悪魔の力で若返って青春やり直します

青キング(Aoking)

プロローグ


 天使と悪魔が共存する天上界にて、下界を鳥瞰する者あり。名をメフィリアフェレス。メフィストフェレスの娘にして悪魔である。朱色の短い髪にすらりとした手足を持っている。


 彼女に背後から擦れた声で話しかける者がおった。


「何を真剣になって見ているのだね?」


 年老いているが威厳の漂う、天上界の主だった。

 メフィリアフェレスは振り返るなり、おねだりの目を向ける。


「あっちの世界がどんな具合か、見に行きたいんだけど」


「お前の言うのはそれだけかい。いつも下界に行きたい行きたいばかりで、いつまでたっても悪魔の務めを果たす気を起こさないじゃないか」


 おねだりを聞き入れてもらえない彼女は、不服そうに下界を指さす。


「主様がもっとあいつ等に天の光をおやりになっていたら、もう少しはあいつ等も都合よく暮らしていたでしょうけどね」

「すまんのう、わしの力不足で」


 主は指摘されて情けない顔で詫びた。

 メフィリアは言う。


「無気力な人間はゴキブリというやつのように、這いまわってばかりいて、すぐ物の隙間に隠れてしまう。そうですよね、主様。わたしは無気力な人間というものが毎日苦しんでいるのを見ると、気の毒になってしまいます」


 ふむ、わかるぞと首肯して、主は彼女に訊く。


「お前、加藤信弘を知っているか?」

「あの、うだつの上がらない男だよね」

「さよう。あいつは不器用な生き方で生涯を無駄にしとる」


 主は人差し指をたてて、提案する。


「そこでだな。お前さんさえ承知するなら、下界に行ってお前の道に引き込んでやるといいのじゃ」

「いいの?」


 メフィリアは俄然、喜色を浮かべる。

 主は頷き返す。


「あいつが下界に生きている間は、お前がどう導こうとわしは止めん。人類は生きている間は迷うに極まったものだからな」

「それはありがとうございます。わたしは人類の幸福で満たされた魂が一番好きなの」

「よろしい。ではお前に任せておく。あいつの魂を、その本体から引き離して、お前の道へ連れて来てみい」


 メフィリアフェレスは主に礼のお辞儀をして、下界へ降りる支度をするためその場を走り去った。

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