての生活を送るバカ共が多い。
そんな奴にもなるだけ早く悲惨な死が訪れることを願っている。
クラスの男子たちはとても大切にしているが女子とは関わりを持たないし、男友達から誘われた遊びを断るのはとても苦しい。
理由を聞かれるとお茶を濁してしまう。
こんな生活が続いていくうちについに遊びに誘われることも滅多になくなった。
お金が無いとはいえ寂しい。
そんなところに舞い込んできた友達の誘いに久しぶりに乗ったところ両親と喧嘩することになったのだ。
暗い夜道を進みながら軽い気持ちで死にたいなどと思っている自分がいることに気がついた。
そんな初めての感情に歩み寄ってみると頭の中はその感情に支配され、いつの間にか死に方を考えていた。
首吊りは家でないとできない。
今すぐに実行したいから入水自殺しかないな。
この自転車の旅の目的がここで初めて決まり僕が知っている1番大きな川に向かった。
目的が決まってからはほとんど何を考えるわけでもなく淡々と自転車を漕いで河川敷まで来ていた。
最期に誰かの声が聞きたいな。
この時目的を決めてから初めて焦点が定まり
正気の自分が戻ってきた。
俺、彼女いたなぁ。
ここで正気に戻ってから初めて自分を思ってくれる大切な人がいた事に気づいた。
声が聞きたいとすぐに電話をかける。
「もしもし、どうしたの?」
「ちょっと、声が聞きたくて。」
「何それ笑、そんなこと今まで無かった笑」
「ごめん……」
「謝らないでいいよ、嬉しい。」
最後の嬉しいという言葉を聞くと心が洗われていくような感覚がした。
僕が彼女を喜ばせることができたのか。
考えてみれば中学校1年生の時、まだ純粋無垢な少年だった頃に出会いそれからバレンタインデーの時に告白され僕達は付き合い始めた。
それから僕からは遊びに誘ったりなにか行動をすることなく今まで約3年の間付き合ってきた。
彼女の誕生日にはプレゼントをあげたことは1回しかなくても彼女は僕に豪華なプレゼントをくれる。
お金が無いなんてカッコ悪くて口が裂けで言えないので何を買えばいいかわかんないやなどと友達に言ったら説教されたことも記憶に新しい。
まだ僕は死んで楽になっていい人間じゃない。
生きることが1番辛い。
死ねば楽になれる。
よくそんなことを聞くけど今考えてみれば僕はあの時あのまま死を選ばなくてよかった。
彼女のことを思い出せてよかった。
思えば僕を救ってくれたのはいつの日も彼女の屈託のない笑顔だった。
SMILE 奈々星 @miyamotominesota
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